第77話 進路希望

 side:寛人



 相澤さんを家に送ってからは連絡がなかった。薬を飲んで寝てるんだと思う。


「お大事に。早く良くなってね」


 このメッセージだけ送信した。


 俺については帰宅してからが大変だった。

 何が大変かって、母さんだ……


「行けなかったなら早く教えてよ。寛人が行くって伝えてたら、皆が会いたいって言ってたんだよ?」


「相澤さんの体調が悪かったから家まで送ったんだよ。体調悪いのに行けないだろ?」


 そこからだった……

 どうやって連れて帰ったのか? 家に入ったのか? ちゃんと挨拶したのか? 色々と聞かれた。

 最後には「母さんも挨拶に行く」とか言い始めて大変だった。


 高校生にもなって、親が友達の家に挨拶って勘弁して欲しい。恥ずかしいだろ……


 透さんが帰宅して母さんを落ち着かせてくれたから助かったんだ。


「そうだ寛人くん。今週中には詳しい検査結果が出るから病院に来て欲しい」


「分かったよ」


 相澤さんの体調も心配だけど、俺の足も心配だ。

 この前は異常は無いって結果だったし、あの試合の日から違和感も無い。許可はあるから明日以降も練習には参加する。



 翌日の朝、相澤さんからメッセージが入った。


『昨日はオーケストラを聞けなくてごめんなさい。家まで送ってくれたんだよね……ありがとう』


「もう大丈夫なの? 昨日の事は気にしなくて良いよ」


『熱は下がったけど今日の学校は休むよ。今度お詫びをするね』


 相澤さんなら気にするか。

 返事をどうしよう……


「お詫びなんて要らないよ。相澤さんの元気な姿を見れたら俺は嬉しいよ。帰る時に言ったでしょ? 次は相澤さんの行きたい所に行くからって。その時に一緒に楽しむのがお詫びって事にしようよ」


 すぐに返信が来なかった。

 気にしない様にって考えて送信したんだけど変だったかな?


『うん。ありがとう……何処に行くか決めたら連絡するね』


「楽しみにしてるよ。今日は休んで早く治してね」


 相澤さんは何処に行きたいって言うのかな。俺と似てる所があるし変な場所ではないと思う。連絡が来るのを楽しみにしてるよ。


 連絡が終わった頃、陽一郎が迎えに来たので学校へ向かった。

 そして朝のホームルームの時間になって、先生が進路の事を話してきたんだ。


「始業式の日に伝えてた進路希望表を配るから、家で親御さんと相談してこいよ?」


 進路希望といっても国公立か私立や留学、何を希望するかという内容だった。


 普通科は専門学校に行く生徒も居るが、特進科は理由が無い限り、全員が大学進学しているからな。


「吉住はどうするんだ?」


 聞いてきたのは隣の席の安藤だった。


「まだ何も決めてない。迷ってるよ……安藤は大学だよな? やっぱりサッカーで選ぶのか?」


「野球部と違って弱いからな。サッカーは続けるけど、部活に入るかは分からない。俺は普通に大学と学部で選ぶよ」


 陽一郎は俺が大学なら一緒に野球をやりたいって言ってたから野球で大学を選ぶのかな? 

 大学か……相談したいけど、母さんは音大で透さんは医学部だろ。2人は一般の学部と違うからな……

 でも、話をする必要があるから大学の事を聞いてみるか。



 それから部活の時間になって、通常の練習に参加しても足に異常は無かったので安心していた。


 今日のバッティングピッチャーは俺だった。次のバッティングは健太か……


「陽一郎。健太には本気で投げるぞ」


「バッティング練習だからストレートだけだぞ」


「分かってるよ。コースだけ頼む」


 健太がバッターボックスに立って構えていた。相変わらず打ちそうな雰囲気だな。

 俺は陽一郎のミットに投げた。

 本気で投げても足に違和感は無いし、ストレートも良い感触で投げれている。


 20球投げて、健太が前に飛ばせたのは3球だけだった。ヒット性の打球は1球だけだ。


「ありがとうございました……」


「だから健太、落ち込むな。前にも言ったけど寛人の球は東光バッターでも苦しむんだ。1年には難しいし、予選までに寛人の球に慣れたら大丈夫だ」


「この前の練習試合で打ったのは奥村さんですよね? 甲子園でも打ってましたし」


 健太、この前は打たれたんじゃない。打たせたんだ。


「夏のために打たせたって感じだぞ? 試合前から決めてた事なんだ」


 陽一郎が健太に説明してくれた。

 打たれたんじゃないって分かっただろ?


「寛人さん。そうなんですか?」


「陽一郎の言ったとおりだよ。得意なコースなのか知る為に、中学の時に打たれた所に投げたんだ」


 東光大学附属の選抜甲子園の結果は初戦敗退だった。

 確か奥村は甲子園でも打ってたな。

 それがチームで唯一の得点だったはずだ。

 

「寛人! 早く来てくれやー!」


 話してる途中で入ってきたのは琢磨だった。この後、ブルペンで投球練習を見る約束をしていた。


「悪いけど琢磨の所に行ってくるよ。木村さんと早川さんにもブルペンで待ってる事を伝えててくれ」


 琢磨に教えるついでに、木村さんと早川さんに俺のフォームを見てもらう予定だ。

 自分の感覚とビデオでは変わってないけど、同じ投手から見た変化が知りたい……

 試合中の異常の原因を知りたいから。


「どうでした?」


「変わってないというか、やっぱり去年より安定感があるぞ?」


「うん。軸足もしっかりしてるし……でも、その右足だろ? 試合中に違和感があったのは」


「俺は何にも分からへんわー」


「分かりました。木村さん、早川さんありがとうございました」


「寛人! 俺には無いんか!」


 琢磨は見ても分からんと思うから頼んでなかったんだけどな……まあいいか。


「琢磨もありがとう。外野の守備練習やってるから行ってもいいぞ?」


「そうか? ほんなら行ってくるわー」


 琢磨は走って居なくなった。

 結局、何日か経っても練習中では異常は出てこなかった。



 そして透さんの診察を受けた時……


「やっぱり異常は無いね。原因が分からない……練習中は大丈夫だった?」


「球数を増やしても大丈夫だったよ」


 試合と練習は違うからな……

 練習試合で投げる時になったら分かるだろう。


「分かったよ。次に何かあったら、その前に何があったか覚えておいてね。これで今日の診察は終わりだよ。寛人くん、もうすぐ僕も帰るけど一緒に帰る?」


 進路の事も相談したかったし、一緒に帰ろうかな。


「うん、一緒に帰るよ。帰ってから相談があるんだよ……進路希望を出さないといけなくて、大学の事を聞きたいんだ」


「僕の大学時代の話で良いんなら教えてあげるよ」


 帰宅したら母さんも居たので大学の話を聞いた。


 結論は音大と医学部……予想してたけど、母さんは練習ばかりだった、そして透さんは勉強で忙しかったらしい。


「寛人くんはプロを目指さないのかい?」


「まだ何も考えてなかったんだ。勉強はしてるから、プロや大学……色々と考えたいんだ」


「寛人。アンタがプロを目指すのか、国公立に行くのか、私立に行くのか……しっかり考えて、後悔しない選択をしなさい」


「寛人くん。学費の心配は要らないからね。相談したい事があったら言っておいで」


「ありがとう。まだ時間はあるから考えるよ。今回の進路希望表には国公立と私立の両方を選択して出すよ」


 大学か……そういえば相澤さんはやっぱり音大なのかな? 前に言ってたし、一回聞いてみようかな。


 相澤さんは帰宅してるとメッセージが入ったので電話をかけた。



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忙しくて更新が少し遅れるかもしれません。コメントも返信が遅れてます…

ごめんなさい(*T^T)

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