第14話 新大陸への歩み
失意のどん底から、商人の閃きに微かな希望を見出し、どうにかパーティ解散の危機を免がれた一行。
アタシ達は気落ちすることなく、塔を下り、洞窟を抜け、草原を駆け抜けた。そして一度町へと戻ったけど、旅の疲れもなんのその、皆で勇者の情報収集の為、東奔西走した。
「町長の家に勇者様が居たよ、明日新しい大陸に向かうって言ってた」
「ありがとうね。ふむふむ、明日が出発か…」
夕暮れ時、教会の裏口に全員が集まった。勇者一行と顔を合わすリスクを、少しでも抑える為にここを待ち合わせ場所を選んだ。
「なるほど…、という事は明日の早朝だな。このタイミングは逃せないな」
「千載一遇でござる!」
「ドキドキするねっ!」
「よし、腹は決まった、俺達にもう退路はないぞ!」
「おうっ!」
アタシ達は労働者達が多く集まる安宿で、早めの就寝を行い、体力回復を図った。
明日を思うと不安はあったけど、洞窟や塔を歩き回って疲労困憊だったせいか、すぐに心地よい眠りへと誘われた。
この町一番の高級宿にある、最高級の部屋は勇者専用となっており、最上階を一部屋だけで占有されている。
テラスにはプールを、浴室には4人いっぺんに入れるほどの浴槽を、それぞれ設けられていた。この小さな町では、不釣り合いなくらいの贅沢仕様である。
テラスから望む朝日を眺めながら、勇者は満足げに言った。
「ふ~ いい朝だ。俺達の新大陸進出を祝ってくれてるんだろうな。じゃ、軽く行くとするか」
「はいっ」
女戦士、女僧侶、女魔法使いは、身支度を整えながら、それに声を揃えて笑顔で応えた。
ふふっ、可愛い奴らだ。
宿を出ると、人だかりが辺りを埋め尽くしていた。見慣れた光景だが悪い気はしていない。皆一往に激励の言葉を投げかけてくれる。
「勇者様行ってらっしゃいませ! 道中お気をつけて!」
「ああ勇者様~ 名残惜しいですわ」
「おおっ… なんと凛々しいお姿じゃ…」
「みんなありがとう。行ってくるよ、また会おう」
勇者はなかなか町の外に出てきやしない。こんな事なら、アタシ達だってもう少しゆっくりできたぞ。朝食さえ我慢して張り込んでたのに…
「あ、やっと出てきたな、こっちは草場でどんだけ待たされた事やら。いい加減、虫に嚙まれるこっちの身にもなってくれよ」
「ね。でも待ってる間、皆レベル上がったから良しとしようよ」
「うむ、待てば海路の日和ありでござる」
「私眠い…」
遠くからでもあの間抜け面は忘れもしない。予想していたが、戦士に僧侶、魔法使いとすべて女で揃えてる、この女ったらしめ。しかし、いざ戦闘となると、そこそこ活躍している… 面白くない…
「あっ? やった! 毒になった! いいぞバブリー!(バブルスライムの愛称)ざまぁないぞアホ勇者! そのまま死ん…ムグ」
「商人… 気持ちは分からないでもないが、いい加減にしとけって、聞こえるぞ」
戦士は言いかけた商人の口を塞いだ。
「ごめん… つい本音が…」
「商人って結構根に持つタイプだね」
「商人殿に恨みを買う事は、避けた方が良さそうでござる」
遊び人と武道家は、互いに顔を付け合わせ大きくうなずいている。
深い木々が生い茂った森を抜け、勇者一行が祠に入るのを確認し、少し間を置いて続いた。
ここは魔物の気配がない。囁く様な優しい風に乗って、野鳥の綺麗な鳴き声が聞こえてきた。
間もなく始まる壮大な試みを前に、刹那の休息となるんだろうな。
湧き上がる高揚感をじっくり味わおう、アタシは目一杯深呼吸をした。
いよいよだっ!
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