第24話 女心は秋の空
新大陸は今いる大陸と地続きになってるんだけど、大陸を東西に隔てる断崖絶壁を乗り越える手段はないから、船以外では行き来する事ができない。
でも、歩路で行き来できるようになったんなら、これからどんどん国交が盛んになるんだろうね、何か特産品があれば今のうちに買っておきたいところ。
町を出て情報通り北東へ向かうと、高くそびえる山を掘りぬいた横穴の様な洞窟が見えてきた。
天井は低く道も狭くて、洞窟と言うよりは何だか隠れ家みたいで、レストランとかすれば流行りそう。
「お前さんたちも、ここを通るのか」
アタシより背丈は低いけど、筋肉隆々の木こりのおじさんに声を掛けられた。
相当くたびれているけど、戦士とお揃いの鉄かぶとがよく似合ってるね。
「うん、ここ通りたいんだけど…いいかなぁ?」
「構わんよ。先日、勇者たちが通っていった。船の王からの手紙をらったので道を作った。浮ついた人間だった。ワシは好かん」
「だよね、アタシも好かんのよ。女ったらしだし、平気で女の頬を引っ叩くヤツだよ」
「ふむ、それはいかんな。女に手を上げる男はだめだ」
「でしょ、でねでね…」
「商人行くぞ。長話してる場合じゃないだろ? 今日は特にな」
「あ… ごめんね。つい勇者の話になると… じゃおじさん、アタシ達行くね」
「出口はすぐだ。旅路を祈るよ」
おじさんが言う通り、洞窟は拍子抜けするほどあっさり終わりを迎えた。
出口らしき階段を見上げると眩いほどの光の塊が見える。アタシ達は互いに顔を突き合わすと、はやる気持ちを抑えきれず駆け足で階段を上った。
眩しさで視界が遮られたけど、徐々に目が慣れてきた。辺り一面、小高い丘と岩山に囲まれて、どこか殺風景な景色。でも…また新たな大地へ足を踏み入れたんだ。
「あっさりだけど、新大陸到着~!」
「前回に比べると遥かに楽だったな、いつもこうだといいんだが」
「楽ちん、楽ちん♪」
「なんにせよ三大陸目でござるな。此度は如何なる試練が待ち受けているでござろうか」
皆、新大陸を目の前に興奮冷めやらぬ状態だった。そこにコマドリのさえずる鳴き声が聞こえてくる。美しい声のする方を見上げて気付いたんだけど、もう空が高い。秋は目の前だ。
この夏は暑かったけど、おじいちゃんおばあちゃんは元気でやってるといいな。
少し感傷に浸った後、アタシ達は深く生い茂った木々の隙間を縫うように南へと向かった。
道中、毒々しい色したキノコの魔物、マージマタンゴが行手を遮ったが、武道家の一撃でマージマタンゴAは倒れた。マージマタンゴB、マージマタンゴDは戦意喪失したのか相次いで逃げ出した。
「ふふっ、怖気づいたでござるか。去る者は追わんでござる!」
「武道家かっこいい!」
「向かうとこ敵なしだな。ただ、反撃には気を付けろよ? 防具はその道着だけなんだし、今じゃメンバーで一番守備力低いんだ」
「配慮に感謝でござる戦士殿。たしかに、この道着も馴染んで動きやすくなってきた反面、少し痛んできたでござる」
確かに裾はほつれ、肘の部分は穴が空いてる。
「激戦に明け暮れる毎日だったから、武器も防具も痛んじゃうよね。武道家、次の町で買い替えよっか?」
「まだまだいけるでござるよ。それよりも拙者、宿では筋肉増強を行い、肉体強化に取り組んでござる、防具に頼らずともこの身を鋼鉄の如くで鍛え抜くござる!」
「だよね。武道家の胸板が前より厚くなってるよ」
「へぇ、よく見てるねぇ商人?」
「そ、そりゃパーティの健康状態とかは把握しとかないとさ? リーダーだもん」
遊び人の横槍に思わずドキッとしたけど、武道家は自分の持つ不安に対してしっかり対策を練っている。
アタシも見習わないとね。でもGはしっかり貯めてるからね。
新たな町に到着した。少し南にはもう海が見える、ほんのり海の匂いを乗せた潮風が心地いいね。この町にも定期船は来るのかな。
町には門番や衛兵は居なかった。そして、なにやら騒がしい。
「囚われていた息子が無事帰ってきた!」
「あの盗賊共を力でねじ伏せたらしい、でも無益な殺生をせず見逃したんだってさ。寛大なお方だ!」
「住処にしてた洞窟からも逃げ去ったって噂だぞ。って事は、もうあいつらがこの町を襲う事もなくなったんだ! 勇者様万歳!」
「もう行かれたのじゃな…。勇者様、何とも颯爽としたものじゃ」
皆、思い思いにバカ勇者を褒め称えていた。新大陸に着いて早々腹立たしい。
「何か分かんないけどバカ勇者が何かやったんだね。出会わなくてよかった」
武道家は不要と言ってたけど、防具屋を探して路地を曲がる。
「いらっしゃいませ! ここでは黒コショウを販売しております。いかがでしょうか?」
「へぇー、黒コショウを販売してるんだ。いくら?」
「はい、一瓶100Gとなります」
「そこそこの金額するんだね。バカゆうし… あ、あの勇者様もコショウを購入したの?」
「購入と言うか… 私と婚約者を助けて頂いたので、無償でお渡ししました」
「そうだったのか、助かって良かったな。ところで、そこかしこで勇者の活躍を耳にするんだが、良かったら詳細を教えてくれないか?」
「ええ。実は、私の婚約者が悪評高い盗賊に攫われてしまいまして、一人で救出に向かったのです。が…、すぐに手下に見つかり逆に囚われてしまいました。そこを勇者様一行に助けてもらった次第です」
「なんと! 店主殿は一人で向かわれたと申されるか? 勇猛果敢にござるな… 道中魔物どもには、さぞかし苦労されたでござろう」
「聖水をありったけ振り撒いてきたおかげか、魔物と出会わす事はなかったんです。 盗賊共の住処もここから近かったのも幸いしたのでしょう」
「今思えば無謀だったと反省しています。でも、私にとって婚約者は命よりも大事な宝物なのです」
「いいなぁ。いつかアタシもそんなに想ってくれる人ができるかなぁ」
「大丈夫だよ。私たちがリーダーの事想ってるよ」
「あ、ありがとう。ちょっと照れるね…。じゃ、黒コショウあるだけください」
「えっ! あるだけですが? 60程ありますけど…」
「あ、はいお願いします。大量購入なんで少し割引きしてもらえると嬉しいんだけど…」
「いえ、それは協力します。ただ… あの、良ければ用途をお聞かせ願えますか」
「将来、アタシの店を持ちたいんです。この黒コショウは目玉商品として棚に飾れたらと思って」
「そうでしたか、商人さんのお店に置いて頂けるなんて光栄です。湿度の低いところに保管すれば長期保存も可能ですので… あっ!」
「あなたっ!」
婚約者が店主の元に駆け寄って、人の目も気にしないで抱き合っていた。目に毒だけど、ホント幸せそうだね。
「ラブミー ラブミー ふふ~ん」
アタシは鼻歌なんか口ずさみながら、買ったばかりの黒コショウを道具袋に詰め込んでいった。
「商人さ、そのかばんに入っているものすべてと、商人をこれから先ずっと守ってくれる人。どっちか選ぶとしたら?」
「えっ、かばんでしょそんなの? 悩むとこ?」
「あちゃ~ それじゃダメだよ商人」
「ふむ…。芯がぶれぬでござる。女心と秋の空と言うでござるが、商人殿には当てはまらんでござるな」
「う~ん、確かに今はそっちは求めてないや。まだまだやりたいことも、行きたいとこも沢山あるし」
「人生は泣こうが笑おうが一度きりだ。旅路に花を咲かすも、色恋の花を咲かすのも商人の自由にやればいいさ、俺たちはどこまでもついていくだけだ」
「戦士ロマンチックだぁ…」
「旅路に花を咲かせまーす。皆お付き合いよろしく。戦士、武道家っ! 色恋の花を咲かすタイミングになったらよろしく♡ ね?」
戦士・武道家は逃げ出した!
「ちょっと! また逃げるか!」
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