第41話 東光大学附属の学園祭④

 side:寛人



 部室棟を出た俺と相澤さんは教室までの道を進んだ。


「この辺は誰もいないんだな」


「うん。この辺りは出店も何もない所だからね。プレゼント……本当にありがとう。後でゆっくりと開けてみるね」


「俺が選んだ物だから期待しないで欲しいかな……女の子に何をあげたら喜ぶか分からないんだよ」


「選んでくれた気持ちが嬉しいんだよ!」


 俺が困った様子で伝えると、相澤さんは笑顔で答えてくれていた。

 

 やっぱり彼女には笑顔が似合っている。


 校舎の方に進んで行くと、人が少しずつ増えてきて、全員が相澤さんを見て何か言っていた。

 

 相澤さん……やっぱり目立つんだな。この服装だから余計なのかも。


「相澤さん、目立ってるね」


「あんまり嬉しくないよ……嫌だったのに無理矢理だもん。吉住くんも目立ってるよ? だって……女の子達、さっきから吉住くんを見てるもん」


「他校の制服を着た生徒が相澤さんと歩いてるからでしょ?」


 相澤さんは自分が目立ってるって分かってないのか? さっきから「相澤さんが」「相澤さんが」って声が聞こえてるんだけどな。


 不思議に思うのが、相澤さんと一緒にいるのが自然な感じがするし、気楽でいられるというか……人気があるのも分かるよ。良い子だしな……



「吉住くん、ここの校舎だよ。まだ友達も残ってると良いね」


「騒がしい奴等だからな……合流できたら世話をしながら学園祭を楽しんで行くよ」


「お世話って言ってるけど、吉住くん楽しそうだね」


「まあな……ほら? 前に俺にも辛い事があったって言ったでしょ? アイツ等がいたから耐えれたって事もあったから。そんなアイツ等だから俺は一緒に甲子園に行きたいんだろうな……」


「そっか……私には綾ちゃんしかいなかったな……」


 寂しそうな表情というか、何かを考え込んでるという表情で呟いていた。


「今からでも増やせば良いんじゃないか? 今は横には俺もいるんだからさ……俺は相澤さんを友達だと思ってるよ。仲良くなった女の子なんて、小学校の低学年の時から作ってなかったから久しぶりだよ」


「…………」


 どうしたんだ? もしかして嫌だったか? 俺が仲良くなったと思ってただけか……


「えっと……相澤さん、ごめんね。男に仲良くなったって言われても嫌だよね?」


「ごめんね! 違うの! 私も吉住くんと仲良くなれたかなって思って考え事をしてただけなの……吉住くん、もうすぐ教室に着くよ」



 俺と相澤さんは「喫茶店」と書かれた扉を開いて話ながら教室に一緒に入った。


 何か様子がおかしい……


 相澤さんも同じ様に感じたみたいで、俺と顔を見合わせていた。


「相澤さん……喫茶店はこんな感じなの?」


「違うよ。私も分からないよ……」


 相澤さんも分からないみたいだ。おかしな雰囲気に俺と相澤さんは笑い出してしまった。


「ハハハ。じゃあ、何で全員が固まってるんだ? こんな感じの店なのかと思ったよ」


「うふふ。そんなのやらないよー! でも、どうしたんだろうね?」


 何か分からないが、俺と相澤さんが教室に入ったら店員とお客さん……陽一郎達もいるな。何故か全員が固まって俺達を見ていた。


「相澤さん、そこに友達がいるから行ってくるよ。交代の時間なんでしょ? 頑張ってね」


「うん。吉住くんも楽しんでね。後で注文を聞きに行くね」


 相澤さんはクラスの方に行き、俺は陽一郎達が座っている席に向かった。野球部の事も報告しないとな。



「待たせたな。斎藤さんとの話は終わったよ」


「……」


「どうした? 何かあったのか?」


 本当にどうしたんだ? 疑問に思っていると琢磨が口を開いた。


「寛人……お前! あの子やろ! あの子が公園でイチャイチャしてた子やろ!」


「琢磨、声がデカイし、イチャイチャしてない。相澤さんとは部室棟から出る時に偶然会っただけだ。お前達がいると聞いて案内して貰ったんだ」


「えっ? 相澤さん……あいつと?」


「あの人……西城の吉住くんだよね?」


 琢磨が騒いでるのを聞いて、相澤さんのクラスメイトも騒ぎ始めたな……


「寛人、相澤さんと知り合いなのか?」


「吉住、どういう事だ?」


 和也と奥村だった。和也は中学時代のチームメイト、奥村は中学の全国大会決勝で戦った相手だ。相澤さんが一緒のクラスだと言っていたな。


「入院してた時の大部屋に、相澤さんのお婆さんもいて、その時に知り合ったんだよ。皆、何をそんなに騒いでるんだ?」


「相澤さんは男と話をしないんだよ。男が嫌いというか……苦手みたいなんだ。同じクラスの俺達ですら話をする事がないんだよ」


「俺はさっき……少し話したけどな……」


 和也は話をする事がなくて、奥村は話したのか? 話をしてるじゃないか。


「さっき奥村は話をしたって言ってるだろ? 相澤さんとは友達なんだし、俺が話をするのは普通の事だぞ?」


「吉住……俺が話をした事は忘れてくれ」


 何を言ってるんだ? 奥村って変な奴なのか?


「さっき奥村は相澤さんに振られたから、そっとしといてやれ……相澤さんは人気なんだけど、男と話をしないし、告白しても全員が振られてるんだよ。だから寛人と仲良さそうにしてるのに皆が驚いてるんだ」


 さっきも聞いたけど、相澤さんが男と話をしない? 男が嫌い? そんな感じには見えないんだけどな……


「相澤さん違いって事じゃないんだよな? あの子……普通に話をするし、良い子だぞ?」


 和也と奥村は納得していない様で色々と言ってきたが、陽一郎が止めてくれた。


「何でも良いよ、それより寛人。あの件はどうだったんだ?」


「あぁ、上手くいったよ」


「そうか、詳しくは夜にでも聞かせてくれ」


 和也と奥村がいるから詳しくは言えないな。和也とは仲が良いけど、今は敵チームだ。それにしても奥村か……厄介な相手だな……今度は打たせない。


 和也と奥村は喫茶店の裏方の仕事に戻って行った。入れ替わりで相澤さんが席まで注文を聞きに来てくれた。


「吉住くん、おまたせ。何にするか決まったかな?」


「じゃあ、コーヒーを頼むよ相澤さん。大変な事になってるけど大丈夫だった?」


「うん。大丈夫だよ。私のせいで迷惑かけちゃったね」


 相澤さんも色々と言われたみたいで、元気そうではなかった。


「俺は気にしてないから、相澤さんも気にする必要はないよ」


「うん。ありがとう……飲み物を持ってくるから少し待っててね」


 相澤さんはいつもの笑顔になってくれて、飲み物を取りに戻って行った。

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