第112話
* * *
「ふむ……そうだ、君はどう思う?」
俺はフランに尋ねた。ケベル王国を相手にする戦略についてだ。
「ケベル王国というところが同盟を装って入ってきて南ルナンを討つということですか?」
「そうだ。そうなった場合、最も迅速にケベル王国軍をやっつけるためには、どんな方法をとればいい?」
核心的な質問に、フランはただぼうっとした顔で首を横に振った。
「私はそんな戦略については存じ上げません」
「そんなはずはないと思うが? 記憶を失う前の君は、すごい策士だった」
俺の言葉に、フランはもっとわからない表情になった。
「どういう状況ですか? ただ思いついたことを話すことはできると思います」
「簡単だ。我われの軍隊が到着する前に、ケベル王国は南ルナンを掌握するだろう。それを防ぐ効果的な方法はあるだろうか?」
「そうですね。そんな方法はわかりません。しかし、掌握しようとするなら掌握させておいた方が良くないでしょうか? そうしてこそケベル王国軍が南ルナンを手に入れようとする野心があったということが世の中に知れ渡ります」
「まぁ、それはそうだな」
やはり。
適当に言ったが、この男は核心を正確に言い当てていた。
「むしろその後で王都を取り戻す、より効果的な方法を探したほうが早いのではないかと思いますが」
「ああ、何か方法があるのか?」
「私は敵を騙すべきだと思います。セロン城を取り囲んでも、攻撃はする必要がありません。その後は敵の心理を逆に利用して、思うように動かす必要があります。こんな戦争、2日で終わる方法でしょう」
「心理戦か。ひょっとして、こういうつもりか?」
俺は自分の思ったことを彼に話した。
すると、フランが再び答えた。
「それもいいですが、こういう罠のほうがいいでしょう」
「ほう、それならそうした後、もう一度それを使ったほうがいいな」
そうだ。こうすれば、完璧な戦略が誕生する。
互いの考えが一致し、その件が補完されると、より大きな戦略が誕生する。
「なるほど。そうだと思います」
フランも大きくうなずいた。
やはり良い人材は良い人材だった。再び敵になるのは頭が痛いほどに。
いっそのこと、何とか殺す方法を探すべきか?
いや。
このような男を自分の味方にすれば、それこそゲームを攻略するほどの快感があるはずだ。
そういう挑戦。
しきりにやってみたくなるのは仕方がなかった。
たとえ記憶を取り戻した後、関羽を送る曹操のようになっても。
とにかく曹操は、おかげで命拾いをした。
赤壁の戦いで敗れ、逃げる曹操を生かすことになったのが関羽だったから。
もし記憶を失ったのではなく演技なら、本当に見苦しいことになるのだが。
人材を惜しんだだけだから、その見苦しいこともまた非難されることではないだろう。
人材を愛した曹操の行動を誰が非難したというのか。
総大将を失ったケベル王国軍は右往左往し、最終的に南ルナンを占有すること選択をした。総大将の最後の命令が「王都を速やかに占領せよ」ということだったからだ。
ここでもし他の判断、例えばそのまま撤退してケベル王国に戻ったとすれば、彼らに他の野心がなかった証明になるかもしれなかったが。
ケベルの最後の命令は、結局彼らの足を引っ張ることになった。
南ルナンを裏切ったケベル王国軍に対して、エイントリアンの兵士たちは怒りを禁じ得なかった。
[エイリアン軍の士気が100になりました]
その怒りは士気で表れた。
フランの戦略まで加わり、南ルナンの修復は一日も経たないうちに実現した。
総大将を失って愚かなことをしていたケベル王国軍の後退が始まった。
うおぉぉぉぉぉぉぉっ!
エイリアン兵士たちの士気は天を衝く勢いだった。
そして、しばらくケベルに抑圧された南ルナンの民たちも歓呼しながら俺を迎えた。
彼らにとって俺は救いに来た援軍であり、復讐をしてくれた恩人だった。
そのため、俺に対する彼らの気持ちは99に上っていた。
南ルナン地域の成功的な征服だったからだ。
もちろん、ナルヤとケベルに挟まれてやられることになるこの地域に、軍を残すつもりはなかった。
生存した南ルナンの兵士と民を連れて、我われの土地に帰るつもりだった。
望みのうち、一つを得たが。
まさにこの結果によって、本当に得なければならないものがもう一つあったのだから。
それはエルヒートだった。
彼を完全に「自分の家臣」にするための分岐点。
まさにそれがこの地点だから。
* * *
「……殿下。結局こうなりましたね」
エルヒートはローネンを自分の手で埋め、彼の前に跪いていた。さまざまな思いに耽っていた。
主人として一生仕えようとした人だ。
しかし、その主人にはいくつか傷があることがわかった。
特に王都を捨てて逃げたという知らせを聞いた時、関門を命がけで守ろうとしたエルヒートにとっては、決定的な裏切りに感じられた。
それにもかかわらず、これといった素振りを見せなかった。
そんな複雑な感情のある主人の最期を迎え、エルヒートはただ複雑な気持ちで首を横に振った。
「閣下、すでにローネン殿下はエルヒート家を見捨てたではないですか。それも二度も」
その姿を見ていられなかったエルヒートの家臣たちが再びそのように直言したが。
「いいんだ。それでも主人は主人だ」
エルヒートは鋭い目つきでこう答えるだけだった。
結局、エルヒートが立ち上がるまで、家臣たちは無言でじっとしているしかない。
そうしてしばらくして立ち上がったエルヒートは、南ルナンを一度見回した。
「民たちは無事のようで良かったな」
「そうですね。それは良かったです」
「この民を抱く者は別にいるからな」
「閣下?」
エルヒートの妙な独り言に、家臣たちが互いを見ながら聞き返した。しかし、エルヒートは他の言葉を口にしなかった。
実際、エルヒートは一つ悩んでいた。
ルナンはこれで確実に滅びた。
それゆえ、ルナンの武将だった自分もまた終わったと思った。
武将としての人生がだ。
それなら、引退すべき時なのだろう。
自分の領地も、ナルヤの手に渡った。残ったものは何もないので、ただ普通の人として生きていくのはどうかと考えていた。
「引退するとなると……お前たちは俺に付いて来る必要がない。エイントリアン伯爵を助けるなら、俺ができるだけ頼むから、彼を助けてほしい」
「はい?」
「閣下! 突然それはどういうことですか!」
エルヒートの爆弾発言に、家臣たちは驚きのあまり目を丸くして集まってきた。
* * *
「エルヒート閣下、どこにいたんですか?」
「俺を探してたと聞いたが」
「はい。どこにいるのかわからなかったので、探してくれと言いました」
「殿下をお別れしてきた。はぁ。気持ちが複雑だから、お茶を一杯くれないか?」
「もちろんです」
エルヒートをテーブルに導いた。彼の表情はかなり良くなかった。さまざまな考えに耽っている顔だ。
何か悩みが多そうだった。
もちろん、俺も悩みが多い状況だけど。
この男を説得しなければならない立場としてのことだ。
「実はな」
お茶を少し飲んだあと、エルヒートは深刻な顔で口を開いた。
「やはり君は王になるつもりか? 君は絶対に伯爵にとどまる器ではないと思っていた。民心を操ることができるその能力。それこそ帝王の資格ではないかと思う」
「それは……」
急に的を射てくるとは思わずもじもじしたが、避けることではなかった。
本当に得ようとする人材に隠すことがあっては、堂々とすることはできない。
「そうです。ルナンの滅亡は残念ですが、私もまたエントリアンの末裔。長い間、家門の宿願であった古代王国を復活させることを狙っています。閣下」
「古代王国か。そうだな、君はまさにそのエントリアンの末裔だった」
「別の事ですが、一つ申し上げることがあります」
ルナンをわざと滅ぼしたとは言えない。しかし、少なくともローネンの問題だけは堂々としていたかった。
「別のこと? それは何だ?」
「ローネン公爵殿下が好きではありませんでした。奴隷商人の件で、さらに嫌いになりました。実はこの度のことは……心から彼を救うつもりはありませんでした」
俺は民心のために今回のことを利用したという部分を率直に話した。特にエルヒートとローネンの関係を考えると、この陰謀を語らずには絶対に正しい関係にはなれないからだった。
「ほう……そうだったのか」
「しかし、一切南ルナンの民に迷惑をかけるつもりはなかったんです、閣下。これは本当です」
「それは知っているさ。それなら俺も率直に言おう。実は、引退を考えている。武将としての人生は、ルナンの滅亡とともに終わったのではないかと」
「え? まさか私が今申し上げたせいでですか?」
「いや、それとは別だ。どうせルナンは滅びたし、救えなかったのは君と一緒にいた俺が一番よく知っていることだ。ローネン殿下と君の関係を思えば、十分に有り得ることだ。だから、そのせいじゃないんだ。君がすごい器だということも知っている。ルナンの民をよく守ってくれるだろう……。税金免除の件を見ても、俺は君に感嘆したんだ」
いや、それならなぜ引退を考えるんだ。それは絶対にいけない話だった。
エルヒートを獲得しようと、どれほど段階的な努力をしてきたか。
「本当に引退を決心したのですか?」
「そのつもりだ。領地もないから貴族になったし、ただの田舎者になろうかとも考えている」
いや、それはあり得ない。
この男ほど戦争が似合って、戦争で輝き、戦争で輝かなければならない存在がどこにいるというのか。
まさに真の武将という言葉にふさわしい人だ。
俺のようなただ利益だけを求めて動くゲームのプレーヤーとは違って。
「閣下」
向こうから先に何か言い出すのを待っていたが、それは愚かな考えだったのか?
人材を得るために、得ようとする側が消極的ではいけないようだ。
確かに、劉備も諸葛亮を得るために三顧の礼までしたじゃないか。
会うやいなや切実に自分の味方になってくれと頼んで。
その切実さが諸葛亮を動かし、諸葛亮は一生劉備とその息子に仕えた。
一生涯にわたって。
すでに手遅れではないかと思ったが、俺は彼の前で頭を下げた。
「エイントリアンの武将になってくれませんか? 引退はあまりにも早すぎます! 私の下に入ることはプライドが傷つくかもしれませんが……このエイントリアン・エルヒン。古代王国エイントリアンの末裔として、大陸の戦乱を切り抜けるためには、必ず閣下の力が必要です。閣下ほどの武将は他にいません。ナルヤの十武将? 彼らはただ武力が強いだけです。戦場で至純至高に輝く真の武将は、私がこれまで経験した限り、閣下だけがその資格をお持ちだと思います」
「……」
しかし、エルヒートからは何の返事もなかった。
ただ俺を見つめた。穴の開くほど。
一旦、再び言葉を続けた。まだ言いたかったことを全部言えなかったからだ。
最後まで引退するとしても、こうなった以上、言うべきことは言ってこそ後悔もないだろう。
「エイントリアンの家臣になってくださいませんか? 閣下の力が必要なのです!」
すると、どんでん返しが起こった。
エルヒートがぱっと立ち上がり、俺の手を握ったのだ。非常に素早い行動だった。
「それは、それは本当か!」
「もちろん、本当ですが……」
「……俺は君が俺を必要としていないと思っていた。だから引退を決心したんだ!」
「え?」
エルヒートはとても突拍子もないことを言い出した。
「それはどういう意味ですか。誰よりもエルヒート閣下が必要です。むしろ、慎重になりすぎて言い出せませんでした。その、閣下とローネン殿下の関係を考えると……」
エルヒートはすぐに首を横に振った。
「殿下との関係は別問題だ。すでに尊敬する心を失った関係さ。ただ礼遇しただけだ。だからつまり、君は俺が必要だということだろう?」
「もちろんです」
「クハハハハハハハハハ! こんな日はお茶を飲んでいる場合じゃないぞ! おい! すぐに酒を持って来い! 酒を!」
エルヒートは子供のように大喜びしながら叫び始めた。全く適応できない状況だった。
「閣下?」
「俺が必要なら、いくらでも力になってやろう。君の家臣になるということだ! 私、デマシン・エルヒートは一生を捧げ、エイントリアンに仕える。古代王国の末裔ということは、素晴らしいことじゃないか! それにその主人が世の中の民心を守ることができる君なら、むしろ望ましい!」
こんなに簡単なことだったのか?
「いや、違うな。もうこうやって気軽に話したらいけないな」
エルヒートはそう言って姿勢を正すと、俺の前で頭を下げた。
「デマシン・エルヒートは、今日から死ぬまでエイトリアンに仕えて従います!」
その姿を見て、頭が痛くなってきた。
もっと早く提案すべきだったという意味になるからだ。
見たところ、俺は他の人にこんな提案をしても自分にはしないので、少し拗ねた感じだったのかということか?
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