第17話 世界はこんなにも美しい

アタシ達の戦略は無理は厳禁、危険を感じたらすぐ街に引き返す事を徹底する。そして体力を回復したら、また戦地に戻って、ひたすら地道に敵を叩くの繰返しだ。


時間はかかるけど、これを厳守とする事でどんどんレベルは上がり、呪文が使えないハンデをもろともせず、新しい大陸もかなり進行できた。全員の装備もかなりグレードが上がって、どこから見ても手練れのパーティに成長したと言えるんじゃないかな。


…でも、勇者不在のパーティに対して、好奇や軽蔑の目は、どの街、どの村に行っても変わらなかった。


「まぁ慣れたけどな。ただ、世界を救いたいって気持ちは嘘じゃないのによ、面白くねぇな」


戦士は頭の後ろで手を組みながらそう呟いた。アタシがそれに合わせた。


「ホント、勇者の価値ってなんなんだろね。きっと居るってだけで絶対的な存在なんだろうな」


「ほぉ~ よく分かってるじゃないか?」


鼻に掛かる声が背後から聞こえてきた。


「どうやったか分からないが、よくここまで来れたな。くっくっく・・・ 女の武器を活かしてってか?」


「ホント何も変わってなさそうでなによりだよ、(バカ)勇者様」


「お前の減らず口も相変わらずなんだな、ますます気に入らないな」


「ふ~ん、で、どうするの? また昔みたいに引っ叩くの? ん~?」


「なんだと…」


(バカ)勇者がアタシの前に歩み出た。が、それを遮るように脇から、戦士と武道家が立ち塞がった。


「おっと、それ以上うちのボスに近づくなら、それなりの覚悟をしてもらおうか」


「今宵は、この鉄の爪が血を欲しているでござる」


「な、なんだお前ら、この女商人の肩を持つってのか?」


「肩どころか… リーダーの為なら、素っ裸で毒の沼地に飛び込むくらいの覚悟はできてるよ」


「右に同じくでござる」


「やれやれ… 随分頭の悪い戦士や武道家が居たもんだな。お前らあれか? そこの女二人の色香にでも惑わされたのか? 馬鹿どもめ… まぁ… そんな事どうでもいい。言っておくが、この先ずっと、勇者不在でいつまでも旅ができると思うなよ」


「このっ…!」


アタシは戦士の怒りを制して、


「できるっ! 現にここまで来たんだ! アタシはあんたと違う、勇者って肩書きだけのあんたなんかとね。あと… アタシの悪口はいい、でも他のメンバーの悪口はやめて! 何も知らないくせに… アタシの自慢のパーティなの!」


感情的になっているのは分かるけど、止まらなかった。


「くっくっく… 言いたい事はそれだけか? くだらない御託は沢山だ、さっさと目の前から… いやここから消えろ!」


いつの間にか、町の人々達が私達を取り囲む様に集まっていた、そして皆一様に口を開いた。


「貴様ら! 勇者様に逆らうのか!」


「あんた達に何ができるって言うの!」


「無礼な口叩きおって! すぐさまこの村から消え失せぃ!」


四面楚歌… アタシはなす術もなくただ小さく呟いた。


「戦士、武道家、遊び人… ごめんね、別の街に行こう?」


「そうだな… ここは居心地が悪い」


「夜風に当たりながらの散歩もおつなもんでござる」


「お散歩、お散歩~♪」


背中に突き刺さる軽蔑の視線を掻い潜り、町の外れまで来た時、一人の女性に声を掛けられた。


またも罵倒されるのかと思ったが、何か訴える様な悲痛の表情に、アタシ達は歩みを止めた。


「商人さん… 気分を悪くさせてごめんなさい。大きな声では言えないんだけど、勇者様が至上主義の世の中だから、それを嵩に着て、本気で世界を救う気がない勇者様が居る事に、本当は皆気付いているの… でも私達はそれを黙認しちゃってる…」


アタシ達は黙って女性の話を聞いていたが、いつの間にか、女性の後ろに複数人、村人が集まっていた。


「毎日… 毎日、身体中が傷だらけになるまで魔物と戦って、それでも、お互いを労って前へ前へと進んでいく姿を見て思ったんです。私達が心から必要としているのはあなた達です! 本当にありがとう!」


「あ、わわわ… あ、ありがとうございます!」


「頑張れよ! 応援してるぞ!」


「おねえちゃん、魔王を倒してね」


思いもかけない激励の言葉に、ただ呆然と立ち尽くし、動くことすらままならない。


「よかったな商人」


「一生懸命は誰かが見てくれているものでござる」


「えへへ~ 嬉しいねリーダー」


遊び人が、後ろから優しくアタシの両肩を叩いた。涙腺を守るダムは決壊し、涙が止まらなくなったアタシを皆が優しく包んでくれた。


「嬉しい… アタシ… アタシ…皆に出会えて本当によかった…」


「商人…」


普段はあっけらかんとした遊び人すら、商人の純粋な気持ちに、思わずもらい泣きしてしまった。


「おーい、そこのお嬢様方、夜道は危険だからな、俺たちにエスコートさせてくれよ」


「拙者… 命に代えても御二方を守るでござる、安心召されぃ」


「二人ともありがとう! 道案内お願いっ!」


結局、真夜中に村を出る事となったが、自慢のパーティーと初夏の夜風が優しく頬を撫でてくれた。


こみ上げる涙を袖で拭い、鼻の頭を強く擦った。


もう泣いてなんかいられない。


アタシ達を必要としてくれる人の為、歩みを決して止めない。


空はいつもより澄み渡り、月は碧く、遍く星々が鮮やかに瞬いている。明日もきっと晴れるのだろう。


世界はこんなに美しい、旅に出て本当に良かった。

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