第36話
*
[フラン・バルデスカ]
[年齢:28歳]
[武力:90]
[知力:96]
[指揮:90]
彼の能力値はすべてAだった。
何なんだ、この無双の存在は!
さらに、マナの陣!
高度な術式で発動するマナのもう一つの発現法。
マナの陣の威力は武器を通じたマナスキルに比べてはるかに強力なのが普通。
ただ、マナの陣はあらかじめ術式を作っておかないと発動できない。
つまり、準備に時間がかかるという欠点があった。
だが、戦闘は長時間に及んだ。その間にマナの陣を完成させたのだろう。
北門で起きたこの戦闘は囮だったということだが、もちろんそれは想定内だった。
だから、北門を守る兵士の数を減らしてリノン城全体の見回りを強化し、敵の策略を防ごうとしていたのだ。
「最後の勝者はこのナルヤです!」
彼が自信満々に叫ぶ。
まあ、確かにそのとおりだった。
北門の兵力が足止めを食らった!
兵力を分けていても北門の兵力が一番多いのは事実だ。こんな状況で、彼に敗北してばかりのローネンがリノン城を守れるとは思えなかった。
彼が手を振り上げると後方の全兵力が二手に分かれて動き始めた。
目的地は東門と西門だろう。
彼を止めるにはマナの陣を壊すしか方法はなさそうだった。
問題は、彼がマナの陣を使った瞬間に90だった武力数値が99まで上がったということ。マナの陣が発動すると彼の武力数値は再び90に戻った。
つまり、発動したマナの陣の武力数値が99で、マナの陣を使っていない状況での彼の武力は90ということだ。
マナの陣から発動した封印陣の武力は99。
特典を使えば武力数値は92になるが、[破砕]を使うと大通連に秘められた武力が97まで上がるのと同じ原理だろう。
だから、目の前の結界は99の武力を持っているということで、これは武力97の[破砕]でも壊すことはできないということだった。
「ギブン、兵士たちを落ち着かせろ! 俺が戻るまでに何とかするんだ!」
ユセンとジントは他の作戦に投入したため、ギブンに急いで命令を下した後、俺は城門に駆け下りた。
フラン・バルデスカのマナの陣か。
ようやく少し実体が見えてきたような気がした。
ゲームの始まりは1年後のナルヤの大征伐からだ。
だから、今はまだゲームが始まる前の話。ゲームでは説明だけに出てくる部分だが、なぜかそこにフランの名前は出てこなかった。
ナルヤ王国軍の策士とだけ表現されていたその実体はフラン・バルデスカだったのだ。
大陸には古代王国があった。王国の名前はエイントリアンで大陸全体を治める国だった。エイントリアン王国の広い領土は大陸十二家とエイントリアン王族が分けて統治していた。
もちろん永遠などない。エイントリアン王国が衰退していくにつれ、ひとつだった国は分裂し始め、大陸十二家はそれぞれ独立して国を作った。
ナルヤ、ルナン、マテインなどがこの十二家出身だったのだ。
そして、フラン家はその十二家出身であり、ナルヤと共にナルヤ王国を建国した一門。
S級のマナを持つナルヤの王。
そして、A級を誇るナルヤ十武将。
さらに、フラン・バルデスカ!
ナルヤ王国が大陸最大の強者でゲームでもラスボスのような役割を果たしていたのにはすべて理由があった。
ただ、俺がフランという人物を知りながらも、敵の策士が彼であることをまったく予想できなかったのは、彼がゲームの歴史で存在感を放つのは後半部分だったからだ。
後半のシナリオを知っているから覚えているだけで、ここですでに登場していた人物であることはまったく知らなかった。
まあ、今そんなことはどうでもいい!
「止まれ! フラン・バルデスカ!」
城門へ下りてきて名前を叫ぶと、フランが怪訝な顔をして近づいてきた。
「なぜ私の名前を? ナルヤでもまだ公表した覚えはありませんが」
それはシステムあるからだ。
「あんたは俺を知っているのに、それでは不公平だろ? 俺を甘く見ないでもらいたい」
「その情報力がどの程度のものなのかはわかりませんが、どのみちもうおしまいです。このマナの陣を壊せるのは、私の知る陛下おひとりだけ!」
確信に満ちた口調のフランに向かって俺は首を横に振った。
「フラン・バルデスカ! それはまさに自惚れだ! まだ終わってはいない!」
マナの陣の武力数値は99だ。
これを今すぐ破壊する方法はない。
だが、俺にはシステムがあった。
彼の武力数値は極めて高い。そう、だからこそ方法があったのだ!
武力の高い武将にかけられるシステム!
だから、自信満々なフランに向かって、
「一騎打ち!」
[相手に一騎打ちをかけますか?]
システムを発動した。
[一騎打ち]の命令語を使ったのだ!
ゲームで発動していた命令語はこの世界でも発動する。
それが俺のもつシステム。
これは、俺がやっていたゲームはもちろん、似たようなゲームにも常に出てくるシステム的要素だ。戦国時代には実際に多くの[一騎打ち]が行われていた。
この世界の状態も戦国時代と変わらない。
多くの国が分裂して戦う。ひとつの国になるために。
だから、[一騎打ち]は必要だ。
もちろん、ゲームでは[一騎打ち]が成立しない場合が多かった。普通は、強い武将が自分よりも弱い武将に[一騎打ち]をかけるからである。
ゲームの中ではこのような場合[一騎打ち]が成立しなかった。いくつか特別な条件が成立する場合を除いての話。
そのため、事実上無意味なコマンドでもあった。そう、ほとんど誰も使わないコマンドだったのだ。
誰が自分より強い武将に[一騎打ち]をかけるというのか。
だが、逆の場合がある。
武力の弱い武将が武力の強い武将に[一騎打ち]をかける場合は確実に発動する。
そう、100パーセントだ!
これが今回の作戦だった。
今の俺の武力は62。
フランの武力は90。
そして、システムは俺にだけ適用される。
つまり、弱い者が強い者に申し込むという条件さえ備わっていれば発動するのではないだろうかといのが俺の考え!
さらに、[一騎打ち]はゲーム上でふたりきりの空間を作り出す。
[一騎打ち]ができる空間を!
その空間が現実にも現れるなら封印から抜け出せるはず!
その予想は的中した。
[一騎打ち]を発動すると周囲が一瞬闇に染まった。
その瞬間、俺は目の前の黄金色の結界を突き破って移動した。そして、俺とフランの周りには青い壁ができた。フランと俺のふたりだけで対決できる空間が作られたのだった!
「な、何っ?」
これまで変化のなかったフランの表情が歪んだ。驚愕した顔でフランは辺りを見回す。
「ど、どうして……!」
ついには吃りながら俺を見つめた。かなり混乱している模様。
「私の陣を破壊するなんて……。いったい何を……」
こっちの世界の人にはシステムの力がそっくりそのままマナの力に見える。
つまり、フランよりも強いマナの力を使ったという話になるだけ!
俺は険悪な顔つきのフランにもう一歩近寄って言った。
「ナルヤの王は破壊の王。この世に災いをもたらす存在だ。その道を擁護するつもりか?」
「それがフラン家の使命ですから!」
フランはそのように叫んでは、改めて言った。
「ですが、これはいったい……!」
[特典を使用しますか?]
あとは勝負あるのみだ。フラン家はナルヤと深い関係にあるため登用はどのみち無理!
それなら決断は早い方がよかった。
[破砕を使用しますか?]
パニック状態の彼に向かって破砕を使った。
ナルヤ王国の3分の1の戦力を占める存在をここで始末できるということ!
武力97の破砕が彼をめがけて飛んでいった。
破砕の効果は即殺か気絶。今回はもちろん即殺を選んだ。
大通連がフランの体を貫通する!
いや、貫通するはずだった。
大通連がフランの体に触れるとスパークして彼の体にあったペンダントのようなものからマナの陣が飛び出したのだ。
そのマナの陣はフランが使った黄金色のマナの陣とは違い、大通連のような白い光を放ちながら彼の体を包み込んだ。
そして、光が消えるとフランは倒れて大通連が地面に刺さった。
俺はすぐに彼の元に駆けつけた。
奇妙な力で一命をとりとめたが、気絶したのか微動だにしない。
その瞬間、青い結界が消えた。勝負がついたと判断したのだ。
同時に術師の気絶により彼が作ったマナの陣も消えた!
終わらせようと地面に刺さった大通連を抜いた。
だが、まさにその時!
「殿下!」
突然、彼の前に3人の男が現れた。
「殿下をお守りしろ!」
ひとりの男がそのように叫ぶと、あとのふたりが俺に飛びついてきた。
どうやらフラン家の家臣のようだった。
剣を抜いた状態だったため飛びかかるふたりの男を斬り倒した。
その瞬間!
フランと彼の隣にいた男が赤いマナの陣と共に消えてしまった。
現れる時も突然。
消える時も突然。
くそっ!
エイントリアン城の地下に金塊を保管するマナの陣と同系統のマナの陣。
地下の金庫に入る鍵となるペンダントのようなアイテムを使ったようだが。
何か宝具のような種類のものを使ったのだろう。
フラン家といえばマナの陣を研究してきた一門。
それも1000年を超える歳月を研究してきた。
残念だが、方法がなければ仕方のないこと。
俺がもっと強くなればいい話だ。
彼が使うマナの陣は武力数値99。
[破砕]が相手にできるのは武力数値97まで。
ひとまず、武力数値をあと2つ上げれば恐れる必要はなくなる!
さらに救われたのは、[破砕]がもたらす気絶の効果が5時間であること。
フランがいない敵を撃破して追い払うには十分な時間だった。
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