第86話

 雨後の筍の如く首を斬られ息絶えていく兵士たち。このままでは全員やられてしまうと思った俺は大通連を召喚した。

 メデリアンは俺のことが眼中にもなかった。むしろ他の兵士たちと同じ扱いで、俺にも同じように攻撃してきた。

 この程度の攻撃なら大通連で十分に阻止できる。

 広範囲のスキルというだけで別に攻撃力が増したとかいうわけではない。

 彼女の100という攻撃力がそのまま反映された攻撃だ。

 スキルで攻撃力が増幅するのは一騎打ちの場合に限られる。

 広範囲の攻撃スキルの多くは武力数値に変動がない場合が多い。そのため、この攻撃全てにそれぞれ100の武力が反映されているわけだから、兵士としては到底太刀打ちできない。

 俺はメデリアンの攻撃を完璧にかわしながら彼女に近づいた。

 近づくにつれて俺への攻撃は激しさを増したがそのくらいは阻止できた。

 距離を詰めるとメデリアンは剣を抜いて俺に向かってくる。まさにあの剣がバルデスカ家の宝物なのだろう。

 その剣と大通連が交錯した。

 激しくぶつかり合う。

 大通連もマナの塊だ。俺はマナを理解できていないが、動作の基本原理は白光を放つマナの塊だった。

 メデリアンの強力なマナが宿る剣と大通連が交錯する度に強い閃光が走った。


「なかなかやるわね」


 彼女はこの状況を楽しんでいるかのように言った。


「ククッ、退屈してたからちょうどいいわ」


 問題は、俺と剣を交えながらマナスキルを使い続けているということ。

 今もなお戦場に落ちている剣は彼女の武器となり宙に浮かんでは我が軍に降り注ぐ。

 その度に至るところで閃光が走った。

 手強い。

 大通連を使って攻撃[コマンド]を連打しているがやはり手強かった。

 まあ、彼女の方が俺より武力が高いから仕方がない。

 同時に二つのことをしながら戦うなんて。

 こんな化け物がいるとは。

 やはりS級なだけある。

 このままでは負けてしまう。

 あっという間に30分が経って、失敗で終わってしまう。

 つまり、最終攻略失敗という挫折と同時に死という罰則を受け入れなければならない。

 それは困る。

 武力97の俺が彼女と戦えるのは彼女が本気を出していないからだった。

 俺と戦いながらも余裕で兵士たちにスキルを使っている彼女だ。

 今がチャンスだった。彼女の武力は100。[真破砕]を使えば勝てた。

 問題は彼女のスキル。今使っているスキルは広範囲のスキルだ。

 だが、一騎打ちのスキルを持っているなら、その威力は凄まじいものに決まっている。だから[真破砕]なのだ!

 [真破砕]には相手のスキルを無力化するというもの凄い付加効果がついていた。

 つまり、相手の武力より強ければ勝てる可能性が出てくる。

 余裕を見せている今が最高のチャンスだ。

 彼女は今もなおスキルを使って兵士たちを殺しながら俺と戦っていた。まるでマナがあり余っているかのように。

 何を隠してるんだ?

 俺はひとまず馬首をめぐらせた。戦うのはいいがそれだけ我が軍の被害も大きくなる。

 結局は早く決着をつけなければならないということ。


「どこ行くの? 面倒なことにお兄様からこの戦場を離れるなって言われてるの。だから、あんたも逃げられない。それにあんた、なかなか面白いわ」


 俺は暇つぶしかよ。

 制限時間30分の縛りがあるから急がなければならない。今こそがチャンスだ!

 俺は彼女に[真破砕]を使った。

 大通連は白光を放ってメデリアンに直撃した。

 メデリアンは眉間にしわを寄せて驚いた顔を見せる。

 当然にも俺を相手しながら兵士たちに使っていたマナスキルもその瞬間止まった。

 兵士めがけて飛んでいた剣は全て地面に落下して、ついに彼女は大通連に集中し始めた。

 本能的に強力なマナであることには気づいていたがすでに手遅れだった。


「スウェッグ、ローリンズ」


 そう思った瞬間、彼女が帯びていた剣が飛び出した。

 スウェッグと呼んだ剣が[真破砕]を阻止する。

 それでは手に負えないと思ったのか続けてローリンズと叫ぶと、それも鞘から飛び出しては大通連の剣先を食い止めた。

 人の手は二つしかない。だから、武器を使っても二つが限界だ。それなのに彼女はもう三つ目を使っていた。

 手を使わずに空中で剣を操れるから。

 兵士たちに使っているのはマナスキルだが、空中に浮いた剣は黒い宝剣に付帯する能力のようだった。

 なぜかって? [真破砕]で無力化できないからだ。そうなると、これは宝物の能力ということにしかならない。

 つまり、現在の彼女の武力は102になってしまったのだ。

 [真破砕]と同レベルになったということ。

 武力102の二人がぶつかり合った。強力な力が衝突したのだ。


「バルデスカ!」


 なんと彼女はもう一つの剣を空に突き上げた。

 バルデスカと呼ばれる剣。

 今まで使ってきた剣も宝物だったが、これこそがバルデスカ家に受け継がれる宝物なのだろう。

 名前そのものがバルデスカだから。

 しかし、三つ目の剣ですでに大通連と同じく武力102となっていた。

 同級の法則。実はこれが生き残るための秘訣だった。

 ゲームの法則の中にこんなものがある。

 S級以上で同レベルの力が衝突すると強力な爆風が発生する。

 俺の狙いはそれしかなった。幸いにもバルデスカの剣によって彼女の武力が上がる前に武力が衝突した。

 今だ!

 頼む!

 同級の法則!

 まさにその時。

 俺たちは互いに弾き飛ばされた。S級を超える強力な必殺技が激突した結果、互いの力が相殺されて生まれる反発力で互いに跳ね返ったのだ。

 これこそが俺が待っていたあの同級の法則だった。

 俺はあらかじめ[30秒間無敵]を発動させるタイミングを狙っていた。

 この強烈な爆風から完璧に逃れるタイミングに合わせてその技を使った。

 後ろに飛ばされて地面を転がったが無敵だから痛みはなかった。

 だが、この痛みのために[30秒間無敵]を使ったわけではない。

 同級の法則によって発生する爆風そのものに102の武力が宿っている。


「ふぅ……」


 バルデスカの剣は合流できないまま他の宝剣と一緒に彼女の方へ戻って落下した。

 強力なマナの爆風によって周辺の兵士たちは一人残らず吹き飛ばされて消えてしまい、メデリアンも遠くの方で倒れていた。

 俺は[30秒間無敵]のおかげで無事だったがメデリアンは全身で爆風を受け止めたはず。

 それでも足が少し蠢いているのを見ると死んではなさそうだった。

 ナルヤ十武将序列第一位。

 この程度の存在だとは。

 宝剣がなければS級ではないのは確かだが、もし武力100を超えた状態であの宝剣を使っていたならそれは危なかった。いや、バルデスカの剣を先に使われていたらやばかった。

 彼女の余裕と戦い方がこの結果を招いたのだ。

 倒れたメデリアンは蠢いたまま姿を消した。

 バルデスカ家のあの宝具がまた発動したようだ。

 フランの時もそうだった。確かに俺の隣に倒れていたのにあの宝具を使って逃げたのだ。

 そもそも、こういった遺跡を設計したのも古代王国時代にバルデスカ家の協力があったからだとか。

 マナの陣、遺跡、宝具、宝物。こういったものに関わりの深い一族だ。

 俺まで弾き飛ばされてなければ仕留めるチャンスだったかもしれない。

 だが、すでに遠ざかっていたから何もできなかった。

 それに大通連も消えてしまった。

 彼女との戦いが長引いたおかげで[真破砕]を使った時がすでに限界だった。

 くそみたいな制限時間にひっかかってしまったのだ。

 幸いにも彼女にかなりの衝撃を与えることができた。蠢くものの体から立ちのぼる煙は彼女が受けたダメージをありのままに語っていた。

 もし[30秒間無敵]がなかったら俺は即死していたかもしれない。

 それだけ凄まじい爆風だった。

 同じ力を持つ武将同士の必殺技が激突するとこんなに危険だとは想像以上だ。

 とにかく、あの様子だと今後の戦争に参加するのは無理だろう。

 判定勝ちということか。

 願っていた結果ではないが。

 俺の望む結果は他にあった。 

 その瞬間。

 我が軍めがけて矢の雨が降り注いだ。

 それはメデリアンの第四軍が放った矢ではなかった。そもそも第四軍に弓兵など存在しない。

 そう、ついにフランの大軍がやって来たのだ。

 待ちに待ったナルヤ軍勢揃いの瞬間!




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