第9話 立ち塞がる城門

武道家が素手なのはともかく、戦士にひのきの棒を装備させてしまっているのを、申し訳なく感じてしまった。


「戦士… ほんとごめんね」


「気にするなって、これはこれで貴重な経験かもしれねぇ。まぁ、ゆくゆくはすげぇ武器を身に付けさせてくれるんだろ?」


戦士は、ひのきの棒の握り具合を確認しながら言った。


「え… ええ、も、もちろん!」


「冗談だよ。武器とかいう前に、まずは俺達が乗り越えなけりゃいけねぇ壁があるからな。文字通りデカい壁がな」


戦士が上げた視線の先には、城門が一行を遮る様に立ちふさがっている。普段は街の平和を守るはずの頼れる城門が、今日ばかりは脅威に思えた。


「商人、大丈夫かなぁ…」


「任せといて! 今のアタシの情熱はベキラゴンより熱いよ!」


門へと近づいていくと、職務に忠実な門番たちが、即座に私たちを取り囲んた。


「なんだ貴様らは? 今日の外出申請はもう無いはずだ」


「アタシ達はこの4人のパーティで魔王を倒しにいきます! 門を開けて下さい」


「おい、ふざけているのか? 魔王を倒せるのは勇者だけだ。勇者の居ない貴様らを、ここから通すわけにはいかんぞ」


「まったく… 予想通り過ぎるよな、忠順と言うか、頭がかてぇと言うか…」


「大丈夫、任せておいて」


アタシはごそごそと道具袋をあさった。


「これを見て!」


酒場のおじさんにもらった古文書を、一人の衛兵の目の前に突き出した。


「言っとくけど紛い物じゃないよ、王室書庫に保管されている物の控えで、ここに王印も史書官の印もあるからね」


「…ふむ。たしかに」


「で、内容見てもらえる?」


「ふむ… ……ふーむ」


「ね、ちゃんと前例があるでしょ? これ先々代王様が出した法の記録書なの!」


「ふーむ… 確かに…」


「納得したなら、さっさと門を開けて開けてっ! 折角の旅立ちに水をささないでよっ!」 


商売を行う上で基本的なことだが、ここ一番と言うところでは、ひたすら押しと勢いが必要だ。


今まさにそのタイミングだった。内心ひやひやだが、苦労に苦労を紡いで得たパーティを、無意味なものにするのはどうしても忍びない。


「ねぇってば!」


門番たちはどうしたものかと、なかなか結論を出そうとしない。


「…だめか」


諦めかけた瞬間。


「よし、分かった。開門っ!」


アタシが古文書を見せた衛兵が、高らかに声を上げた。


「た、隊長殿! よいのですか? いくら前例があるとは言え、大昔の話でしょう?」


「確かにな。しかし、この商人の真剣な表情を見てたら、どうにもな… おい! どうした聞こえないのか? 開門だっ!」


「はっ!」


門兵数人が大きな歯車を回転させると同時に、堅牢無比の城門が大きな音を立てて開きだした。刹那、眩い光が差し込む。アタシは破顔し、深く安堵のため息をついた。


「ありがとう! アタシ達頑張ります!」


「おう! だが、無理せずいつでも帰ってこいよ!」


門兵たちは槍を高く上げ、激励を送ってくれた。アタシ達もそれに呼応して手を振る。


「腹の座った奴だったな」


「奴とは、あの女商人の事ですよね?」


「ああ、この衆人環視の中で堂々とたいしたもんだ。まだ年端も行かぬ小娘なのにな。


それに… この中で俺を隊長だと見抜いたのか、真っすぐ俺の下に向かってきただろう。見る目があるのか、強運の持ち主なのか分からない。ただ、俺以外に話しかけてもこの門を出る事ができなかったはずだ」


「たしかに…」


「あと… ここだけの話にしてほしいのだが、先日出て行った勇者より、余程頼りになりそうだったんでな」


「た、隊長、さすがにそれは不謹慎かと…。 でも、実は自分もそう思ってました」


「だろう? よし、俺はあの一行が魔王を討つ方に1000G賭けるぞ!」

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