第22話 友の証
「キャー!」
「えっ! 何っ? どこから声が!?」
姿は見えないけど重々しい声が響きわたる。動揺しまくるアタシ達と違って武道家は冷静だった。
「主殿でござるな? 問われるまでもなく… 我がものとしたいでござる。しかし拙者とて曲がりなりにも信念があるでござる」
「ほう… 信念か… 死の淵より命脈を繋いだな… 我が至宝を奪いゆく輩は数えるに及ばぬ… 我はその輩どもに呪いをかける。死に至り、死んですら消えぬ呪いを…」
「…危なかった! アタシもそうなってた可能性があったんだ!」
「落ち着けよ商人。武道家でなくても俺か遊び人が止めただろうさ。心配には及ばねぇよ」
戦士の一言に、アタシは今更ながらパーティの有難さを痛感した。
「今一度問う… 我は一介の民より王まで大成した。…しかし孤独であった、汝はどうか?」
「拙者は孤独とは無縁にござる。勇者殿がおらぬゆえ多少の不都合はあるでござるが、何時も協力することで乗り越えてきたでござる。一人では決して成せぬことも、皆と… 仲間となら容易に全うできるのでござる」
雄弁に語る武道家をアタシは呆然と見つめていた。改めて、いつも優しくて心から頼れる存在だと思い知らされる。
だめだ。また泣きそう…
「仲間か… 我は仲間と呼ぶに値する者はおらずして世を去った。…魔法のカギはもう手中に納めたのだな…」
「えへへ、私たち落とし穴にいっぱい落ちたけど手に入れたよ」
「魔物の目を通して其方らの歩みを見定めていた。…良いものなのだな仲間と言うのは」
姿形は見えないけど、今きっと寂しい表情をしているんだろうな。
「我が若かりし頃、武道家として日々精進に明け暮れた。しかし凡才ゆえその道を断念し卑しく金集めに奔走した…」
「そうでござるか… 拙者はG勘定は苦手にござる」
「凄いよ、アタシも商人やってるけど、王様まで出世したって話なんてそうそう聞いたことないよ」
「計らずも時勢に乗ったに過ぎん…」
「それはさておき、武道家ならば拙者の先輩でござる。姿は見えずとも光栄にござる」
「…ならば、後学のために我ができる事は一つしかあるまい。我が至宝を受け取るがよい…」
「しかし、これは主殿の…」
「構わん… 裏の世界にて門番と言われるヒドラの牙を素材に造らせた。旅商人の軽口に乗り金箔など貼り付けてしまったが…」
「ヒドラ… アカデミーでは聞いたことない名だな」
「でも、たしかに金だけで出来てたら攻撃力なんて期待できないもんね」
「ねぇねぇ、私たちと一緒に来ない?」
「ふっ… 我を仲間に誘ってくれると言うのか。しかし我は長く生き過ぎた… 身はとうに滅び、ここにあるのは血にまみれた魂のみ…」
「ならば、せめて拙者が愛用していた鉄の爪を貰ってはくれぬでござるか?」
「よいのか…」
「貰ってほしいでござる。時代こそ違えども、同じ武術の道を極めんとした同志として。また、友の証として受け取ってほしいのでござる」
「我を… この我を友と言ってくれるのか…」
「左様にござるよ。さぁここに収め入れるでござる」
武道家は鉄の爪を棺に入れた。武道家が入念な手入れを欠かさなかったのでずっと綺麗なままだった。
「…感謝する、心から…」
少し間があって、
「では…もう行くがよい。我はこの地を塞がねばならぬ」
「そうなのか… 仲間になったんだし、たまに会いに来ようと思うんだが…」
「安易に来る地ではい… 此処は呪いと血と死の匂いで澱んでいる… 我は友から賜りし宝物と、この地で静かに其方らの活躍を祈ろう…」
「では… アタシ達行きます。必ず魔王を倒してきますんで、その… 何というか応援をお願いします」
「ふむ…精悍な目をした者たちよ、其方らの行く末を願おう。さらば」
アタシ達は深く頭を下げた。名残惜しい気持ちはあるけど、もう行かなくちゃ。
「もう後ろは振り返るな。強き者は前を見据えて生きよ…」
「友よ… またいつの日か」
階段を上がりきったと同時に、階下で何かが崩れ去るような大きな音があり、階段の中腹まで残骸物で埋まってしまった。
アタシ達は振り返らない。
得たもの失ったもの、皆それぞれ感じたもの。旅を通してアタシ達は成長していくんだ。
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