第64話 初詣

「おめでとー! 今年も宜しくやで!」


「「明けましてしておめでとー」」


「明けましておめでとう。今年も宜しく頼む。まだ皆は来てないのか?」


「まだ来てないよ。僕達だけだよ! 琢磨と先に来て、駅前のゲームセンターで遊んでたんだよ!」



 今日は1月3日で新年を迎えた。



 俺達は初詣に行くために西城駅で待ち合わせ中で、ここまで陽一郎と一緒に来たんだ。


 元旦は爺ちゃん達と過ごし、2日は透さんの両親に挨拶に行く。

 そして、今日は仲間と初詣……これが中学の時からの恒例行事になっている。


 ただ、今年は少しメンバーが増えた。


 あれは年末だった……

 陽一郎から連絡が来たんだ。



『初詣なんだけど、西川さんも一緒だけど良いか? 一緒に行くと言って聞かないんだ』


「西川さんか……この日は楽しむより、願掛けに行く日だぞ? どういう日か陽一郎も分かってるだろ?」


 中学の時は全国大会出場を願い、その出場が決まったら全国優勝を……

 そして、高校受験に甲子園……今まで皆で願いに来ていた。


 だから、この日だけは俺達だけで行きたかったんだ。


「それに今年は健太も来るんだぞ?」


 健太……江藤健太。中学時代の1学年下の後輩で、西城高校を受験予定だ。

 その受験祈願と、今の野球部の話を全員でする予定だった。


「全部伝えたよ……それでも聞かないんだ……分かるだろ? とりあえず、もう一度断りを入れるよ。それから……相澤さんへの断りは寛人から頼んだぞ」


「相澤さんも来るのか?」


「ああ、山田さんも来るって言っていた。元々、3人で初詣の予定だったらしぞ」


 陽一郎……そういう事は初めに言って欲しかった。

 相澤さんと初詣に行きたい気持ちはあったけど、元旦に行ってると思って誘ってなかったんだ……


 それで俺から相澤さんに断りを入れる? 


 そうだな……健太には知らない人が一緒に行く事を我慢して貰おう。それしかない。


「陽一郎。健太には俺からも知らない人が一緒に行くと伝えておくよ」


「ハハハ、分かった。寛人……本当に変わったな。昔なら絶対に断ってたのにな」


「自分でもそう思うよ」



 こんなやり取りがあって、今年は相澤さん達も一緒に行く事になったんだ。


 待っていると和也がやって来た。


「皆、明けましておめでとう」


「明けましておめでとう。和也は今年も一緒で良かったのか? 西城の甲子園を願うんだぞ?」


「良いよ。俺は選抜でのスタメンを願うから。夏は直前にまた来るから」


「選抜前に練習試合で俺との対戦があるぞ。そこで打てばスタメン取れるんじゃないか? 俺は打たせるつもりはないけど」


「そうか、それなら寛人攻略を願ってくるよ」


 東光大学附属に通っている和也と、いつもの会話をしていると健太が到着して、それから相澤さん達3人も到着した。


「おーい。明けましておめでとー! 今年も宜しくねー!」


「西川さーん! 相澤さーん! こっちも宜しくやで! 山田さんも宜しくやで!」


 山田さんは少し嫌そうな顔をしている。

 琢磨のテンションには着いていくのが大変だからな。


「吉住くん。明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」


「明けましておめでとうございます。此方こそ宜しくお願いします」


 相澤さんは綺麗にお辞儀をしながら新年の挨拶をしてきたので、俺も丁寧に挨拶をした。やっぱり真面目な子だと改めて思った。


「早く西城神社に行こうよー」


「うん。早く出店に行きたいんだよー」


「そうだな。揃ったし行こうか」



 俺達は10人で西城神社に向かっていた。

 陽一郎は西川さんに捕まり、山田さんは琢磨から逃げて相澤さんと一緒に居た。和也は山崎兄弟と話をしている。


「寛人さん。あの人って彼女なんですか? 凄く可愛い人ですね」


「かっ……彼女!? ちっ……違う! 健太、いきなり変な事を言うな」


 周りを見ても聞かれていなかったみたいで助かった……健太は何を言い出すんだ……


「だって、さっき挨拶してる時……何か雰囲気が違いましたよ? だから付き合ってるのかと……」


「付き合ってない。この話は終わりだ……それよりも受験勉強は大丈夫なのか?」


「寛人さん、陽一郎さんみたいに特進科は無理ですが、普通科なら大丈夫だと思いますよ」


 何とか話を変える事は上手くいった。

 

 でも彼女か……前までは彼女とか考えた事はなかった。

 今は相澤さんと一緒に居たいって思うし、相澤さんしか居ない……


 相澤さんが好きだ……

 相澤さんが他の男と付き合うとか考えたくない……

 2人で遊んだりしてるし、嫌われてないとは思ってるんだ。

 でも……どうしても、西川さんに聞いた事が忘れられないから、もう一歩を踏み出す事ができない……相澤さんが俺を好きだと思ってくれたら、どれだけ嬉しいか……



 健太と話をしている間に西城神社に着いた。元旦ではないし、神社も大きくないから人は思ったより多くない。


 俺達は順番にお詣りをした。10人も同時にできる広さじゃないからな。


 俺は先にお詣りをして、皆を待っていた。


「お待たせ。吉住くんは何をお願いしたの?」


「俺? 俺は甲子園出場だよ。それが叶う時は東光大学附属が甲子園に行けない事になるね。相澤さんからしたら複雑かもしれないけど」


「そんな事ないよ。私は吉住くんを応援してるよ」


 甲子園出場……それと相澤さんとの事をお願いしてきたとは言えない。


「ハハハ。ありがとう。それじゃ予選で東光大学附属と対戦した時も応援をお願いするよ」


「うん! 学校行事だから東光側に座らないとダメだけど、私は吉住くんを応援してるよ」


「そ……そうなんだ。冗談でも嬉しいよ。ありがとう」


 冗談で言って、冗談で返してくれたんだろうけど、それでも嬉しい。

 東光大学附属に通ってる相澤さんには悪いけど、相澤さんの前で試合があるなら……少しでも良い所を見せたいと思う。


「相澤さんは何を願ってきたの?」


「コンクールの地区大会の事かな。全国大会に行きたいって思ってるもん。もうひとつは……ううん……何でもないよ……」


「今月コンクールだったよね? 全国っていつなの?」


 もうひとつ? 何か言いかけてたけど……言いたくなさそうなら良いか。俺も言えない事があるんだし……それよりも相澤さんの全国大会だ。


「決まったら3月になってすぐだよ。そうしたら練習で忙しくなっちゃうけどね……」


「そっか……頑張ってね」


「うん。でも、練習が増えちゃうと……」


「練習が増えたら何かあったの?」


「ううん……練習を頑張るよ」


 相澤さんが全国大会に出場が決まったら会える時間が少なくなってしまうな……

 でも、それは俺達が甲子園に行く事と同じだからな……


 皆もお詣りが終わったみたいで、俺達の待っている所に向かってきていた。

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