第123話 チケットの受け取り

 健太がブルペンで投球練習をしている。

 俺は横で見ていて感想を伝えていた。


「思ってたより良いな。これなら試合でも大丈夫だと思うぞ」


「本当ですか? やった! 寛人さんに誉められた!」


 健太は誉められて嬉しそうにしている。

 体は大きいけど可愛いらしい奴だ、今更だけど健太が入学してなかったらどうなってたんだろう。

 夏も4番として予選や甲子園で活躍してたし、新チームでは投手も兼任させてるんだ。

 俺は負担を感じてないか気になっていた。


「そういえば、健太にスカウトは何校来てたんだ?」


「えーっと……10校から来てましたよ。どうかしました?」


「健太……1年で4番を打たせてたし、今度は投手もやらせるんだ。健太に負担を増やしてしまってると思っててな。西城に入学して後悔してないか心配になってる」


 健太はキョトンとした表情をしている。

 俺は思った事を言っただけで、変な事は言ってないぞ。


「望んで寛人さんの後を追いかけてきたんですよ? 寛人さんと一緒なら甲子園に行けると思ったから西城に入学したんです。それが1年目で叶ったのに文句なんてないですよ。1年生の4番ってカッコ良いじゃないですか! 知ってました? 甲子園に出た高校で1年生の4番って俺だけですよ?」


 1年生で4番がカッコ良いか……

 控え目だと思っていたけど目立つのが好きだったのか?

 そういえば琢磨と仲が良かったし、意外と似てる所があるのかもしれない。


「そうか。負担を感じてなければ良いんだ。それと、体が硬いから投球にも影響が出てるぞ。怪我の予防にもなるから柔軟はしておけよ」


「はい! 分かりました! 今日のバッティング練習は寛人さんが投げてくださいね!」


「ハイハイ、分かってるよ。約束だからな」


 その後はバッティング練習で投げてやって健太は満足したみたいだ。

 

 それにしても良い打球を飛ばす様になった。

 入学した頃のバッティングが嘘みたいに感じるし、甲子園で更に良くなったと思う。


 それと同時に体の硬さに驚いた。

 これで柔軟性をつけたらと思うと、来年の健太が楽しみになってくる。



 楽しみといえば翔と翼もだ。


 2人の守備は甲子園でも評価をされて双子の二遊間として有名になった。

 それがヤル気に繋がったのか、内野手のリーダーとして自覚が芽生えたみたいだ。


「翔と翼! 今のプレーは良かったぞ! 秋季大会でも頼んだからな!」 


「あっ! 寛人だー! 僕達は大丈夫だから他の人を見てあげてよ!」


「そうだよ! 内野は僕達に任せてよ!」


 2人がそう言うなら遠慮なく他を見よう。

 次は外野の守備練習に目を移す。


 うん? 琢磨はどうしたんだ……?


「なあ健太。琢磨は立ちながら寝てないか? しかも今はボールも捕っていたし。どうやってるのか知らないけど、寝ながら野球をやってるぞ」


 琢磨はどう見ても寝ている。

 アイツは寝ながら野球ができるのか?


「そういえば夏休みの宿題で寝不足だと言ってましたよ。俺にまで宿題を見せてくれって言ってきましたし。冗談だと思いますけどね」


 健太、琢磨は本気だと思うぞ。

 普段の琢磨を見てると本気で1年生の宿題を写して提出しそうな気がする。


「とりあえず宿題をやってるみたいで安心したよ。ノックを打ってやるから健太も守備練習に合流してこい」


 それから俺はノックを打っていた。


 どうして俺がノックを打ったり全体の練習を見ているかというと新チームで副キャプテンになったからだ。



 ──あれは始業式の日だ。



「寛人、新チームで副キャプテンをやってくれないか? 先輩も居ないし他に適任者が居ないんだ」


 去年から手伝っていたので協力するのは問題ない。

 しかし副キャプテンになる事には消極的だった。


「俺も足の事があるし、投球練習中は他を見る余裕なんてないぞ。手伝いだけじゃ駄目なのか?」


「俺が病院に行ってる間だけでも頼めないか? 内野は翔と翼が中心だから大丈夫だ。問題はブルペンと外野だな。琢磨は目を離すと何するか分からない時があるから」


 それで俺は副キャプテンを引き受けた。

 今日は陽一郎が病院に行っていて不在だから俺が見ていた。


 陽一郎、外野で寝てる奴が居るぞ。

 さっきも外野から返球してたし、寝ながら練習なんて神業を発揮してるけど起こした方が良いのか?


 とりあえず俺は見なかった事にした。



 そして練習が終わり、部室で着替えていると陽一郎からメッセージが入る。


『寛人、そろそろ練習が終わるよな? 悪いけど帰りに西城駅で会えないか?』


「もうすぐ学校を出るから大丈夫だぞ。何かあったのか?」


 陽一郎からの呼び出しは珍しい。

 毎日会っているし、何かあれば電話やメッセージで伝えている。


 もしかして病院で何かあったのか?


 俺は心配になっていたけど、陽一郎の返事は「とりあえず西城駅に来てくれ」だった。


 やっぱり病院で何かあったんだ……!

 

 そう思い、部室の鍵を健太に託して西城駅へと急いだ。

 そして駅前には陽一郎の姿が見える。


「陽一郎! 病院で何かあったのか?」


「あっ! いや、何もないぞ……呼んだのは俺じゃないんだ……」


 呼んでない?

 西城駅に来いって言ったのは陽一郎だろ?

 陽一郎が振り返ると、西川さんが居た。


「西川さん? 陽一郎、西川さんが俺を呼んだのか?」


「そうよ。私が頼んだの」


 陽一郎の代わりに西川さんが答えている。


「そうか。それで俺に用事って?」


 俺に用事って相澤さんの事かな?

 そう考えていると封筒を手渡された。


「中に学園祭のチケットが入っているわ。遥香に渡してって頼まれたのよ。田辺くんに頼んでも良かったけど、直接渡したかったから呼んでもらったの。だって、この日が帰国してから初めて会う日でしょ?」


 西川さんから学園祭の日程を聞いたって言っていたな。

 それに帰国してから初めて会う事まで知ってるし、西川さんには色々と言ってるのかもしれない。

 電話で気になった事も聞いてるのかな?


「ありがとう。西川さんは相澤さんから何か聞いてない? 例えば誕生日の事とか」


「誕生日? 遥香と電話した時は何も言ってなかったわよ。でも……少し様子が違ったかも……だって、チケットも『絶対に渡してね!』って念を押されたし。だから直接渡したんだけどね」


「そうか、ありがとう。陽一郎と楽しんでたのに悪かったね。陽一郎、俺は先に帰るからな」


 西川さんは何も聞いてないのか。

 でも様子が違ったのは勘違いではなかったみたいだ。


 考えても分からないし、学園祭で会った時に聞いてみよう。


 色々と考えながら駅の中に向かうと、陽一郎の声で「一緒に連れて帰っ──」と微かに聞こえてきた。

 だけど、それは気のせいだと思う。


 そして相澤さんに学園祭のチケットを受け取った事を伝えた。



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今日と明日は書く時間がないかも…

書けなかったらごめんね(*T^T)

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