第10話 東風吹かば

「いや… 恐れ入ったわ商人」


「まったくでござる。拙者など恐れおののいて何も言えなかったでござる」


「ううん、アタシも怖かったよ、でも… 奇跡は、信念持って行動する者にしか舞い降りてこないからね」


「商人、ステキ☆」


一行は商人の奮闘を褒め称えながら、城門の通り口を進む。


本当にこのまま城の外へ出れるのか、どうにも不安が拭いきれなくて、後ろは振り返れなかったが、その心配は杞憂のまま、アタシ達は草原へといざ舞い出でた。


そして旅立ちを祝福するかの様に、穏やかな東風が吹いた。…いつの間にか冬は終わっていたんだね。


もう城門も城壁もない、頼れる衛兵も居ない。文字通り、我が身は我が身で守るしかない。


でもそれは、アタシ達の歩みを妨げるものが何一つなくなったという事なんだ。


不安と興奮が交錯して、鼻息はどんどん荒くなり、歩く事すらままならなくなった。


「もう商人っ! ちょっとはリラックスしてよ、ガチガチに緊張してるじゃない」


「だ、だって、だって、初めて城の外に出たんだよ? 緊張するなって方が、む、んむっ、むりっ!」


「商人、薬草8個と毒消し草7個、全部で何Gになる?」


「134G! だけど、アタシだったら120Gぐらいにまけさせてみせるよ!」


「さすが商人殿、まさに電光石火でござるな」


「えへへ~ Gの取り扱いだけは任せてよ」


「あ~ 商人、いつもの調子になってきたね」


「あ、ホントだ・・・」


戦士は、早くもアタシの本質を見抜いているのかも。少し緊張がほぐれたアタシを見計らってか、草場からゴソゴソと音がした。


「むっ! 何か居るでござる、各々油断なさるなっ!」


記念すべき初戦はスライムが相手となった! しかもぞろぞろ出てきて8匹っ!


「おおっ・・・ 普通は2、3匹が相場だろうよ」


「拙者に任せぃ!」


武道家の鋭い一撃で、スライムEの息の根を止めた!


「さすがだな、いくらスライムでも一撃で仕留めるとは」


「アタシ達も続くよ!」


「痛~い」


「ピキー!」


スライムDに1ダメージを与えた。

商人は1ダメージを受けた。

スライムAに1ダメージを与えた。

遊び人は1ダメージを受けた(途中割愛…)


大苦戦を強いられたものの、何とか全員無事で勝利をものにした!


「初勝利っ!」


「やったでござるな」


「えへへ~ スライムって可愛いね」


「何呑気な事言ってんだよ遊び人! 死にかけてるじゃねぇかっ!」


「え~ 大丈夫だよー… …あ、あれれ? な、なんだか手足が…痺れてきた…」


「ちょっ、ちょっと遊び人、薬草食べなさい!」


いきなり瀕死の状態だったが、次の戦闘で戦士と遊び人のレベルが上がり、3戦目に大ガラスをやっつけたところで


「あ! なんだろ、アタシ強くなったかも!」


「商人殿もレベルアップしたでござるな、生死を賭けた戦闘の繰り返しで、心身共に成長したのでござるよ。おめでとうでござる」


「武道家詳しいね~ それアカデミーで習ったの?」


「アタシも道具と鑑定の事だけしか、まともに話を聞いてなかったしなぁ、よくわかんないや」


「おまえらなぁ… レベルアップとか基本中の基本だぞ。よく卒業できたな」


「えへへ、照れるなぁ、あんまり褒めないでよ戦士」


「遊び人… どこをどう聞いて、誉め言葉になったんだ??」


「類まれなポジティブさでござる、拙者も見習うべきでござるな…」


「ダメだって武道家っ! 人生棒に振る事になるよ」


「えへへへ、照れるよ武道家」


「行くぞおまえら、日が暮れる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る