第21話 日々勉強

アタシ達は来た道を戻り地下階への階段を探した。


初めての塔でカギを得られなくて、失意のとんぼ返りの時とは雲泥の差だね、アタシ達はカギを手に入れたんだ!


道中、わらいぶくろがアタシ達を嘲笑うかの様に、いちいち癪にさわる攻撃を仕掛けてきたけど、倒した後に落としたGの多さに驚き。G勘定してるうちにアタシの顔つきが変わったらしくて、武道家が注意を促してきた。


「商人殿… お気持ちは良く分かるでござるが、今はその…地下階へと急がねば…」


「へっ? も…もとより、そのつもりですけどっ?」


「商人… 目がGになってるんだ」


「うそっ!?」


「リーダー分かりやすぅ」


「う、うるさいよ遊び人っ!」


アタシは右手で顔をゴシゴシしながら、左手でしっかりGを袋へとしまった。


地下階への階段は分かりづらいところにあった。まさか建物内じゃなくてその周囲にあるなんてね、ホント日々勉強だ。


地下階はさほど広くはなく、ぐるっと一周できる構造になっていた。


うん、確かに意味ありげな場所だね。アタシ達は地面に散らばる骨や草を跳ね除け周囲をくまなく調査した。戦士が器用に大ばさみで草を刈ってくれたお陰で、探し始めて5分と経たないうちに


「みんな~ ここに階段あったよ!」


「え~… そんなあっさり見つかる?」


「なんだかな… ま、まぁ気を引き締めていこうぜ」


やっぱり罠なのかな… 古い香を焚いた匂いのする階段を降りるにつれ、もう悪寒に近い寒気を覚えた。こぶしに力を込め躊躇う気持ちを断ち切り、そのまま薄暗い一本道の通路を奥へ奥へと進んでいく。


程なくしてちょっとした広間に到着した。


否応なしに広間の中央にある棺に目が止まっちゃう。棺の下にはだいぶ痛んでるけど高級そうな絨毯も敷かれてた。


「ね… やっぱりアタシが開ける…んだよね?」


「皆で開けるでござる、商人殿一人に重荷を背負わすつもりはござらんよ」


「あ、ありがとう」


アタシ達は恐る恐る棺の蓋に手を乗せ、掛け声と共に奥へと押す。


ズズズと思ったよりは軽く動き、半分ほどずらしたところで、少し距離を置いてそっと中を覗く。


そこにはくたびれた包帯の上に、埃まみれの黄金の爪らしきものが置いてあった。

恐れる気持ちをため息と一緒に吐き出した。


「はぁ… 何もかもがシナリオ通り過ぎて、感動の言葉のひと欠片すら出てこないや。やっぱり罠でしょコレ」


「まぁそう言うなよ。まだ、何も気配を感じないけどな。取り上げた瞬間、建物が崩れるとかあるのか?」


「怖いって戦士っ」


罠なら毒消し草かまんげつ草で、呪いの類なら教会で対処できるだろうと、アタシはどこか楽観的に考えていた。


そして、皆が周囲を見張ってくれてる中、アタシは棺に手を入れ、黄金の爪を優しく持ち上げた。力には自信がつもりだけど、見た目以上の重みを感じた。そして、それを武道家に手渡す。


「…感じるでござる… くすぶって見えるが、これは紛れもなく伝説の武器と称するに相応しい代物でござる!」


「ははっ! やったな武道家! じゃこれは黄金の爪で間違いないんだな」


「恐らくそうでござろうな… されど… 戦士殿すまぬ。やはり、これは受け取れんでござる」


「なにか不穏なもんを感じるか?」


「それは拙者には分からぬでござるが… ただ、拙者は武道家であり盗人ではござらん。くわえて、母上より真っ直ぐに生きよとの教えでござる。己の信念を曲げてまで手に入れようとは思えんでござる」


「そうか…。 …あぁ、武道家らしいよ。お前がそうするって言うなら構わねぇ。俺たちは泥棒じゃない、構わねぇよなリーダー」


「えー!! い、いや… う、うん 武道家がそう言うなら… その、尊重しないとね」


「リーダー、ダメダメ。私たちは泥棒じゃないんだよ」


「だ…、だよね、そうだよね」


「拙者の思いを汲み取り頂き、まこと感謝にござる」


そう言うと、武道家は懐から布を取り出し丁寧に磨き始めた。アタシ達は無言でその仕草を見つめていた。


「この地で眠られる主殿、墓荒らしのような、不埒な真似をした事を心より詫びるでござる、まことすまぬ。罪滅ぼしにもならぬでござるが、埃まみれだったゆえ磨いたでござる」


本来あるべき輝きを取り戻した黄金の爪を、棺の中に納めた。


「汝に問う… 汝が手にしたのは我が至宝黄金の爪である。なにゆえ持ち去らん」

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