第57話 待ってるから
起きてからスマホを確認したけど相澤さんからの返信は来ていなかった。
時計を見たら7時前だ。待ち合わせは西城駅の中央改札前に9時の予定なので、まだ余裕があった。
陽一郎とは一緒に行く予定はしていないし、着替えたら早いけど向かおうかな……
私服に着替え、久しぶりに髪もワックスを使ってセットした。普段、学校に行く時にワックスは使わない。部活では帽子を被るし、そもそも学校にオシャレをして行く理由もないからな。
「あら、寛人。今日は男前じゃない。普段からやれば良いのに、勿体ない」
「学校と部活だけなのに必要ないよ。面倒だし」
「ふーん。今日は面倒な事をやってるんだ? デートなの?」
母さんがニヤニヤして聞いてきた。髪をセットした位で大袈裟なんだよ……確かに久し振りだけど。
「陽一郎達と遊園地に行くって言ってたでしょ? それが今日なんだよ」
「女の子も来るんだ? アンタなら大丈夫だと分かってるけど、泣かせる様な事をしたらダメだからね」
「相澤さんの事を言ってるのか? それは分かってる」
泣かせる前に、そもそも音信不通だよ……半月以上も連絡が取れてないんだよな……学校には登校していると、陽一郎を通して聞いているけど……
「まだ待ち合わせには早いけど行ってくるよ」
家を出て駅まで歩いて向かった。来週から12月だから少し肌寒いな……寒くなる前に遊園地に行きたいって言ってたけど、仕方ないよな。全員に部活があるし……
良く考えたら不思議な感じだ……俺達5人が女の子達と待ち合わせ……しかも他校の女の子と……この前まで考えもしなかった事だな。
今まで野球の事しか考えてなかったのに、連絡が取れなくなったこの半月は相澤さんの事ばかり考えてしまっていたな……
考え事をしていたら西城駅に到着した。
分かってはいたが、早く到着していたので誰も来ていなかった。
改札口の端に寄り、壁側に立って待つ事にした。西城高校や東光大学附属の生徒も何人か通っていった。
生徒達を見て気になったのは、俺をジロジロと見ていた事だ。西城高校は俺を知ってる人が多いからまだ分かる。
でも、東光大学附属の生徒は分からん……もしかして学園祭で相澤さんの事で騒がれた時に、顔を覚えられたのかな?
しばらく待っていたら、西川さんと山田さんが到着した。
「吉住くん、おはよー! 今日はめっちゃカッコイイじゃん!」
「おはよ。本当だね……カッコイイとは思ってたけど、普段からやればいいのに」
「2人供おはよう。普段はやらないよ……久し振りなんだけど変じゃないか?」
「だから似合ってるって! あっ……遥香なんだけど……やっぱり来ないみたい」
俺には連絡がないけど、西川さんにはあったんだな……どうするかな……
「そっか。俺には連絡が来ないから……俺、何かやってしまったのか?」
「私達が聞きたいくらいだよ。遥香は何も言わないし」
待っていると、陽一郎が到着し、時間ギリギリで琢磨と翔に翼が到着した。
「琢磨のせいで遅れかけたじゃん!」
「聞いてよー! 琢磨、財布も持たずに来てたんだよ!」
「だから取りに帰ったやんけ! 間に合ったから良かったわ!」
相澤さんに送ったメッセージ……返信は来ないけど既読は付いていたから読んではいるんだよな……よし、決めた。
「皆、ゴメン。俺は遅れて行くから先に行っててくれ」
「えー! 何でなのさー!」
「西川さん、相澤さんの最寄り駅ってどこ?」
「吉住くん……本庄駅よ……遥香には私からも連絡しておくよ」
「分かったらグループにメッセージを入れるから」
俺は皆と別れ、相澤さんの最寄り駅に向かう電車へ乗り込んだ。
本庄駅は俺の家からだと西城駅を挟んで反対側にある。普段は行く事もないので知らない場所だった。
駅に到着し改札口を出て、相澤さんにメッセージを送信した。
「おはよう。本庄駅の改札口の所に居るよ。相澤さんが来るまで待ってるから」
しばらくしてから既読が付いたのを確認した。来てくれたら良いんだけど……
改札口の邪魔にならない場所で考え事をしていた。
学校の事、相澤さんの事、部活の事、また相澤さんの事……
相澤さんの事ばっかりだな……
好きだと気付いて、それから半月以上も会ってないからな……出会ってから4ヶ月……相澤さんの色々な表情を思い出してしまう。
時計を見たら12時になっていた。10時に着いたから2時間経ったのか……
こうなったら来るまで待つだけだ。
琢磨からは遊園地の写真が送られて来た。見たら、陽一郎が捕獲されていた。誰にとは言わないが。
続いて山田さんから直接メッセージが来た。
『坂本くんを何とかしてくれないかな? 私に着いてくるんだけど』
「琢磨は無視してて大丈夫だよ」
琢磨、頼むから迷惑をかけないで欲しい。
皆、俺を気にしてくれたのか色々と遊園地の報告が入っていた。
そして15時を過ぎた頃、陽一郎から「『吉住くん、ずっと駅で待ってる』と西川さんが相澤さんに連絡した」とメッセージが入った。
もうすぐ6時間か……駅員にも変な目で見られてたからな……ずっと居てたから変に思われても仕方ないか。
夕方になってきて肌寒くなってきたので、缶コーヒーを買って手を暖めていた。
来るまで待つとは思ったけど、どうするかな……流石に夜になってまでは来ないと思うし、18時まで待って来なければ諦めようかな……暗くなって、女の子が1人で出歩くのは危ないし。
相澤さんに連絡しておこうと思い、スマホをポケットから取り出し電源を入れた。
「吉住くん……」
聞き覚えのある声だった。
そして小さな声で呼ばれた。
俺は驚いて下に向けていた顔を上げた。
「相澤さん……久しぶりだね」
正直、もう来てくれないと思っていた。
もしかして……とは考えていたが、6時間待っても来なかったから諦めかけていたんだ。
でも、相澤さんは来てくれた。待っていて良かった……
「どうして……吉住くん、どうして……」
相澤さんは俺の目を真っ直ぐ見ていた。
「どうして……ずっと居るの?」
「……相澤さんを待ってたから」
それ以外に理由はない……好きだから……会いたいから……なんて言える訳がない……
「綾ちゃんから『ずっと駅で待ってる』って聞いて驚いたんだよ? だって……もう何時間も経ってるんだよ? 何でなの?」
相澤さんが目から涙が流れた。俺は答えに迷っていた。
昔は何でも素直に言えたんだけどな……
「相澤さんを待ってた。それだけだよ」
相澤さんから返事が帰って来ない……ただ泣いていた……俺はハンカチを取り出して相澤さんに渡した。
「俺……相澤さんに何かしたかな? ずっと気になってたんだ。今も泣いてるし、俺は相澤さんの泣いてる顔は見たくないんだよ」
相澤さんは泣いていたが、しばらく経ってから落ち着いてきたみたいだ。
「泣いちゃってごめんなさい。もう大丈夫だよ。ハンカチ……洗って返すね」
「帰ってから洗うし、気にしなくて良いよ」
「ううん……洗って返すもん……」
そこまで言うならそうしよう。洗って返す……また会えるって事だしな。
話もしたいし場所を変えよう。相澤さんが泣いて周りにも見られてたからな。雰囲気も変えたいし、明るく言ってみようかな。
「分かった。相澤さん、西城駅まで出ない? 俺……お腹が空いたんだよ?」
お腹を押さえ、おどけた感じで言ってみた。
「ふふふ……うん! ずっと待っててくれたんだもんね」
笑顔が戻った相澤さんと電車に乗って西城駅に向かった。
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