第15話 扉はこん棒で、旅の祠は楽しい
木の陰から、勇者の動向を見守ったが、嫌いな奴が何をしてようとイラつかせるものだね。
何やら女僧侶に向かって喋ってるようだけど、どうせつまんないこと言ってるんだろうな、スタスタ歩け。
やがて、勇者一行は大きな扉の間へと到着した。
勇者は袋からカギを取り出し、鍵穴に回しこんだ。すぐさま、ゴゴゴと重い音を立て扉が開く。
(バカ)勇者一行は、そのまま奥へと歩みを進めていく。ややあって扉はゆっくりと閉まり始めた。
「武道家っ! おねがい!」
「任されたぁっ!」
武道家は電光石火のスピードで扉に向かい、扉と壁の間にこん棒を差し込んだ。
そして、武道家がその扉の隙間から(バカ)勇者一行が、角を曲がるのを確認したのち、集合の合図を出してくれた。
アタシ達は即座に武道家の下に駆け寄り、
「せえ~の!」
一斉に扉を押した、力の限り。すると、ぎぎぎぃと重い音をたてながら、扉は再度開ききった。
アタシは思わず、得意満面の顔を浮かべながら、
「ね、ね、何とかなるもんだよ!」
「ホントだな! すげぇよ商人」
「まったくでござる、この様な力技など、まず思い付かないでござるよ」
「うふふふ~。ちなみにこん棒はあと5個あるから、折れても平気だよ」
「・・・・・・・・・」
再度、バカ勇者と一定の距離を保ちつつ、ドキドキしながら洞窟の更に奥へと歩みを進める。
出くわした魔物は武道家と戦士が速攻で片づけてくれた。
アルミラージやおばけありくいなど初見の魔物も多数いたが、こっちは今日という日にすべてを賭けているんだ、臆してなんかいられない。
洞窟内では、魔物の叫び声がかなり響く為、断末魔の声を上げさせる前に完全にとどめを刺す事に徹した。
また、道に間違えたバカ(勇者)が戻ってきた時には、全力で物陰に隠れる事で難を逃れた。武道家が天井に張り付いて、その場を乗り切った時は声を殺して笑った。ヤモリみたい。
バカと鉢合わせの危険、難敵の魔物と、苦労が絶える事はなかったが、階段を一つ越えるごとに、魔物を一匹しとめるごとに、新大陸へと近づいているという実感が、アタシ達を勇気づけた。
「おっ、どうやらここがゴールの様だな」
アタシ達が全員で入ると、狭く感じる部屋の真ん中には、アカデミーで学んだ旅の祠と言われる小さな泉があった。
違う場所同士を結ぶ、不思議な泉。どんな原理でできてるんだろう。なんせ旅の祠って名前は言い得て妙だね。
「この泉に飛び込むんだね… 溺れたりしないよね? なんかちょっと怖いかも…」
「リーダー、先行ってよ~」
「遊び人が行ってよ、アタシ最後でいい、アタシだって怖いもん」
「そんなぁズルいよ、仲間を失う事より怖いものなんてないって、言ってたじゃん」
「やっ! ちょ、ちょっと 遊び人! このタイミングでそれ言う?」
顔を真っ赤にしたアタシは、反射的に遊び人を軽く押した。
「えっ!」
同じく反射的に、遊び人はアタシの手を掴んだ。
「えっ!」
商人・遊び人「うわぁ~」
アタシ達はそのまま旅の祠へと飛び込むかたちとなった。
戦士・武道家「うわぁ…」
周りの景色が大きく歪んで、一瞬目の前が真っ暗になったが、ぼやけた景色にじわじわとピントが合ってきた。胸に手を当て深く呼吸して回りを見渡すが、どうやら小さな掘っ立て小屋のみたい。
少し間があって、戦士達も祠から飛び出してきた。
「う、うお… すげぇなコレ、もう、新大陸に着いたのか?」
「これは… 驚きでござるな… なんとも奇妙な感じでござる」
戦士達の言葉そっちのけで、興奮冷めやらないアタシは
「今のすごいね? ドキドキしちゃったよ」
「そうだね、ね、商人、もう一回入らない?」
「いいねぇ遊び人さん! もう一回行きますか?」
「行かねぇよ! 旅してりゃ、また旅の祠に入る事になるんだろうから、遊んでねぇで先に進むぞ! 勇者たちを見失ったらどうするつもりだ」
「ぶーぶー」
「ぶーぶー」
「ぶーぶー」
「なんで武道家もそっちに加わってるんだよ・・・」
古く痛んだ小屋の窓は、くすんで一部が割れていたが、そこからは確かに城が見えた。
あ、着いたんだ… アタシ達… アタシ達はやったんだ…。思わず床にへたり込む。
「お、おい商人、大丈夫か?」
「商人殿?」
「や、平気。…安心したのかな? 疲れがどっと押し寄せてきたみたい」
「そうだね。朝も早かったし、私も疲れちゃった。早くお風呂に入りたいや、自慢の爪もボロボロだよ」
「遊び人殿も、大活躍だったでござるな。落とし穴に落ちて、勇者殿を見失ったとき、見事、道を示してくれたでござる」
「えへへ~、勘だったんだけどね」
「アレ勘だったのかよ! まぁ、今となっちゃ結果オーライか。それより商人の勇者嫌いは異常だよな」
「どうしても、あの勇者だけは… 初対面でいきなりアタシを奴隷扱いしようとしてきたんだよ? 更にその後、平手打ち。あ、でも、あの時出た会心の一撃は気持ちよかったなぁ」
「勇者に顔面パンチした女商人か… こりゃアカデミーで、ちょっとした語り草になりそうだな」
「拙者、それを目の当たりしたでござるが、しっかり腰の入った良い突きだったでござる」
「その後、女商人の一撃でこの有様? こんなんが世界を救うなんてお笑いだ! って叫んでたねっ」
「はははっ! あれは痛快だった。更にその後、また…」
「ちょっと戦士、もうやめてー!」
城を目の前に古びたこの小屋で、アタシ達はここまでの頑張りを振り返り、存分に達成感を噛み締めるかの様に、長い時間、話に花を咲かせた。
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