第150話 3人の作戦会議
「──それで? 私に用事ってどうしたの? 手短に終わらせてね。早くしないと田辺くんが帰っちゃうから」
そう言った西川さんは、遥香ちゃんと「西城負けちゃったねー」「田辺くん調子悪いのかな?」「応援が足りなかったのかな?」と話している。
さっき遥香ちゃんには陽一郎の"ロボット化"と、症状や原因の全てを伝えた。
そのせいか「そうだねー」「もっと応援すれば良かったね」と返事しているけど、少し困った様子で俺をチラチラと見ている。
……西川さん。
応援は足りてたよ。
むしろ減らして欲しい。
陽一郎の調子が悪いって?
うん、4回までは絶好調だったよ。
遥香ちゃんも困ってるし早くしないと……
だけど、どうすれば良いんだ?
呼び出したけど言葉に困るよな。
①西川さんの応援で負けたんだ。
②陽一郎は西川さんが来たから壊れた。
──候補はこれだ!
……いや、どれもダメだろう。
言葉を選んで少しずつ話してみるか……
「西川さん、陽一郎は学校に向かったよ。大会は終わっちゃったけど、主将だから監督と用事があって遅くなるみたい」
「えーっ! そうだったの? 吉住くんが居るから田辺くんも暇だと思ったのになー」
ごめんな、これは嘘だ。
陽一郎は家に帰ったから暇してるよ。
「それで、私に用事って?」
「ああ、陽一郎とはどうなのかな? って思ってさ。俺が聞いても何も教えくれないんだ」
これは嘘じゃない。
聞いても教えてくれないのは本当だ。
だって、陽一郎は覚えてないんだもん。
「えー! そんなに知りたいの? 仕方ないなー。田辺くんとはね──」
話し出した西川さんは凄かった。
陽一郎の事を聞いたのは俺だけど、ここまでとは思わなかったよ。
……もう15分以上、陽一郎の個人情報を聞いている。
でも、少し無理してる気もするんだ。
「……綾ちゃん。もう良いよ。無理しなくても」
俺が思うんだ、遥香ちゃんが気付かないはずがない。
2人は毎日一緒にいるんだから。
「西川さん、俺が知りたいのは陽一郎の様子なんだ。一緒に居る時ってどんな感じ?」
「……」
無言が返事か……
やっぱり西川さんも気付いてたのか。
「陽一郎って最近は変じゃない? 例えば会話が成立しなかったりしない?」
「……うん。無言になる事が多いのよ。だから私は今まで以上に話しかけてる」
えっ? 今まで以上に話してる?
それは悪化するだろ……
仕方がない、全部言おう。
「えっとな……それは逆効果だぞ? この前から思ってたんだ。陽一郎は──」
陽一郎の状態を全て話した。
"一緒に居た事を覚えてない"って事が一番ショックだったらしい。
「綾ちゃん……」
西川さんは何も言わず泣いている。
少ないけど周囲に人が居て、こっちを見てるし……
これって、俺が泣かせたと思われてるよな。
「……田辺くん。私の事が嫌いなのかな?」
そう言うと更に泣き出してしまった。
陽一郎は"嫌だ"とは言ってない。
西川さんがやり過ぎてるだけなんだ。
「陽一郎は嫌ってないぞ?」
「……本当に?」
「本当だよ。一緒に通学した後、陽一郎の様子が変だったから聞いたんだ。その時に『嫌とは思ってない』って言ってたからな」
「……じゃあ、どうしてなの?」
「普通にすれば良いと思うぞ。陽一郎には普通に接する方が良い」
「……普通に? ……それが分からないよ」
とりあえず泣き止んでくれたけど、何故か考えて込んでいる。
……普通が分からないのか?
「今みたいな感じだよ。今は俺と遥香ちゃんが居るだろ? 俺達に接するみたいに普通にすれば良い。今の西川さんを見てると、陽一郎と居る時は無理してないか?」
今の雰囲気を見ると、グイグイと強引に行く子だと思えない。
こうして見ると、可愛い女の子なんだ。
「だって……こうでもしないと田辺くんは私を見てくれないもん……」
うん、ただの不器用な子だった。
2人の事に口を出す予定じゃなかったけど、陽一郎の故障も困るし、今の西川さんを見てると何かしてあげたくなる。
「じゃあさ──」
俺は思い付く方法を言ってみた。
「えっ? 本当にそんな事で良いの?」
「まあ一度やってみてよ。そうだな……月曜日の朝、この前みたいに一緒に登校しない? その時に試してみよう。先に東光に寄った後、陽一郎の様子を確認するからさ。大丈夫そうなら続けてみよう。ダメなら他の方法を考えるから」
「やったー! 月曜日は一緒に学校に行けるねー」
喜んでいるのは遥香ちゃんだ。
黙って聞いていたけど「一緒に登校」って言葉に反応して嬉しそうにしている。
「遥香ちゃん、これで一緒に登校できるよ。上手くいけば卒業まで大丈夫だ」
「うん! 寛人くんと卒業まで登校できたら良いね。寛人くんと登校かー。ダメだと思ってたから嬉しいなー。寛人くん、楽しみだね!」
「そうだな。俺も遥香ちゃんと登校する方法を思い付けたから良かったよ。月曜日が楽しみだね」
遥香ちゃんと登校したかったからな。
嬉しそうにしている遥香ちゃんを見ているのが好きだ。
「……ねえ? 本当に私と田辺くんの為なの?」
西川さんが冷めた目で俺達を見ている。
「──っ! えっ? うん……そうだよ?」
「なによ! その変な間は? それに、その疑問文は何なの?」
……どうしてこうなった?
陽一郎のロボット化を阻止する方法を考えてたんだ。
そして方法を思い付いた。
そうだ、ここまでは間違いない。
俺は決して遥香ちゃんと登校する為に、2人の関係に口を挟んだんじゃないからな?
「はあ……とりあえず吉住くんの言った方法を試してみるよ。でも、正直……2人が目の前でイチャイチャしてると羨ましいなって思う。遥香は本当に幸せそうだもんね。私も遥香との付き合いは長いけど、こんな笑顔は見たことないもん」
「うん! 寛人くんと一緒だからね! 綾ちゃんと居る時も私は幸せだよ」
そう言って、遥香ちゃんと西川さんが笑い合っている。
しかし、俺には言いたい事がある。
「西川さん、俺はイチャイチャなんて──」
「──してるわよ!」
西川さんから見たらそうらしい。
俺達の事は忘れよう。
今は陽一郎と西川さんの件だ。
「まあ、とりあえず月曜日は一緒に登校しよう。時間はこの前と一緒でも良い? 本当はもう少し遅くても大丈夫だけど、まだ俺と遥香ちゃんを見に来る人が居るからさ」
「私は大丈夫よ。遥香もそれで良い?」
「うん。私も大丈夫だよ」
これで月曜日の登校は決まった。
陽一郎に「月曜日は早く学校に行く」と伝える仕事が残っているけど、そこは大丈夫だろう。
「話は決まったな。そうだ、遥香ちゃん……俺達もそろそろ行かないと……」
「あっ! もうこんな時間になってるね」
試合後は遥香ちゃんを家に連れていく予定になっていて、母さん達には少し帰りが遅くなると連絡はしている。
だけど、予定より時間が過ぎてしまっていたんだ。
「そっか。遥香は吉住くんの家に行くのよね? 時間を取らせちゃってゴメンネ。私は帰るから。遥香……吉住くんのお母さんと会うのは久し振りでしょ? 楽しんでこないとダメだからね」
西川さんと別れ、俺は透さんに、遥香ちゃんはお母さんに電話をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます