第32話

 *


 ローネン公爵はベルン城を捨てて恥辱的な後退をする。

 そして、その軍隊は敵の敵手に落ちたリノン城を通り越して逃げるのに夢中だった。

 それが歴史。

 その兵力はリノン城の奪還のためにどうしても必要な数値だった。

 だから、ユセンの人格にすべてをかけたのだ。

 もちろん、一番いいのはローネン公爵がリノン城に攻撃を始めたところに俺が登場して門を開けるという方法。

 そうすれば、味方が来るまで城門を開けたまま命がけで奮戦する必要はなくなる。

 だが、この方法を使うにあたってローネン公爵の俺への信頼度が問題だった。

 俺の話を信じてリノン城を攻撃してくれるだけの信頼は皆無。

 だから、事前に門を開けておいてそれを確認させる必要があったのだ。

 それが今回の作戦の核心!


「ひとまず戦いを続ける。まだ、リノン城を取り戻したわけではないからな!」


 俺はジントにそう声をかけながら、[攻撃]コマンドを操作する手を休めなかった。

 ジントとエルヒート、そして俺。

 武力が90を超えるA級武将が3人で戦場を牛耳ると敵の勢力はだいぶ衰えた状態だった。


「貴様ら、いったい何者なんだ! その程度の兵力でよくも! すぐにあいつらを始末して城門を閉めろ! さっさとしないか!」


 化け物のような鎧をまとった敵の指揮官がそのように命令を下した。

 それほど優れた能力値ではない。エルヒートやジントの武力には及ばない数値。

 だが、兵力は相変わらず敵の方が多いのは事実。


「全員、城門の前に集まれ! 副大将もこちらに来ていただけますか!」


 エルヒートと兵力を集結させ、城門の前で敵の攻撃に耐え忍ぶつもりだった。エルヒートがここへ来たということ自体が、結局は時間の問題ということだから。


「そうしようじゃないか!」


 敵の首を取っていたエルヒートがうなずき、我が軍は城門の前方に集結した。そんな俺たちを敵兵が一気に取り囲む。

 1万人を超える全兵力が目を覚ました模様。

 城門の前でジントとエルヒートが敵兵を殺戮していたが、その周りはすでに敵兵で埋めつくされた状態だった。


「もしや、何か考えでもあるのか?」

「はい。私が送った部下のユセンが狂いなく作戦を伝達していれば、こうして敵に包囲された状態はむしろ好都合です。狙いやすいですから」

「そういうことか」


 エルヒートが興味深いというように言った。


「あいつらを全員殺して俺が総大将の戦功を超えてやる。クッハハハハ!」


 その瞬間にも敵の指揮官は浮かれて叫びだした。


「冗談じゃない。敵の指揮官は城壁を見上げろ!」


 俺がそのように声を上げた瞬間。

 城壁の上が明るくなる。城壁の上を奪還した我が軍の兵士たちが松明を灯したのだった。

 これがユセンに伝達を頼んだ俺の最後の作戦。


 すぐに矢の雨が敵をめがけて降り注いだ。

 城内は壮絶な悲鳴に包まれる。

 敵軍はなす術もなく矢の雨の犠牲となった。


「攻撃開始!」


 間もなくして。

 開かれた城門から騎兵隊が突入してきた。

 攻撃命令を出したのは、ルナン王国の総大将ローネン公爵だ。


 敵の鏖殺が目前に迫った瞬間!

 夜明けを迎えたリノン城は、そのようにして再びルナン王国の所有となったのであった。



[設定集]-この世界のマナとは?


 この世界で強いということは体内に多くのマナを蓄積できるという意味。

 つまり、体内に蓄積しておけるマナの量が膨大であるほど強いということになる。

 10を蓄積できる人と100を蓄積できる人の強さは当然違ってくる。


 マナは剣術や拳法など武道を修練することで体内に蓄積される。

 または、生まれ持った才能で、努力なくして多くのマナを蓄積できる場合もある。

 才能、もしくは修練。

 これが蓄積できるマナの量を増やす方法だ。


 10のマナを蓄積した人は、剣術を使う時に自然とそれ相応のマナを使って攻撃できる。

 マナがどのくらい体内に貯まったかにより強さが増して攻撃速度も上がる。

 マナがたくさん貯まれば身体的限界を突破できるようになる。

 武力の高い武将が人間の限界を超えるほどの能力を発揮できるのは、このようなマナの原理による。


 マナを蓄積できる量が増えれば、武器を通じて集めたマナを発現することもできる。

 当然、体内に蓄積したマナが多い人ほどより強いスキルを使える。


 ただし、マナは一定量以上を体内に蓄積しなければ発現されない。

 通常、蓄積したマナを自然と攻撃に使えるのは武力80以上の場合であり、武力90を超えると集めたマナをスキルに活用することもできる。それだけ蓄積したマナの量が多いからだ。


 使ったマナは自動で回復する。体内に集めたマナの一部をスキルに使うと回復するまでにクールタイムがあるため、普段から自分の限界をよく把握した上でスキルを調節しながら使うのが一般的。


 素手や武器を通じてマナを使えるのはこういった力によるもので、このマナはより強いアイテム、つまり強い武器を使うほどにシナジー効果を生む。

 この世界で宝物級の武器を使う場合に武力数値が上昇するのはこんな原理。


 攻撃を通じてマナを発現する方法の他にも、マナを使う方法はもうひとつある。

 多くのマナを蓄積した存在がマナの陣を利用してスキルを使う方法だ。

 事実上、これはファンタジーの概念で魔法と呼ばれるもの。

 マナの陣という高度な術式を利用すれば、武器を通じてマナを使うスキルよりも広範囲のスキルを使うことができる。


 もちろん、この場合も使用者が大量のマナを蓄積していなければならないのは同じだが。

 同量のマナを集めた使用者でも、マナの陣を利用した方がより強力なスキルを使える。

 ただ、この大陸でマナの陣を利用する者は極めて少ない。

 マナの陣そのものにかなり高度な術式が求められるため、使用者も高度な知識と理解力を持っている必要があるからだ。


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