第82話
むしろこうして群れで動いてくれることでまた別の各個撃破戦術を使うことができた。
それを可能にするのがまさに機動力。
よく訓練された騎兵隊の機動力なら、やつらを手中に収められるだろう。
ブリジトで俺の各個撃破戦術を目にしたフランが怖気づけばかえって俺にチャンスが回ってくる。
その中でも最も脆弱なのは第三軍だった。
ケディマンの死と突然変わった指揮官によって内部の結束がうまくいかず士気が落ちた状態。
第三軍のいる場所は進軍する敵の後方だった。
「ジント、2000人の騎兵を率いて第三軍の先頭部に突撃しろ。突撃するだけでいい。その勢いで進撃し目の前の敵を倒しながらその場を抜け出すんだ」
「わかった!」
「ユラシア、君は2000人の騎兵を率いて第三軍の中間部に突撃してくれ。ジントと同じように突撃したまま反対側に抜けるんだ」
「わかりました!」
第三軍の先頭部と中間部を騎兵隊による突撃で一時的に分断すれば、その間の兵力は瞬間的に孤立状態になる。
2000人の騎兵が突撃している間に俺が6000人の騎兵を率いて分断された兵力を搔き乱す。
つまり、これも各個撃破戦術だった。
「よし、突撃するぞ!」
特にこれは宿営時ではなく敵が順調に進軍している時にこそ効果が発揮される。
歩兵隊を攻撃する時は騎兵である俺たちの方が機動力は圧倒的。
敵が抜け出した騎兵隊を追撃する? それ自体も部隊から離れた兵力は各個撃破の餌食になるというわけ。
俺の命令に従って15万の大軍の進撃路の後方、第三軍が進軍する地域にジントとユラシアがそれぞれ突撃して行った。
平地であるがゆえにその突撃は丸見えの状況。
こうなれば敵の前方の戦列と後方の戦列が一瞬分断される!
「よし、俺たちも突撃だ!」
そして、その分断されて一時的に孤立した第三軍に向かって俺は6000人の騎兵を率いて突撃した。
「わぁぁあああああ!」
強力な士気が伴った6000人の騎兵が第三軍の歩兵隊を踏みつけ始めた。
[分断されたナルヤ第三軍]
[兵科:歩兵2万]
[士気:60]
[訓練度:92]
ジントとユラシアが各自突撃して分断した中央部分。
そこが一時的に分断されたナルヤ第三軍となった。
「突撃しろ。目に見える敵は皆殺しだ。それからここを抜け出すぞ!」
[エイントリアンの鉄騎兵]
[兵科:鉄騎兵6000]
[士気:93]
[訓練度:97]
[ナルヤ第三軍歩兵2万]
[エイントリアン鉄騎兵6000]
[戦闘地形:平地]
[兵科の優位性:歩兵<鉄騎兵、攻撃力50%上昇]
[士気:ナルヤ<エイントリアン、攻撃力50%追加上昇]
平地での戦いだ。
一般歩兵と鉄騎兵が平地で戦うと兵科の優位性に大きな差が生じる。
数はナルヤ第三軍の方が多かったが圧倒的な鉄騎兵の優位性により敵は次々と倒れ出した。
第三軍の一番後ろは現在ユラシアの突撃によって分断された。
そしてユラシアの部隊を攻撃しようとして戦列が崩れたはず。
進軍する敵の隊列を箸と見立てると、ジントは箸の持ち手部分、そしてユラシアが真ん中部分を分断した状況。
俺はジントとユラシアが断ち切った部分に向かって飛びかかった。
そして、敵の首長である十武将のランプは偶然にもその分断された箸の持ち手部分にいたため、彼が助けに来る頃にはすでに俺たちはこの場を去った後となる。
[ナルヤ第三軍1万5000]
[エイントリアン鉄騎兵5700]
戦いが始まるとすぐにナルヤの第三軍は狼狽えて5000人の死傷者を出した。
奇襲でもあるが、これこそが兵科による攻撃力の優位性から生まれた効果!
もちろん、ナルヤの第三軍もしっかり訓練された兵士たちで戦列を整え対立し始めたが、
「退却しろ!」
これ以上戦いを続けるつもりはなかった。奇襲はただの奇襲に過ぎない。
ジントとユラシアのそれぞれの部隊も抜け出した頃だろう。
だから俺もここを抜け出す!
あまり長くいるとサンドイッチにされてしまう。
この各個撃破は一瞬の分断によって生まれる効果を発揮するものだから。
それにこれは単発の戦略ではない。
敵は知っていながらもそれを避けられなかった。
追撃隊を編成した瞬間、群れで進軍する意味がなくなるわけだから。
15万の大軍の長い列。
その列のどこを分断するかは俺たちが選ぶ。敵はただ24時間緊張しているしかない。
だからといって、戦勢に影響を及ぼすほどの被害を与えることはできないが……。
おそらく、この奇襲による被害が一番大きいだろう。
その後からは警戒を強めるだろうから激しく対応してくるはず。
だが、苦しめるだけでは数値に影響はなかった。
人間の士気とは機械の数値ではないから。
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