第69話

 *


 多忙な時期だ。

 しかし、ギブンの報告は決して無視できるものではなかった。

 マナの陣が出現したのだ。


 鉄のある場所にマナの陣だと?

 そういえば、ゲームでも終盤に登場する謎に包まれた地域だった。


「ギブン、本当に大丈夫か? エイントリアンで休んでいてもいいぞ」

「そうはいきません。山族がいる場所まで案内する人が必要ですから。隊長とすれ違いにならないためにも!」

「まあ、それはそうだな。もう少し辛抱してもらおう」

「このくらい平気です」


 すぐにギブンと共に出発した。

 ジントには他の仕事を任せたためユラシアだけが一緒だった。


「あそこが領主城です!」


 ベルタクインに到着するなり領主城へ移動した。ユセンがいるかもしれなかったから。

 だが、そこにユセンの姿はなかった。


「調査してみると言っていましたが、まだ山の中にいるようです」


 ギブンが心配そうな顔で後頭部を掻きながら言った。

 それなら領主城で他にやることはない。


「俺たちも山へ向かおう」

「はい!」


 ギブンの案内で山族がいるという地域へ移動した。


「こっちだったような……」


 しかし、ギブンは途中まで来ると道に迷い始めた。


「それが……。あの時すごく緊迫した状況だったので!」


 ここも森。あそこも森。辺り一面が緑のため見分けがつかないのも無理はない。


「とりあえず前進しましょう。そのうち顔を緑色に塗ったあの変なやつらが現れるはずです!」


 まさにその時。

木の上から何かが落下した。

 なんと落ちてきたのは人だった。


「出たぁぁあ! まさにあんなやつです! ヒィイイッ!」


 それを見たギブンは後ずさりして転倒し、ユラシアはすぐに剣を抜いた。

 ただ、顔にかなり見覚えがあった。


「何だ、ユセンか!」

「閣下、いらっしゃいましたか!」


 すると、気づかずに驚愕のあまり転倒したギブンが怒って立ち上がる。


「隊長! 何ですかそれは! 一体なぜやつらの格好を! 俺のいない間に山族にでもなったんですか?」

「うるさい。俺に気づきもせず幽霊でも見たかのように驚くお前の方こそ問題だろ」


 ユセンはギブンの尻を蹴り上げると俺に向かって言った。


「閣下! こうすれば周りの風景と同化して目立ちません。そんな理由から、山族も顔を緑色に塗っているのでしょう」

「まあ確かに、隊長は顔だけ見るとやつらと見分けがつか……」


 もう一言付け加えたギブンはユセンのお仕置きを受けて床を転がった。

 とにかく仲の良いふたりだ。


「それで、何かわかったか?」

「やつらの区域を調べ上げました。これが地図です!」


 ユセンが俺に手書きの地図を手渡した。


「とりあえず、マナの陣があるという場所まで見つからずに行く方法はあるか?」

「やつらは区域外には出てきません。絶対的タブーのようです。なので、こちらへ迂回すれば簡単に行けるのですが……」

「何かあるのか?」

「そこはやつらの聖地のような場所なので踏み入れば確実に気づかれます。それが問題です」


 それはそうだろう。

 だが、立ち向かうしかない。そのマナの陣がここまで来た理由でもあるから。


「だが、そのマナの陣を見なければ山族への対応も決められない。案内してくれ」

「かしこまりました」


 ユセンの案内に従って俺たちは道を大きく迂回した。ギブンと違ってユセンはすっかり道を熟知していた。


「あそこです、閣下!」


 果たしてどうだろうか。

 巨大な崖。そして、その下に描かれたマナの陣。とても見慣れた姿をしていた。


「やっぱり。あの時のあの場所と似ていないか?」

「私もそう思いました。これを見てください!」


 ユラシアが手を差し出した。彼女の指輪からは青い光が放たれていた。

 これもあの時とまったく同じだった。

 つまり、このマナの陣は古代王国が作った装置ということ。


 この地域にもし鉄があるとすれば、それはまさか古代王国で使っていた鉄鉱?

古代王国の滅亡により消失したものか?


「ウカカカカカウカ!」


 そんなことを考えているとあの存在がついに姿を現した。

一目で彼らが山族だとわかった。ユセンと似たような装いをしていたからだ。

 数百人もの山族が崖の上や背後から現れて俺たちを包囲した。敵対心をあらわにした顔で。


「君たちの族長は誰だ! 俺はここベルタクインの新しい領主エルヒンと申す!」


 すると、そのうちのひとりが口を開いた。群れの中で一番肩幅の広い男だった。


「お前たちが誰であろうと我われには関係ない。今すぐ出ていけ。さもないと命はないぞ」


 領主という地位についてまったく関心がないようだった。

 まあ、見るからにそんな感じはする。

 アフリカ原住民を思い出させるような装いの部族だから。

 変わったところといえば背丈が小さく肩幅の広い体型だ。

 がたいが良いというか。


「あの者が族長かと。結構強かったです。辛うじて勝てたくらいですから」

「そうか」


[ベルタ―ルマン]

[年齢:28歳]

[武力:80]

[知力:50]

[指揮:78]


 ユセンの話を聞いてすぐに能力値を確認した。確かに魅力的な能力値だった。


「出て行かないなら死んでもらう!やってしまえ!」


 警告を無視した結果、山族は俺たちに攻撃を始めた。それならこっちも強行突破だ。


「ユラシア、マナの陣を解除して中へ入った方が早そうだ。俺たちが保護するから扉を開けてくれ!」

「わかりました」


 ユラシアはうなずくとマナの陣へ駆けつけた。そして、俺たちはそんなユラシアの背後で体勢を整える。


「ユラシアが扉を開けるまで俺たちはあいつらを阻止する!」

「任せてください!」


 そうして押し寄せてくる山族との戦いが始まった。

 だが、それはほんの一瞬。

 マナの陣がユラシアの指輪から放たれる光と同じ青色に光り出すと地面が揺れ始めた。

 まるで地震のように。


「ウカカカカカ?」


 山族はその揺れに驚愕して攻撃を止めてしまった。

同時にマナの陣が描かれた壁が両断されると扉が開いて揺れが収まった。

 今もなお、ユラシアの指輪とマナの陣は共鳴しながら強力な青い光を放っている。

そうして中へ入っていく彼女。

 俺も彼女の後を追った。

 山族の攻撃は相変わらず停止状態。


「これを見てください。どうしてこれがここにあるのでしょう?」


 彼女が指さした扉の前。そこには土色の剣が突き刺さっていた。

ユラシアが首をかしげながらその剣を抜いた。

 ロゼルンにあった剣と同じ土色の剣を。


[無名の剣]

[武力+2]


 アイテムの効果もまったく同じだった。

 まさか古代王国の宝物はすべて同じものなのか?

 いや、何か秘密が隠されていようとも、土色の剣が12個もあるわけないよな?


「閣下! あいつらを、あいつらを見てください!」


 ギブンのその叫びに俺は振り向いて山族のほうを見た。


「ウカカカカカ!」


 俺たちを攻撃していた山族はいつの間にか全員平伏していた。まるで頭を下げるかのように。

 そして、族長らしき男がユラシアに平伏したまま口を開いた。


「主よぉおお!」


 まるで神を崇めるかの如く。

すると、ユラシアはきょとんとした顔で自分を指さした。

 ご主人様? 私が? という顔で。

 そんな彼女に代わって俺が聞くと、


「主って、一体どういうことだ」


 族長はユラシアに向かって大きな声で答えた。

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