第8話 メタルスライムより硬い運命共同体

「はぁ・・・ しょうがねぇな… まぁ、一度くらい寄り道してもいいか」


「えっ!? うそっ! ホ、ホントにいいの?」


「こんだけ毎日しつこく来られちゃな… 他に来てる連中にも迷惑だろ? 誰かがジョーカー引くまでトランプは終わらないからな」


「あっ、ありがとう! あと一人仲間にできたら冒険に出られるっ!」


「あと一人か・・・ ちょっと待ってろ」


暫く待つと、戦士は一人の武道家を連れてきた。


「拙者はどんな環境であろうと、全力を尽くすのみでござる。まして、戦士殿の頼みとあっては断る訳にはゆかぬ」


「わりぃな武道家。この二人が必死過ぎて、ほっておけなくてよ…」


「構わんでござる、必死な想いには必死で応えるのが男でござる」


後に戦士に聞いた話だけど、二人は幼馴染で、職を超えた繋がりがあるみたい。さて、旅立ちにあたっての準備なんだけど…


「ごめんね、アタシの蓄えじゃ最低限の物しか買えない。新しいターバンなんか買うんじゃなかったな、よし、売ってこよう」


「それは心配するな、この辺でスライムや一角ウサギと挑んでりゃ、レベルも上がるしGも貯まる。


 少しだけ時間を掛ければいいんだ。それに武道家が居るから素手でもなんとかなる。そんなワケだから、そのターバンは売る必要はないぞ、よく似合ってるんだしよ」


「少し遠回りするだけでござる、回り道こそ人生。そのターバンも商人殿に身に付けてもらってより輝いているでござる、拙者にはそう見えるでござるよ。…ゆえに、手放すには惜しいでござるよ?」


戦士はアタシの肩を叩き言った。


「なっ?、そういう事だ」


「っ… あ、ありがとう・・・ ううっ」


アカデミー時代では、まるでゴミや虫でも見る様な目つきで、アタシを見下していた戦士や武道家が、こんなに親身になってフォローしてくれるとは夢にも思っていなかった。


思わぬ展開に、感極まって涙が出てしまった。


「ほら商人、泣かないの・・・」


遊び人がハンカチを貸してくれた。戦士と武道家は気付かぬフリをして背を向ける。


「ぐすっ、ありがとう… 嬉しい…」


涙を拭い去り、大きく息を吸い込んで、ゆっくりとはいた。


「じゃ、皆さん… 改めて、よろしくお願いします」


「こっちこそよろしく頼む。…先に言っておくが、俺たちは別に投げやりな気持ちで一緒に行動するわけじゃない。ただ、商人の必死さが俺を動かしたんだ。だから… 変にへつらったりするなよ」


戦士は武道家の胸を軽く突いた。


「冷静な戦士殿をここまでつき動かしたのでござる、拙者にも依存はござらん。商人殿、こちらこそよろしく頼むでござるよ」


武道家は遊び人と握手を交わした。


「商人、最高のパーティーだね、リーダーよろしく」


遊び人は商人とハイタッチした。


「みんな… 本当にありがとう。アタシこんな幸せ感じたことないよ。頑張って得た幸せだから、この出会いにすごい感謝したい、そして大事にしたい。あと、リーダーとかどうでもいいよ、アタシ達は皆がリーダーみたいなものだから」


「そういうなよ、俺達は商人って言う船に乗ったんだ。舵取りは任せるぞ、リーダー」


「左様でござる、船長居らずしては船は進まぬでござるよ」


「えへへ。頼んだよ、リーダ~」


またもや涙腺が… しかし、ここはグッと堪えて、自らの頬を強めに二度三度と叩き、己を奮起させた。


「よっ、よーし、任せてください! 不肖ながら全力リーダーさせてもらいますっ!」


「おう!」


「じゃ、皆さん! 決意表明を聞いてもらいたいので、拳を前に…」


「よしっ!」


「グーでござるな」


「は~い」


「え~… アタシたちには勇者が居ないけど、そんなことは知恵を働かせて補えばいいだけ」


あれ? なんか決意表明っぽくないな。でも勢いだ!


「…で、困難にぶつかって1人で出来ないことも、4人で協力して解決すればいいだけ。周りがどう思うかなんかほっとけばいい! 要は中身で勝負っ!」


付け合わせた拳に、目一杯力を入れて、


「アタシたちはメタルスライムより硬い運命共同体! 一緒に世界を旅しようっ!」 


「おおー!!」


こうして、数世紀ぶりに勇者無しのパーティが誕生した。

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