第19話 原理は分からないが…
目指す砂漠の城は、先日断念した場所より更に西にあった。
あれから更にレベルを少し上げだんだけど、それでも地獄のハサミが現れた場合は、全力で逃げる事を頭の真ん中に置いてたけど、結局出くわす事もなく、あっさりと砂漠の城下街にたどり着いた。
「ちょっと拍子抜けだったね、でもあの緑カニに出会わなくてよかったよ」
「対策が万全だと、案外肩透かしを食うものでござるよ」
「あ、それなんか分かるかも。よし、それはさておいて… まずは武器屋に行こうか、しっかりGも貯まったし、ピラミッド攻略に向けて武器と防具を新調しよ~」
「おー!」
街の案内図を眺めていると、後ろから声を掛けられた。
「おお、そこを行くお方。時間は取らせん、ワシの話を聞いてゆかぬか?」
「いいよおじいちゃん、なにかな?」
「わずかばかり酒代を頂くがよいかのぅ?」
「ええ~ おじいちゃん、話するだけでG取るの?」
「ふぉふぉふぉ、地獄の沙汰もG次第と言うでな」
「うん、G払うから聞きたい。その代わりこっちで値踏みしていいかな?」
「ほう、聡明な娘さんじゃ、ワシはそれで構わんよ」
おじいちゃんは長く伸びた真っ白のひげを、さすりながら続けた。
「では語るとしようか。まず、ピラミッドに魔法のカギがあるのは知っておるな?」
「そうなんだよ、じいさん。俺たちどうしてもそのカギがほしいんだ」
「じゃろうな。ピラミッドの奥深く眠るカギを得まいとする旅人が、世界中のありとあらゆるところからこの地を訪れるんじゃ。この砂漠で囲まれた街が潤い、活気で満ちておるのはそのせいじゃ」
「そうだよね、すごく大きな酒場があったもん。酒場の大きさで、その街が元気かどうかわかるんだよ」
「さすが。餅は餅屋だね」
「ふぉふぉ、なるほどのぅ。確かにこの街の酒場は、少なからず名が通っておるぞい」
「御仁、話を戻すでござるが、ピラミッドには番人なる者が、魔法のカギを守っているでござるか?」
「カギを持ち帰った者が言うには、ピラミッドの奥深く石の扉を越えた先にカギがあるそうじゃ」
「ホント!? やった! ならアタシ達にもチャンスがあるね!」
「原理は分からぬがカギは何度も蘇る。ただし、一度手中に納めた者が、再びそこを訪れようと、カギは見つからないらしいのじゃ」
「そうでなきゃ、何人もこの地に来るハズないもんね。なんでカギが蘇るか原理は分かんないけど」
「なるほど…、原理は分からないでござるが、拙者たちも手に入れる機会はあるでござるな」
「いや、蘇るって奥深いな… 原理は分からないが…」
「もういいじゃん! 手に入れるチャンスがあるって分かれば」
「あぁそうだな。じゃそろそろ武器屋に向かうか?」
「待って! まだ話は終わっていないよ」
アタシは皆を制して言った。おじいちゃんは、ちょっと口元を緩めて
「ふむ、恐るべき鑑定眼じゃな。ここまで聞くや否や、立ち去る者が多かったのじゃが…」
「だってこの内容だと、余所で聞けそうな話に少し尾びれが付いた程度だもん。Gを取るならもっと深い話が聞けると思ったの」
「そんなものか?」
「それだけGには重みがあるものなのっ」
「続けようかの。ピラミッドには…魔法のカギにも勝らずとも劣らずの宝物が眠っておるのじゃ!」
「ええっ! 魔法のカギにも劣らないお宝!?」
アタシの目が光る。
「御仁、その宝物とは一体っ!」
「其方は武道家じゃな? ならば黄金の爪の名は聞いたことがあるじゃろう」
「お、黄金の爪となっ…!? しかし御仁! それは伝説上の武器でござろう? 世には存在せぬものと」
「遠く昔の話、この砂漠地帯全域を手中に収めた王が、その威信の証と旅商人に作らせたと言われる武器じゃ」
「じ、じゃ、それって実存するの?」
「無論。ピラミッドの階下にある秘密の階段の先には王の棺が置かれており、そこに黄金の爪は眠っておる!」
「ホントなの!?」
「マジか!? そ、そんな伝説の武器のありかを簡単に話していいのかよ?」
「なに構わんよ。爺の戯言と思って聞いてくれればよい。信じるも疑うもお前さんの自由じゃ」
「…おじいちゃんありがとう。これは約束のお代」
そう言って、アタシは道具袋から10Gを渡した。
「10G? 商人… ちょっと少なくない? ケチケチしないでもっと渡しても良いんじゃない?」
「商人殿、拙者もそう思うでござる。伝説の武器の情報料としてはいかがかなものか…」
「遊び人、武道家。まぁリーダーが決めた事だ。素直に従っておこうぜ」
戦士は気づいてくれたかな?
「なにワシは良いよ、そこの娘さんが値踏みするという約束じゃったからな。これでも安酒なら十分飲めるわい」
アタシ達はその場を離れ、武器屋へと向かっていった。
老人は酒場へと歩を進め、辺りに人の気配が無くなったのを確認し、
「のう、業突く張りの愚王よ… これでワシは万の者に話をしたぞい。さっさと解放せぃ」
誰ともなくそう訴えた。すると、目の先にある廃屋の窓におぞましい骸骨が浮かび上がった。
「くっくっく… 貴様はあの時と何一つ変わっておらぬな。やはり咎人は己の事しか見えておらぬわ」
「好きに言うがよい。200と有余年、この世には未練の欠片すら残っておらぬ。己を案じて何が悪い」
「まぁ良かろう。絶え間なく我が元を訪れる者共に、いささか辟易としていたどころだ。もっとも、その者共の誰一人として生きてはおらぬがな。貴様の吹聴がその全てをミイラとさせたのだ」
「お前がそうさせてのではないか! 墓の所在を万人に告げるまで、決して死なぬ呪いをかけたのはお前じゃ!」
「何を言うか。ミイラとなり我に仕えるか、不死の語り部となり万の者に伝えるかの問いに、後者を選んだのは貴様であろう」
「ぐぬ…」
「貴様は己の身の可愛さあまり、前途ある者共の未来を葬り去ったのだ」
「ぬかすがよいわ… 所詮、お前など王の器ではない。現にお前が病に倒れ命尽きた時、心からお前を想った者はおらんかったじゃろうが」
「…………」
「ふぉふぉふぉ、図星じゃな。最後の最後に一泡吹かせてやったわ。ならもう良かろう、ワシを殺せ」
老人の体が一瞬光ると、ボロ着とさっき商人から得た10Gだけを残して消え失せた。
「安い墓標だ、貴様に相応しいな。忌々しい… 盗人風情が下らぬことをほざきよるわ」
埃っぽい砂風に、ボロ着が空を舞った。
「先ほどの連中が我が元を訪れるか否か。咎人ならば、爺と同様、呪いをかけるだけよ。くっくっく…」
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