第16話 新大陸はガンガンで
小一時間は語り合っただろうか、随分重くなった腰を上げ、埃で汚れたお尻を軽くはたき、アタシ達は小屋を後にした。
いつの間に夕方になっていたんだろう、洞窟内に居ると時間の概念が失われるね。
ただ、夕空は、紫と青と赤とが入り混じった不安定な色合いだけど、妙に心を落ち着かせた。それを背景に巨大で重厚な城が眼前に広がっている。なんとも絵になる光景だね。
自らが持っていたものすべてを出し尽くし、そのすべてが噛み合い重なり合って、アタシ達は新たな大陸へと到達する事ができたんだ。
声高らかに断言したい! 誰一人が欠けてもここにはたどり着けなかったと。
…あー、だめだ… 目頭が熱くなる。知らなかったよ、アタシってこうも涙もろい人間だったんだ。
「やったな、商人」
「天晴でござる」
「リーダー、もってるねぇ」
「みっ、皆のお陰だよぅ!」
服の袖で涙を拭い頑張って平静を装うけど、どうにも声が裏返っちゃう。
「リーダーべそかきだなぁ」
「遊び人殿。商人殿はそれだけ苦労を重ねてきたのでござるよ。リーダーの肩書きは、商人殿に必要以上のプレッシャーをかけているのでござる」
「だな。俺たちは目に見える困難に立ち向かうだけだが、商人は勇者の居ない事に対する偏見の目や、重圧とか、目に見えないものとも戦ってきたんだよ。察してやってくれ、遊び人」
「そっか…、ごめんねリーダー。私バカだから、感じた事そのまま言っちゃうの」
「いいのいいの遊び人。違った道を選んだのアタシだから、苦労しても当たり前だと思ってる。でもね、全然苦じゃないの。少しづつ成長して、少しづつ前に進んで、少しづつ夢に近づく。今はその『少し』がホント楽しいの」
「そうか、そう言ってもらえれば、俺たちも冥利に尽きるってもんだよ」
「戦士殿に同意でござる。拙者、命を懸けて皆を守るでござるよ」
「私は、えっと… 皆と魔物を笑顔にするよー」
「あ、遊び人殿… できれば戦いの最中は集中してほしいのでござるが…」
「え、無理だよ?」
「ぶははっ! 遊び人、開き直るなよっ」
ああ… 大袈裟でもなく、アタシはきっとこのパーティに出会うために生まれてきたんだ。
やはり入城の際は、門兵に説明を求められた。そりゃそうだよね。
またも必殺の古文書を頼りに、一から説明を行う。ただ、不思議とうまくいくと感じていた。ここまでの道のりで経た経験は、アタシに自信も与えてくれたみたい。
で、時間は少々要したものの、無事、城下町へと足を踏み入れる事ができた!
そろそろ日も暮れだしたというのに、町は未だ活気に溢れ、大きな店舗から小さな露店まで、賑やかな声が飛び交う。
「わ、わ、うわ~ 前の大陸で売ってる道具と全然違う! すっごい!」
「さすがは商人だな、目が輝いてら」
「ほぉうっ! これが鉄の爪っ! ふーむ、いつかは身に付けたいものでござる…」
「武道家もかよ、しょうがねえな。…って、おお! こ、これが鋼の剣か… 身に付ければ、俺も一端の戦士に見えるんだろうか」
「むむむぅ… これはお値段がギガデインでござる…」
「ははっ、何言ってんだよ武道家、…ま、確かに今は買えそうにないけどな。うちのリーダーが頑張ってくれてるから、きっと近いうちに買ってもらえるさ」
「そ、そうでござるな、目標がある故に、拙者たちもまた頑張れるでござる」
そう言いながらも、目の前のご馳走にありつく事ができず、二人は落胆のため息をついた。
「うん? 二人ともいいのあった?」
「あっ、あぁ…まあな」
「へぇ~ じゃ買っちゃおうよ?」
「買っちゃおうって、軽く言うなよ、どっちも1000G以上すんだぜ」
「それぐらいなら、あるって!」
「はっ? あるわけないだろ。途中の宝箱だって、勇者達が根こそぎ開けていきやがったし、道中のモンスターが落とす宝箱なんて、精々薬草か毒消し草くらいなもんだったろ? 商人が道中に余分に拾ったGだって、そこまで多くなかったはずだ」
「これでもか~!」
アタシは、これでもか~とGを詰め込んだカバンを見せた。
「ま、眩しいでござる。これが眩しい光ってやつでござるかー!」
「違うってのっ。前の大陸でさ、綿の最盛期に大量購入していたの。あそこは綿の生産が盛んだから値段なんか知れてるけど、ここは土壌が合わないせいか、ほとんど綿が取れないって知ってたのよ。で、さっき全部売ってきた」
「すげぇなっ! で、で、いくらになったんだ?」
「大体4000Gくらいになったよ」
「商人すご~い」
「恐れ入ったでござる、まさに水を得た魚でござるな」
「安く仕入れて高く売る。是商売の基本也~」
「まったく、うちのボスはすげぇよ!」
「ふふふ~ん、褒めて褒めて、私褒められると伸びるたちだからね、ささ、お二人さん、これ渡すから早速買っておいでよ。遊び人も私と一緒に防具屋行こ~」
「わ、分かった!」
重いG袋を持ちながら、強張った顔つきで武器屋の店員に声を掛けた。
「んっん~、て、店員さん、その鋼の剣をもらおうか」
「せ、せ、拙者はそこの、鉄の爪を頂こうか…でござるよ」
「お買い上げありがとうございます。すぐ装備なされますか?」
「あぁ、お願いしようか」
「きっとよくお似合いですよ」
差し出された武器の重量感に、二人して鳥肌が立つ。お互い、それを茜色に染まった空にかかげ、触れるくらいにそっと重ねる。これから戦いを共にするパートナーを満足げに見惚れた。
「おおー 二人ともよく似合ってるよ! かっこいい!」
「そ、そうか?」
「おだっ、煽てるものじゃない…でござるよ」
「アタシも遊び人も防具のいいの揃えちゃったし、暫くは贅沢しないでお金貯めます、協力よろしく~」
「任せろっ! どんどんG稼いで、この新しい大陸でもガンガンレベル上げていくぞ!」
「ガンガンでござる!」
「ガンガン~!」
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