第50話 コウちゃんへの電話

 相澤さんからのメッセージを閉じた後、コウちゃんに電話をして、遥香ちゃんの事を聞いてみた。


『もしもし、ヒロか? どうしたんだ?』


「コウちゃん。突然でゴメン……聞きたい事があって、小さい頃に俺と毎日一緒にいた女の子って覚えてる? 佐藤遥香って子なんだけど」


『あー。そう言えばそんな子が居たな……俺は話をした事もないぞ。俺が近付くと逃げて行ってたじゃないか……いつも下を向いてたから顔も見えてなかったし……その子がどうかしたのか?』


「連絡先を知らないかと思って……同じ町内だったし、コウちゃんの家は変わってないでしょ?」


『俺は分からないな……もしかしたら親なら知ってるかもしれんが、聞いといてやるよ』


「頼むよ……次の日曜日に向こうに行くから聞いといて。コウちゃんの実家にも顔を出すって言っておいてよ」


 遥香ちゃんは当時の乱暴なコウちゃんが苦手だったからな……叔母さんが覚えててくれたら良いんだけど……どちらにしても、週末に行ってからだな。


 残念だけど、仕方ないか……



 そして文化祭が終わった月曜日。


 土日が文化祭だったので、今日は学校が休みだ。だけど野球部の練習はあるので、陽一郎と学校へ向かっていた。


 西城駅の改札を出て、駅前のコンビニに向かっていた。


「次の日曜日に行くのか?」


「そうだな。行くならその日しかないと思う」


 陽一郎が問いかけてきたのは遥香ちゃんの事だった。文化祭が終わったら会いに行く予定を立ててるからな。


「土曜日が準々決勝だろ? 勝ったとしても連戦にはならないからな。陽一郎、何か部活であったのか?」


「いや……気になっただけだ。それで、会えなかったらどうするんだ? それに相澤さんの事もだ……寛人……お前、惹かれてるんだろ?」


 陽一郎には全部知られてるし、嘘をつく必要もない。


「幼馴染とは7年会ってないからな……どんな子になってるのか分からないし、忘れられてるかもしれない。だから会えないなら……それはそれで仕方ないと思ってるよ……」


「そうか……それで相澤さんは?」


「相澤さんに惹かれてるのは分かってる。凄く良い子だしな……彼女と向き合うために幼馴染に会いに行くんだよ。会えないなら会えないで……そこで区切りにしたいとは思ってる」


 ただ、俺の気持ち以前に、相澤さんの気持ちは俺に向いてないからな……


 正直……そこはどうする事もできない。


 これだけは陽一郎には言えない……


「陽一郎、俺の事は大丈夫だよ。それより西川さんはどうなんだ? 相澤さんもビックリしてたぞ」


「そうだな……あの勢いはな……何なんだよあれは……何か、グイグイ来るんだよ……」


 陽一郎と俺は、今まで野球が中心だったから彼女なんていなかったからな……西川さんの行動が俺に向いてたらと考えると恐ろしいな……陽一郎が可哀想に思ってしまう。


 コンビニに入ると、琢磨と山崎兄弟も買物をしていた。


 部活で一緒だけど、駅から5人で学校に向かうのは久しぶりだな。


「寛人と陽一郎だ!」


「おはよー! あっ! 僕達の漫才を見てくれた?」


「おはよう。ごめん。色々あって見れなかったな」


 見れなかったのは仕方ない。高橋さんも漫才は見てないって言ってたしな。


「酷いよ! 陽一郎は僕達の『幽◯離脱~』を見てくれた?」


「俺も見てないな。忙しかったんだ。一般客はいたんだろ?」


「うん! いっぱい見てくれたよ!」


「見て貰えたのなら良かったやんけ! タコ焼きも大人気やったで。でも1組に売上が負けたんや……」


 売上集計で、タコ焼きは2位だったよな。1年が1位と2位か、凄いよな……


「ヤキソバとか食べ物が多いのに2位は凄いと思うぞ? 修行の成果があったじゃないか」


「そうやろ! 公園のオッチャンの所には冬場にバイトする事になったんや!」


「まぁ、冬場なら良いか……春まで試合も出来ないしトレーニングがメインになるしな」


 冬場はボールも使えないから、足の状態を見ながら走り込みだ。夏よりも筋力が低下してるからな……


 学校に着いて俺以外の4人は着替えていた。その間、俺は監督に呼ばれていた。


「監督、おはようございます。話って何ですか?」


「おはよう、足の具合を聞きたくてな。それと、東光との練習試合の件だ」


「そろそろ少しずつ走れると思ってます。リハビリの先生と相談になりますが……練習試合の件って何ですか?」


「東光とは来年の春になった。練習試合とはいえ、吉住が投げれないと試合にならないからな」


「分かりました。春までに完調するか分かりませんが、投げれる様にしておきます」


「夏の予選までには頼むよ。今日の投手陣の事もな」


 準々決勝か……何とか勝ちたいな。準決勝は順当なら東光大学附属だからな。夏前に練習試合はあるけど、公式戦は全く違うから戦えるなら戦いたい。和也も奥村も背番号を貰ったって言ってたしな。



 練習になって先輩の早川さんと木村さんはバッティングピッチャーをしていた。ブルペンでは琢磨が1人で騒いでいた。


「琢磨。投げる時に騒ぐなって言ったよな? 気合いを入れて投げるのは良いけど、やり過ぎたぞ」


「やかましいねん! 寛人だけじゃなくて陽一郎までイチャイチャしやがって! ムカつくから思いっ切りボールを投げるんや! あーっ! タコ焼き食いたくなってきたわ!」


 琢磨は昔から変わらんな……何かあったらすぐに騒ぐ。


「分かった。今日はタコ焼きに付き合ってやるから静かに投げろ」


「ホンマやな! 今日は食うぞー!」


 部活が終わったら琢磨とタコ焼きの屋台に行く事になった。店主の作ったタコ焼きを食べてみたかったのもある……陽一郎達も連れて行こうかな。


 そして俺達は中央公園へと向かっていた。

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