第90話

旧ブリジト領土の西南端。

それがベルタクインの位置。

上は山脈。

下は海岸。

天恵の要塞であることは確かだった。

 領地の大半が山のベルタクイン。

 山を除けば使える土地はエイントリアンの半分くらいだ。

 焼畑なんかで山も使えるってことを考えると、ある程度の余裕はある。

 俺が出発点に決めた領土はベルタクインとその隣の領地ライへイン、そしてブリジトの領土だったブリンヒルだ。

 それ以上の統治はすぐには無理だった。

 人口はともかく、まともに統治できる人材が不足している。

 都市ひとつを維持するにも多くの人の力が必要となるものだ。

 それを誰彼構わず任せては治安と民心が下落し、否定的な結果をもたらす。

 だから、ルナンの兵力が占領したブリジト王都の東側は今のところ諦めた。

 ここから整備していって後に東側も占領するつもりだ。


「閣下の仰ったように、ナルヤ侵略の直後、ブリジトの東南部にいた兵力は大挙ルナンへ退軍しました。私は命令に従って残留しブリンヒルまで確保しました!」


 フィハトリ率いる兵力のうちルナンへ退軍した兵力は2万。

 おそらく、彼らはルナンの南部へ逃げたローネンと合流したのだろう。

 まあ、そっちにはもう一つの火種を残してある。その火種が役に立たなければ他の方法を使えばいい話だが、ひとまず火種の火力を見守るつもりだった。

 父親を死なせた本当の敵はローネンだ。

 ベイナの知力なら滅びゆくルナンのために労力は使わず、ローネンに復讐をしようとするはず。


「ブリジト東南部の人口は?」

「彼らは本来ブリジトの国民なので多少困難が……。我われのいる西側へ移動を勧めましたが懐柔には失敗しました」

「まあ、それは仕方のないことだ。ライへインとブリンヒルでも領地を離れていく者は引き止めるな。こんな時期に強制すれば民心に致命的な影響を与える」

「承知しました、閣下!」


 ブリジトの国民にとって俺という存在はただの敵という認識であるため仕方がない。

 こっちでうまく統治していれば自ずと流入してくるだろう。

 ひとまずできるだけ力を凝縮させる。

 ここからが始まりみたいなものだから。

 やるべきことは山積みだったが、真っ先にやったのはブリジトの旧王都であるブリンヒルからブリジトの東部へ続く各関所の点検だった。

 北は山脈。

 南は海岸だ。つまり、塞がれている。

 注意すべきは東。

 東への道は開放されていたがそっちにも小さな山地が集まっていた。その山地にはブリジトの王都であるブリンヒルへ入ってくる敵を阻止するための関所が設けられていたため視察に出かけたのだ。


「閣下、こちらのようです」


 フィハトリが俺を連れて行った最初の関所。


 [ブリンヒルの関所]

 [耐久度 50]


 思ったよりも酷い状態だった。


「この下にも関所はいくつかありますが状態はあまりよくなさそうです。東に長く伸びた国ですし、山地が大半の敵を阻止してくれることから油断したのではないかと」


 結局、費用をかけて補修する必要があるということだった。

 エイントリアンの地下にあった金塊をすべて運んではきたが限界がある。金のなる木ではない。

 人口が増えるにつれてその金塊ばかりに頼っていては後に大変なことになる。

 今は税金免除という大損の政策を施行するしかないのだから。


「ブリジトの王宮に保管されていた食糧をできるだけ供給して人足を集めろ。増築しておく必要がある」

「かしこまりました、閣下!」


 それでも側面を無防備のままにしておくわけにはいかない。

 すぐにこの地域に攻め込める勢力は存在しないが備えあれば憂いなしだ。

 今後貿易も推進するつもりだから、そっちで金を稼ぐしかない。

 重要なのは俺たちを守ってくれる関所だ。

 ひとまず、それを最優先で進めてから人口の割り振りに乗り出した。

 当然ながら古代王国エイントリアンの復活を宣言しつつ建国する場合、まずは今の領土で王都はブリンヒルとなる。

 悪くはない。それなりにいい王城があるところだから。


 [エイントリアンの領地]

 [総人口 105万人]


 まだ新しい国を宣布したわけではないため、システム上ではエイントリアンの領地と表記される3つの地域の総人口が105万人だ。

 既存のエイントリアンの人口は25万人。

 一介の領地にしては多い方だが、これは俺が積極的な流入政策を実施したから。

 それに既存のブリンヒル、ライへイン、ベルタクインの人口が約50万人となる。これはブリンヒルが一国の王都だったということを考えると少ない方だった。前回俺が起こした戦争の影響で他の地域へ人口が流れ出たから。

 そして、その他は俺についてきたルナン地域の難民だった。

 最も重要な民心としては、既存ブリジトの人口約50万人が[43]という悪い数字、一方でエイントリアンの領地からあらかじめ移住させておいた、つまり俺だけを信じてついてきた領民は[92]という高い数値を誇っていた。

 また、戦争が始まってからナルヤの大軍を撃破させた後に率いてきた避難民の場合にも[85]とそれなりに安定した民心だった。

 これを合わせた民心は60。

 あまり良い数値とは言えない。

 特に不満が募って爆発する民心ではないが、ブリジトの民心[43]を配慮するためにこっちの出身だけを優遇すれば他から強い反発を受けるだろうから差別するわけにもいかなかった。

 ブリジトの民心はゆっくり上昇するのを待つしかない。

 割り振りはブリンヒルに60万人、ライへインに30万人、そしてベルタクインに15万人とした。

 各地域の広さに合わせた割り振りとなっている。

 ここで問題となるとすれば各地域の領主だ。

 俺は人材不足に頭を悩ませた。


 [メルヤ・ハディン:武力60 知力57 指揮70]

 [ベンテ:武力49 知力38 指揮82]

 [ジント:武力93(+2) 知力41 指揮52]

 [ユセン:武力82 知力69 指揮90(+2)]

 [ギブン:武力70 知力34 指揮76]

 [ミリネ:武力5 知力74 指揮20]

 [ロゼルン・ユラシア:武力89(+3) 知力57 指揮95(+2)]

 [デマシン・エルヒート:武力96 知力70 指揮97]

 [レクター・フィハトリ:武力81 知力85 指揮89]

 [ヴォルテール·ガニド:武力30 知力60 指揮61]

 [ベルタルマン:武力80 知力50 指揮78]


 エルヒートは完全に俺の家臣となったわけではない。だが、相変わらず俺を助けていた。だから急ぐ気はない。

 彼が先に去就に関する話を持ち出してくるまで待つつもりだった。

 おそらく本人にも悩みがあるだろう。

 良かったことといえば、エルヒートの家臣たちが完全に反ローネンになったということ。

 ルナンという国の虚像を誰よりもよく知る者たちだから、おそらくエルヒートを絶えず説得してくれることだろう。

 一方、ヴォルテール伯爵はそのまま居座った。去る気はないようだ。

 俺を見れば媚びへつらう。

 エルヒートの家臣たち、そしてヴォルテールの家臣たち。

 また、俺に同行することを選んだルナンの領主たちや家臣たちの中には特別な能力のある者はいなかった。

 各領地の行政を引き受けて仕事をさせればいい。

 エルヒートの家臣は戦争に特化しているため、エルヒートが完全に俺の家臣となればそっちに特化した人材だった。

 これから征服戦争に乗り出すことになれば、どのみちまた呼び寄せて共にすることになる者たちだが、ひとまず各地域を管理しなければならない。

 そのため、ベルタクインですでに山族と対峙して様々な情報を得たユセンをベルタクインの責任者に、そしてライへインの責任者にはハディンを選んだ。

 最も信頼できる者たちだ。

 能力だけで見ればフィハトリの方が優れた部分はあるが、彼はすでにかなり多くの仕事をこなしてた。


 [ベルタクインの領主]

 [ユセン]

 [ベルタクインの民心が5上昇しました。]


 そして、ベルタクインの領主にユセンを任命するなり驚くべき変化が現れた。

 ユセンの高い指揮力の結果だろうか?

 それともすでにユセンがベルタクインで活躍をして安定を求めていた結果なのか?

 両方かもしれない。

 やはり指揮力だった。

 ハディンが初めて赴任するライへインは何の変化もなかったから。


 ***


 俺はライへインを訪れた。農地開発や漁業奨励に先立ち税金政策を発表して民心を安定化させるためだった。

 ライへインはベルタクインよりも大きかった。もちろん、重要度でいえば鉄が出る有利な地域のベルタクインが圧倒的だ。

 これから鉱業を活性化できるため事実上最も重要な地域に他ならなかった。

 戦争における核の担い手といおうか。

 しかし、農業や漁業的な部分で見ればライへインがベルタクインよりも大きかった。


 [ライへイン]

 [人口 32万5031人]

 [民心 74]


 既存国民の低い民心と移住者たちの民心が合わさって74の民心を形成した地域。

 移住者は税金対策について大まかなことは聞いていたがライへインの土着民は聞いていなかった。

 だから俺自ら乗り出した。初期であるほど自ら説明して回ればそれなりに効果が大きいから。


「新たに多くの人たちが移住してきて民心が動揺するだろう。だが……」


 村ごとにそう演説して回った。

 税金政策の効果は大きくて当然だ。一年間の税金免除は決してばかにならない。

 それは現代においても同様で、その税率がはるかに高いこの時代ではなおさらだ。

 税金政策で既存の土着民の不満を減らすことにも成功し民心は85まで急上昇した。

 そして、残ったのはブリンヒルだった。


 [ブリンヒル]

 [人口 62万4501人]

 [民心 54]


 民心が一番低いのは、ほとんど既存の人口だから仕方がなかった。

 彼らが何よりも心配しているのは移住民の居場所を奪ったことだ。もちろん、そんなつもりは毛頭なかった。

 ライへインでも移住民に提供するのは未開墾地。

 一般的にこの時代は国土の広さに対して人口が少ない。

 東京ほどの大きさに62万人しかいないと思えばいい。

 とにかく、ブリンヒルでも同様に演説を始めた。

 既存の地域住民にいかなる不利益も及ぼさず、むしろ一年間の税金免除で便宜を図るというものだった。

 今後、徴兵を実施するつもりだから今はできるだけ善意を施して民心を高めておかなければならない。


「……だからこそ税金政策を施行して移住民と既存の土着民がうまく融和できるようにするつもりだ!」


 当然ながら税金を免除することに不満を抱く者はいなかった。


 [民心が54から76に上昇しました。]

 [付加効果によって民心が76から91に上昇しました。]


 ただ、ブリンヒルでは珍しく民心がさらに上昇した。ライへインでは起きなかった現象だ。

 何かと思ってシステムを睨んだ。

 何の理由もなく付加効果が生まれるはずがない。


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