第20話 ピラミッド

新たな装備を身に付けると新鮮な気持ちになるね。戦士は鉄兜、鋼の鎧、大ばさみとほぼほぼすべての装備が一新した。

アタシと遊び人は身かわしの服に新調した。これがとっても動き易くて、薄手だから風を通し易くて涼しいの。快適快適。


さらに、おじいちゃんが言ってた黄金の爪を手に入れられたとすれば、とても大きな戦力アップに繋がるはず!


「そう言えば商人殿。昨日はなぜ、あの御仁への礼が10Gだったのか教えてほしいでござる」


「あ、うん。あのね、そもそも伝説と言われる武器の情報を、あんな易々と教えてくれるものじゃないよ。それこそ、ひっそりとした祠の防人や、どこかの王様だったりしないと。あんな街中で、オマケに向こうから声を掛けてくるなんて、ちょっとねぇ…」


「じゃあ、おじいちゃんが嘘言ってたの?」 


「んー、嘘じゃないかもしれないけど罠なのかな。黄金の爪を得ようとする者に呪いがかかるのか、または黄金の爪そのものに呪いがかかっているか」


「だよな、今思えばきな臭い話だ。そもそもあのじいさんが言ってた、途中で立ち去る者も多かったと言ってたが、少ないながらも話を最後まで聞いた奴は居たはずなんだ。階下に隠された階段の先にある王の棺の中って、こんな大盤振舞なヒントを貰ってるってのに、黄金の爪を手に入れたって話なんか一向に聞いた事ない」


「戦士凄い! 確かにそうだね!」


「ふむむ… 合点がいったでござる。ならば御仁は何故拙者たちに…」


「それは分かんねぇ。ただ、俺たちはそれを見抜いた、言うなら優位に立ってるんだ。リスクを冒す気はねぇが逆手にとってみようぜ」


「そうね! ここで怯むなんて商人の看板が泣くってものよ!」


「ひゅ~ リーダー逞しい!」


旅前の必須事項である、道具袋への薬草と毒消し草の詰め込み作業を済ませ、アタシ達は勢いそのままに、街の北にあるピラミッドのすぐ間近まで来た。


さほど離れていなかったけど、やっぱり汗だくになっちゃう。皆も汗を拭く中、戦士は大ばさみの練習に余念がなかった。言っちゃ悪いけど、使い勝手悪そうだな(笑)


ピラミッドって大きな石を乗せてるだけのシンプルな造りなんだ。でもこんな重そうな石、上の部分とかどうやって運んだんだろう。


やはり旅をするって楽しい。文化とか風習とか触れる機会が常にあるんだもの。


「これ、近くで見るととんでもなく大きいんだね、この前なんでこれに気付かなかったんだろ」


「ピラミッドも砂と同じ色でござる、言わば保護色でござるな。加えてこれだけ暑さゆえ、視界が狭まるのは致し方ござらんよ」


「なるほど」


ピラミッド内部は思った以上に涼しかった、直射日光に晒されないだけで、こうも違うものなんだ。


「珍しいな、手付かずの宝箱がゴロゴロしてら。せっかくだ片っ端から開けていこうぜ」


戦士が宝箱に近づき、手を伸ばそうとした。


「戦士! なんかこの宝箱開けちゃいけない気がする。待った方が…いいかも」


「あ…、実はアタシもなんか見るからにヤバい気配を感じてて」


「遊び人の勘と商人の鑑定眼の合わせ技ときたか… まさか、アカデミーで習った人食い箱ってヤツなのか。確か攻撃力はズバ抜けてるんだよな。この鋼の鎧と鉄兜の性能を確かめたい気もするが…やめておこう。わざわざ虎の尾を踏む様なマネは、俺たちのスタンスじゃねぇ」


「で、ござるな。君子危うきに近寄らずと言うでござる」


「まぁ、ピラミッドに入るだけで、十二分に危険なんだけど」


「商人殿、それは手厳しいでござるよ」


アタシ達は宝箱には目もくれず、階段を目指した。


2階に上がると、やたらとマミーとミイラおとこが行く手を遮ってきた。


「痛ーい! なんで、大ケガしてる魔物があんなに強いの?」


「遊び人殿平気でござるか!? ただ、あ奴らはケガして包帯を巻いている訳ではないのでござる」


「じゃなんで?」


「…………」


「戦士?」


「…………」


「ふふん。あのね、ミイラってのは本来、遺体を生前に近い姿で保管する方法なのよ。ただ、内臓だの脳だのは抜いちゃうのね。で、防腐処理もしっかり行うから、分解されずに保持できるのであって…」


「武道家! 横のマミーに気を付けてっ」


「任せるでござるっ」


「いや、聞いといて酷くないっ?」


道すがら、分岐点があるものの、ほぼほぼ一本道となっていて、緩やかに上がったり、下がったりと勾配のある道を注意しながら歩いた。

石と石の継ぎ目に足を取られて転ぶこともあったけど、魔物たちも同じように転んでいた。


でも一度転ぶと次はちゃんと飛び越えてくるんだから、魔物にも学習能力があるんだね! 驚きだ!


さらに階上へ。


「あ! これが石の扉か! これ鍵穴もないし、押してどうこうなりそうな代物じゃないね」


「どこかに扉を開く仕掛けでもあるのか?」


周囲を確認すると、


「あ、ここ行き止まりか…ん?」


行き止まりと思いきや、目線の高さにボタンがあった。


「押しちゃう?」


遊び人がニヤッとして言った。


「商人殿、いかがするでござる?」


「そうね、押しちゃえ遊び人」


「オッケー」


遊び人がボタンを押すと同時に床が抜けた。


「わー!」


落ちた場所は、先ほど通った2階の細い道だった。


「ボタン正解じゃないよね…きっと、間違えたんだろうな」


「おそらく、あの扉の向こうには魔法のカギがあるんだ、一筋縄ではいかないのは当然だろうな。とりあえず、再び上の階を目指そうぜ」


一縷の望みを賭けて確認したが、石の扉はしっかりと閉ざされたままだった。

周囲をくまなく確認したら他に3つのボタンが見つかって、合計で4つのボタン。


「おそらくでござるが… 4つの内1つが正解ではなく、組合せによって開錠されるものと踏むでござるが…」


「うん、そうだと思う。床が抜けなければ正解で、次のボタンを押すの繰り返しかな」


「あ、じゃあさ、皆がそれぞれ4つのボタンの前に立って順番に押してみたら? 落ちない人が正解のボタンでしょ」


「遊び人っ、それしちゃうと皆バラバラに落ちちゃうよ! 戦士と武道家はいけるかもしれないけど、アタシ達は一人じゃ魔物に太刀打ちできないよ」


「あちゃぁ、そうだよね。じゃあ、次どこのボタン押す?」


一蓮托生の元、再度ボタンをおした。と、瞬時に抜ける床。


「わー!」


3回目のボタン・チャレンジを前に議論は過熱。


「違う違う! さっき西の東を最初に押して床が抜けちゃったから、次は西の西か、東から攻めないと」


「東の東はさっき押したでござらんか? 確かそこも床が抜けたでござろう」


「だから、東の西か西の東を押すべきだろ? なんで西の西なんだ」


「いや、でも西の西ってそれっぽくない? 端から押して中を押すでいかない?」


「でも、西の南ってさっき押したじゃん、やっぱり戦士が言う東の西か西の町でいこうよ」


「しかし、西の町は商人殿の言う通り、西の村から押すが無難でござろう?」


「西の村って、東の城を先に…あれ? 何言ってんだろ?」


「ダメだこりゃ」


例によって抜ける足元。


「ほらっ! 違うって言ったじゃーーん!」


こんな感じで、ボタンを押しては階下に落ちる事19回目、重く閉ざされた石の扉は根負けした様に大きな音を立て開いた。


扉の奥には、魔法のカギが豪華な台座の上に置かれていた。


「やったね皆! とうとうカギを手に入れた!」


「おう、これで勇者の後を付ける様なマネともおさらばだ」


「拙者もお役御免でござるな」


「やった~!」


初めて手に入れたカギを、大事に道具袋に詰めながらチラッと皆の顔を見渡した。やはりまだ気になっていることがあるようだった。


「黄金の爪だね… 勿論行くよ。まだ薬草も毒消し草も十分にあるから、このまま行こうか!」


「おー!」


伝説の武器…。アタシ達は高鳴る好奇心を胸にピラミッドの階下を目指した。

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