第66話 2ヶ月後
初詣の日から2ヶ月が過ぎた。
明日は東光大学附属との練習試合がある。
「調子はどうなんだ? 明日の東光大学附属との試合は大丈夫なのか?」
「問題ないな。投げても打者9人だけだろ? それに本気で投げるなって言ったのは陽一郎だろ?」
まだ試合では投げていないけど、ストレートは去年より良いと思う。
そして、明日の試合には西川さんに連れられて相澤さんも見に来るらしい。
短いイニングでも投げれる所を見せてあげたい。
相澤さんとは頻繁に連絡は取っていたけど、初詣から会えなかったから久し振りだ。
初詣の日の事は聞いたけど「運動して疲れたんだよ」と返ってくるだけだったから、それ以上は聞けなかったんだ。
相澤さんの管弦楽部は、1月のコンクールで優勝し地区代表になった。
2月末には全国大会に出場して、初めて3位になれたと喜んでいた。
大会が終わるまで、毎日遅くまで部活の練習で会う事が出来なかったんだ。
何度か会えないかと思ったけど、朝練で朝が早く夜も遅いので、全国大会が終わるまでは家族の車に乗って登下校していたから無理だった。
「家族が心配して車になったんだよ」と聞いていたけど、俺も遅いと心配になるから賛成だった。
そして俺は今は、琢磨と投球練習をしていた。
琢磨も明日は投げる予定になっている。
「おりゃ! どうや! 何キロやった!」
「138㎞だな。自己最速じゃないか?」
「ホンマや! もうすぐ寛人を超えるで」
「琢磨にも出番はあるから期待してるよ」
1人でも長く投げて欲しいので、琢磨の投球には少し期待している。
どこまで投げてくれるか分からないけどな。
「琢磨……無理に寛人と比べるなよ? 球速だけなら寛人より速い奴は他にも居ると思うよ。でも寛人は変化球のキレとコントロールも抜群なんだよ。琢磨も分かってるだろ? だから張り合うな」
「陽一郎。少しは喜ばせてくれや……本気で寛人と張り合う気なんかないわ」
「琢磨、俺が分かる所は教えるから練習して上手くなれば良い。琢磨には琢磨の良さがあるんだから」
琢磨は文句を言っていたが納得させ、投球練習が終わった。
この後は走ったら今日の練習は終わりだ。
皆が帰った後は陽一郎とミーティングの予定があった。
練習が終ってから部室で陽一郎と話していた。
「琢磨じゃないけど今日は何キロ出たんだ?」
「145㎞だな。投げた感じは去年より良いぞ? 夏にはもう少し出ると思う」
「そうか。それなら明日は予定通りストレートのみだからな」
「そうだな。和也や奥村……新レギュラーの打力が見たいからな。奥村には2年前に打たれたコースを投げてみるよ」
ストレートだけだから0点で抑えるのは難しいかもしれない。
東光大学附属は調整の為に……
俺達は相手の戦力を確認する為に……
お互いの目的は一致してるから問題はない。
「あと、明日は取材も来るからな」
「ああ、美咲さんだろ? スマホにも連絡があったよ」
「なんでスマホに連絡が来るんだよ。直接やり取りしてるのか?」
「別件で頼み事をしてるんだよ」
久し振りに取材を受けた日に、美咲さんには頼み事をしていた。
何か分かれば良いと思ってる程度だから期待はしていない。
そして試合の日になり、俺達は東光大学附属の野球部のグラウンドに着いた。
「何やこれ? めっちゃ凄いやん」
「うん。ビックリだねー」
強豪の私立は設備が凄かった。
あれが和也の言っていた室内練習場か……グラウンドも球場みたいな感じだな……
内野にはスタンドもあるし……
だから相澤さん達は見に来るって言ってたんだ。
観戦する場所はあるの? と思ってたからな。
スタンドには相澤さんと西川さん、山田さんも居て、選抜前だからか記者や一般の観客の姿も見えた。
今は試合前だ。話をするのは後にしよう。
「寛人。それじゃ、打者一巡だけど頼んだぞ」
「ああ。和也は8番で、奥村は7番か……奥村の時は分かってるよな?」
「分かってる。寛人も構えた所に投げろよ」
東光大学附属との練習試合が始まった。
俺達は先攻で、攻撃は3人で終わった。
そして俺は久し振りのマウンドへ向かう。
久し振りのマウンド……
そしてストレートだけか……
でも打たせるつもりはない。
1・2番は振り遅れてセカンドゴロ。3番は粘られたけど三振で初回を0点に抑えた。
2回も両チーム共に3人で攻撃が終わった。
そして3回裏、東光大学附属の攻撃。
この回で俺の出番が終わる予定だ。
先頭バッターは奥村だ。
奥村には2年前にホームランを打たれたボールと同じ所に投げる予定をしていた。
あの時は外角低めのボールを打たれた。
普通なら打たれないコースだったから、もう一度投げて得意なのか調べる予定だった。
そして初球……
外角低めにストレートを投げた。
奥村がバットを振る。
やっぱり振りが鋭い……
早い打球が右中間に飛んで、奥村は二塁まで進んだ。
やっぱり得意みたいだな。
次は和也か……
和也はストレートに振り遅れたが、ファーストがエラーをして無死一・三塁になってしまい、陽一郎がマウンドまでやってきた。
「奥村には打たれたな。なんであのコースを普通に打てるのか分からんよ」
「そうだな。迷いなく振ってきたから得意みたいだ。まぁ、分かったから良かったよ。それで陽一郎……もう良いだろ? 俺への苦手意識を持って貰いたいから本気で投げるぞ」
「俺も本気で投げろって言いに来たんだ。目的は達成したからな。この回で最後だから頼んだぞ」
ここから変化球も使い、ストレートも本気で投げた。
ボールは陽一郎の構えたミットに全て収まった。
打者3人は三振で俺の出番は終わった。
そしてブルペンで軽く投げながら美咲さんから取材を受けていた。
「最後は本気で投げたでしょ?」
「ええ。やっぱり分かりました?」
「そりゃ分かるわよ。でも怪我する前より良いんじゃないの?」
「そうなんですよ。夏はもっと良くなりますよ」
そして美咲さんの取材が終わった。
「そうそう、吉住くん。あの事だけど……」
頼んでいた件は分からなかった。
まだ続けてくれるみたいなので、お礼を言って美咲さんとの話は終わった。
そろそろ俺もベンチに戻ろうかな……
「ねえ。吉住くん」
後ろから声を掛けられ振り返ったら、フェンスの向こうには西川さんが居た。
今は試合中なんだけどな……
「西川さん。どうしたの? 陽一郎は試合中だから呼べないよ?」
「田辺くんじゃないよ。ピッチャー交代したし、もう吉住くんの出番は終わったよね?」
「うん。取材も終わったし、ベンチに戻って応援するだけかな。何かあった?」
西川さんは、スタンドに座っている相澤さんと山田さんを気にしていた。
「試合中に聞く事じゃないって分かってるんだけど、どうしても聞いておきたくて……遥香からバレンタインにチョコって貰った?」
「いや、貰ってないよ。相澤さんとは初詣の日から会ってないよ。連絡は取ってたけど、部活が忙しいって聞いてたから」
「そうなんだ。ありがとう……それじゃあれは……」
最後は聞き取れなかったけど、西川さんは何か考えながらスタンドに戻って行った。
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内容を変えるか迷ってて更新が遅れました。
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