第5話 会心の一撃の相手は…
今回の勇者は取り分け間抜け面していて、仲間にしたばかりの女戦士の豊満な胸を
だらしない顔でしげしげと眺めていた。
「バカじゃんアイツ… 戦士の嫌そうな顔が分かんないもんかね」
アタシは恭しくため息をついた。
「次は・・・ おっ? …キミの職は何かな?」
自慢なのだろうか、自分の長い髪を手でくねくね弄りながら、その間抜け面はアタシに尋ねてきた。
「商人です」
「はっ? 商人だと? なんだよ、あー… 居ても仕方ないな…。ん~まぁ、どうしようかな。ま、どうしても来たいって言うなら、当然俺様専属の手足として働けるよな?」
アタシは目尻に目一杯しわを寄せながら、辛うじて平静を装い返事をする。
「…と、言いますと?」
「やれやれ・・・ 魔法一つ使えないだけの事はあるよな、ホントに出来の悪い女だぜ」
勇者は右手で頭を押さえ、顔を左右に振り続けた。リアクションが気持ち悪い。
「いいか? もう一度しか言わないからよく聞けよ? 特別に俺様の専属としてパーティに加わってもいいって言っているんだ。光栄に思え。戦闘中は勿論、俺様の手となり足となり盾となるんだ。引き立てればそれでいい、俺がとどめを刺してやるから、あくまで盾となれ」
よく喋るな、まだ続くんだ。
「町へ着けば、一番の酒屋で、一番いいテーブルと一番いい酒を確保しろ、で、商人だから費用はオマエがみろよ、それくらいしか取り柄がないんだから」
ナンダコイツ…
アタシは突拍子もない事を平然と言う勇者に、思考回路がついていかずフリーズしてしまった。
畳み掛ける様に、耳元で
「…分かっていると思うが、夜伽の方も重々尽くせよ? ふふふっ」
ゾクっと身震いした後に、
「いや、ご遠慮しときます」
今日一番、深いため息をついた後、感情を殺して答えた。
「あん? オマエ… 誰が誰にものを言ってるのか分かってるのか? 勇者様の言葉が聞こえていないのか?」
「…こちらにも選ぶ権利くらいあると思うので」
「ははっ なんだコイツ」
刹那、パンッと乾いた音が店に響く。薄ら笑いを浮かべる勇者がいきなり平手打ちをかましてきた。
「オマエごとき商人に権利などないんだよ。勇者様の言葉に従って、黙って尻尾振ってればいいんだ。口答えしてるんじゃないぞ、オマエ一体何様のつもりだ」
周囲は好奇の面持ちで私を見ている。
おい… 勇者だかなんだか知らないが、女の顔に手をあげて、ただで済むと思っているのか?
溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、アタシはできる限りの力で硬く拳を作って、
「消えろ!」
ひとこと繋いで、アタシはそのバカ面に思いっきりパンチしてやった。
「ごへっ…」
情けない声を出して、勇者はその場に崩れ落ち、泡を吹いて虫の息状態に陥った。
初めて出た会心の一撃は勇者だなんて皮肉なもんだ。
「女商人の一撃でこの有様なの? こんなのが世界を救う勇者様だなんてお笑いだっ!」
「あわあわわ・・・ 勇者様が、僧侶っ、僧侶か神父はおらぬか!」
取り乱した斡旋所の長が奥から飛び出してきた。
「お、お前はなんという事を・・・ 勇者様に向かって!」
「だって、見たでしょ? 先に手を出したのはあっちじゃん!」
「お前は勇者様に逆らうのか! もうよいっ! この斡旋所には来るでないっ!」
「こっちだって好きで来てるんじゃないよ!」
「僧侶! 僧侶はおらぬかっ!」
「決めた! アタシ、勇者なんか要らない!」
「勇者さまっ! お気を確かにっ!」
大混乱の斡旋所をするりと抜け出し、アタシは限定ターバンを買いに防具屋へと駆け出した。
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