第89話
*
完全に分かれた敵を追撃した。
まだ3万残っているが、ナルヤ王国軍の精神的ダメージは甚大だった。
[ナルヤ王国軍]
[第3軍]
[9,200人]
[士気:20]
[訓練度:92]
第3軍は9,200人に減っていたが、士気は完全に急落してしまった状態だ。
俺の兵力のうち、一番まともなのは鉄騎兵だった。
第4 軍に遭遇したため、歩兵と弓兵はかなりの被害を受けたが、エルヒートに迂回させて奇襲をかけた鉄騎隊は8,400人残っていた。
そして、歩兵中心の第3軍は、うちの鉄騎兵に太刀打ちできる力がなかった。
[エイントリアン鉄騎隊]
[8,400人]
[士気:100]
[訓練度:97]
士気が100ポイントの部隊だ。
さらに兵科優位性も圧倒的だった。
[ナルヤ王国軍 9,200人]
[エイントリアン鉄騎隊 8,400人]
[兵科優位性:ナルヤ < エイントリアン、攻撃力50%アップ]
[士気:ナルヤ < エイントリアン、攻撃力100%アップ]
大きすぎる士気の差とともに攻撃力が急上昇し、城内に入りきれずに退却した第3軍の残りの兵力は鉄騎隊に押されはじめた。
[ナルヤ王国軍 2,300人]
[エイントリアン鉄騎隊 7,900人]
圧倒的な差で押し出されはじめた第3軍は、一方的に退却した。
士気があそこまで落ちたのは、おそらく十武将であり第3軍指揮官でもあるランプが死亡したからだろう。
そうして第3軍は壊滅した。
こうなると、退却しはじめたナルヤ軍の数は、わずか2万にも満たなかった。
* * *
「古代遺跡のマナの陣って。自分の目で見ても信じられないな」
エルヒートは戦闘が終わった今も信じられないという顔をしていた。
味方には当然、そのマナの陣は古代遺跡で発見した力だと説明した。
そして、その陣の製作者である古代王国の先祖が作った現在のエイントリアンにもそんな施設があり、それを利用したということだ。
それでなければ納得させることができない強力な力だ。
使い続けられる力でもない。
だから、はっきりさせておくのは当然だった。
「きちんと発動してよかったです。これで当分の間、ナルヤ軍は動けないでしょう。ヘラルド方面にいる王が直接合流するまでは」
そうだ。いくらナルヤでも、この16万の大軍がなければ、当分力を使えないだろう。
ナルヤの王が連れて行った10万の大軍を除いては。
そんなに大きな被害に遭ったら、当然俺に時間と機会ができる。
しかし、それでもこのエイントリアンでは無理だった。ナルヤが目と鼻の先にいて、四方が開いている。
東西南北のどこから敵が現れるかわからない状況だ。
そのため、俺の兵力はすべてベルタクインに移動した。領民も領主城の金もすでに3か月間で全部移動させた。
それがバレなかった理由は当然、秘密通路の存在が大きかった。秘密通路がなかったら、この計画を実行することもなかっただろう。
ベルタクインの山族が守っていた遺跡。その秘密通路は、ルナンに繋がっていた。
ベルタクイン!
鉄だけでなく山に囲まれた天恵の地形だ。さらに、後ろには海があった。
ベルタクイン自体は小さいが、その横に連なる領地まで自分のものにできる状況だった。だから最初の目標は、旧ブリジト王国の領地3つの規模を合わせた国家の建設だ。
そのすべてが山に囲まれていたため可能なことだった。
天恵の要塞ということだ。
ある意味、劉備の蜀とも似た状況だった。
蜀もまた山岳地帯のため、接近しにくい天恵の要塞を挟んで国を宣布した。
もちろん、蜀は結局失敗した国だ。
このゲームを攻略するために、同じ轍を踏んではならない。
現在残っている兵力は2万。
エルヒートも当然一緒で、ヴォルテール伯爵もずっと一緒だった。こちらは特に一緒にいたい人物ではなかったが、成り行きでずっと俺について来ていた。
俺について来るのは、ヴォルテールだけではない。
俺の後ろには、何十万もの避難民がついて来ていた。
彼らは俺をナルヤから守ってくれる盾だと思っているようだった。
その避難民のために秘密通路を開放した。
山を越えるには時間がかかりすぎる。仕方がないことだ。
すでに自領の領民たちが移住にみんな賛成した時点で、秘密通路は彼らにも知られた。
だからこそ避難民たちを移住させ、その入口を取り壊すつもりだった。誰も利用できないように。
こっちを通ってナルヤが攻め入ってくると困る。
惜しくても、未練は早く捨てた方がいい。
* * *
「どうせ居住地を離れたんだし、うちはすでにナルヤ王国に占拠されたから、行ってみないと。エイントリアンの領主様について行けば、農地をくれて、当分の間の税金も免除してくれるんだって!」
「そんな土地があるのか?」
「海に面した領土だって言ってたけど?」
「海って……私、一度も見たことないよ」
避難民たちは、どうせ戦場のど真ん中になるルナン地域で安全を保障するというエルヒンの言葉に乗り気になった。
これからナルヤと多くの国がルナンの領土を手に入れるために戦うと言っている。
考えただけでも地獄だった。
戦場のど真ん中にいたがる人はいない。それが故郷を捨てることになっても、村を踏み潰して戦闘が起きれば、命はただの虫にも劣る歳月が続くだけだ。
そのため、守ってくれる人がいて、守ってくれる地形があると言えば、心が傾くのは当然のことだった。
それに加えて、エルヒンは避難民たちの行列を演説して回った。
「今の俺について来れば、不確実なことは多くなるだろうが、あなたたちの命が危険になることはないと保証する! 農地を提供し、当分の間税金も免除されるだろう。そこで定住することにしてもいい! だが、俺はいつか再びルナンの領土を取り戻すから、その時また故郷に帰ってもいいぞ! 俺を信じてくれれば、そのすべてを実行する! あなたたちの盾としてだ!」
噂は噂を呼び、結局エルヒンへの避難民たちの民心は90を超えることになった。
* * *
俺の勝利に沸いたのは、避難民だけではなかった。
ルナンの西南部にある領地の領主と兵力が俺のもとに来はじめた。
どうせ残っていても、ナルヤに降伏する方法しかなかったのだ。
カシヤの場合、慈悲深いという噂は流れていなかったので、ルナン西南部の領主たちは俺を選んだ。
もちろん、ナルヤ軍を壊滅させた戦闘前に合流したのではなく、その後に合流したのだから、思う存分情勢を見極めたという点ではヴォルテールとは違った。
とにかく、ヴォルテールは恐れながらも最後まで逃げずに我が軍に合流していたからだ。
優柔不断な性格だから、逃げるか一緒に戦うか決められなかったようではあるが。
いずれにせよ、後から合流した領主たちよりは目をかけてやるつもりだった。
結局、新しい領土への移動は非常に大規模であり、騒々しく行われた。
その整理は、当然移動を終えてやるしかなかったし。
大規模な移動の後、俺と主要な家臣たちもみんな秘密通路を通り、ベルタクインの目と鼻の先に着いた。
そして、ベルタクインに足を踏み入れたらーー
俺の前に、実に3万という大軍が立ち並んでいた。
疲れた自軍ではなく、非常に元気な3万の大軍がである。
人々はみんな緊張したが……。
現れた部隊は、ナルヤの黒い軍服を着ていなかった。
ルナンの青い軍服だった。
「閣下にお目にかかります! 仰せのとおり各領地を整備し、お迎えに参りました!」
3万の大軍を率いて出迎えてきた武将が馬から降り、俺の前で跪いた。
同時に3万の兵力も俺の前で跪いた。
この武将の名は、フィハトリ。
[デルヒナ・フィハトリ]
[年齢:24]
[武力:81]
[知力:85]
[指揮:89]
俺と一緒にロゼルンに行き来する中でもかなり注目していた武将であり、10万以上の軍を率いる能力を持った若い武将でもあった。
彼の盛大な出迎えに、俺について来た領主たちは、みんな怯えて自分たちも跪いてしまった。
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独立国家を建てるまではいろんなチートに助けられたなら、チートをすべて使い切ったここから、
国家が建てられた後からが本格的な本当の始まりです。
3巻が11月発売予定で、コミックスの連載がガンガンオンラインで8月末、マンガUPで9月末に始まる予定なので、
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