第33話

 **



 ルナン王国の王都では王が暴れていた。


「無能なやつらめ。こんなふうに敗北するなら、最初から俺様の首を捧げて降伏すればよかったんじゃないか?」


 リノン城陥落の知らせが入ってきてからは不安で夜通し怒鳴り散らしているというか。


「このままではならん。ここは危険すぎる。王都を捨てて南部の領地に行くぞ」


 王の言葉にボルデ伯爵が反対に乗り出した。


「陛下。ルナン王国で一番安全な場所はここ王都の城壁です。他へ避難したところで……。それに、まだ合流していない南部領地の兵力もある上に、同盟国にも要請しておいたので、王都から動かない方が……」

「黙らんか! 俺様が生きてこそ、この国が生き残れるのだ!」


 だが、王は自分の命しか考えていなかった。領土を奪われても自分さえ助かればいいということだったから。


「ローネンのやつめ。守れると言っておきながら。何が最強のエルヒートだ、情けない。すぐに退避する準備をしろ。急げ!」


 王は急いで玉座から下りてきては跳ね回りだした。

 そんな中、王室の親衛隊の隊長が勢いよく駆け込んできた。


「へっ、陛下!」

「今度は何だ。まさか……。もう王都が危ないなんて言わないだろうな!」


 親衛隊長が駆けつけてきたということ。

 それは前線から報告があったということだ。

 王は顔を真っ青にして叫んだ。


「陛下、朗報です! 報告によるとリノン城を奪還した模様です!」

「何?」


 がたがた震えていた王の顔つきが妙に変わった。

 大殿に集まっていた他の貴族たちも全員同じ状況。


「陥落したばかりで奪還? リノン城の陥落は誤報だったということか?」


 王が言葉を失い瞬きばかりしていると、ボルデ伯爵が親衛隊長に向かって聞いた。


「そうではありません。陥落した城を奪還したのはエイントリアン伯爵の力だったという戦勝報告が上がってきています!」


 親衛隊長が報告書を差し出すと王はそれを受け取り読み始めた。王はすぐに表情を緩めると豪快に笑いだした。


「プッハッハッハッハ、プッハハハッ! これを見よ! これを!」


 貴族たちに向かってそう叫びながら王は笑い続けた。


「どうだ! 俺様が召喚したエイントリアン伯爵がリノン城を奪還したという報告だ! 悪評高いことを理由に反対していたやつら! これでも反対するか? プッハハハハ! 俺様の目に狂いはなかった!」


 エルヒンの召喚は確かに王の独断だった。

 王都を捨てて逃げようとしていた王だったが、今度はうかれて駆け回りだした。


「こうしている場合ではない。今すぐエイントリアン伯爵を王国軍の参謀にするよう戦場に伝えろ! 急ぐんだ!」


 国をこんな状態にした主犯は紛れもなく王自身だったが、勝利が自分の手柄であるかのように、そう命令したのだった。


 *


 ルナン王国軍序列第3位の参謀!

 リノン城奪還の功労により、俺は参謀の座に就いた。


 ヘイナは解任された。

 最後まで足掻いて、俺を抗命罪で処罰してほしいとローネンに訴えていたが無駄だった。

 俺が跪いて抗命罪を認めるとローネンは王の命令だとして罪を問わないことにしたのだ。

 ついに、邪魔者のいない状態で軍全体を動かしナルヤ王国軍と戦えるようになった!


 当然、目標は一刻も早くナルヤ王国軍を撃退すること。

 そうすれば、ひとまず時間ができる。

 どんな国であれ、一度戦争が終わった後に再び戦争を起こすまでには時間を要する。

 補給物資の問題もある上に兵力の充員や訓練も必要だから。


 ゲームの歴史では、ナルヤ王国軍がルナン王国を征伐した後、再びナルヤの王によって大征伐が繰り広げられるまでに1年という時間がかかった。

 ゲームは、ルナン王国の滅亡から1年後のナルヤの大征伐から始まっていた。

 それまでに育てたナルヤ王国軍は膨大な数の兵力。

 天下統一を志して起こした大征伐。

 ナルヤの王は即位して間もなかった。数十万の大軍を強兵にするには当然時間が必要だ。

 だから、今回の戦争を終えたらエイントリアンの力を育てる時間ができる。


 リノン城奪還の時に確認したところ、敵には十武将が参戦していなかった。

 敵はなぜか今回の侵略に十武将を帯同していなかったのだ。


「おそらくナルヤの王が試しているのだろう。あんな実験的な性質を持つ侵略軍に倒れたのは恥ずかしいことだが、これを機に陛下も戦争に備えることをお考えになられるはずだ。同盟国もナルヤの野心に気づいただろうから説得できる。なんとか今回の危機さえ乗り越えればいい!」


 ローネンにその理由を聞くと、こんな回答が返ってきた。

 即位して1年も経っていないが、野心に満ちた王であるという噂はすでに大陸全体に広まっていた。

 1年間育ててきた軍隊の成果を試してみたい気持ちから十武将なしで送りこんできたのではないだろうかという意見。

 もちろん、それに関する詳しい諜報はなさそうだった。

 そんな諜報能力があれば、こんなふうに何もできずに敗北することはなかったであろう。

 とにかく、重要なのは十武将がいないということ。

 ゲームでも十武将は参戦していなかった。

 その詳しい理由について今は知る由もない。


 もちろん、今その理由はどうでもいい。攻め込んできた敵軍に勝利することだけが重要。

 十武将がいないとなると、注意すべきは敵の策士だけ!

 敵はリノン城で2万の兵力を失った。残った兵力はあと5万。


 *


[獲得経験値一覧]

[戦略等級 B×2]


 戦略等級はB。

 不確実性の高い作戦だった。

 ローネン公爵が兵力を送ってくれなければ奪還はなかったから。

 ローネン公爵の助けを借りずにひとりでリノン城を奪還していればB以上が出たかもしれないが、意味のない仮定だろう。

 王国軍の合流なく奪還は不可能だったから。


[レベル13になりました。]


 それでも2段階は上がった。

 レベルアップは、素の経験値を計算した後、そこにプラス要素が掛け合わされる。

 素の経験値は純粋に敵を殺した数値だ。

 自分よりも武力の高い敵がいれば、プラス要素が生まれて掛け合わされるシステム。

 今回はひとりで倒した敵の数が膨大だった。

 兵力を率いて戦ったわけでなく、ひとり奮戦した時間がかなり長かったから。


[レベルアップポイントを獲得しました。]

[保有ポイント:500]


 獲得ポイントは400。

 スキルの使用にポイントを消費したから残り100ポイントに400ポイントが加算された。

 ポイントを得たところですぐに武力の強化にとりかかる。


[武力を強化しますか? 300ポイントを利用します。]

[武力が62になりました。]


 わずかではあるが1段階ずつ上げていくということが大切だ。

 そのうち70になる日がくるだろう。

 残りは200ポイント。

 これはひとまず残しておくつもりだ。


 *


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る