第36話 2人で食べた

 琢磨に捕まり、思っていたより時間が経っていたかもしれない。グラウンドの方に向かっていると、すでに相澤さんはベンチに座って俺を待ってくれていた。こういう時に走れないのはツライな……


「ごめん。待たせたよね?」


「大丈夫。でも遅かったね」


「買いに行ったら、何故か部活の仲間がタコ焼きを焼いてたんだよ」


「えっ? 何でなの?」


「文化祭でタコ焼きの店をやるみたいで、弟子入りしたって言ってたな。中学からの仲間だけど、変な奴なんだよ」


「解った面白い人だねー」


「騒がしいだけだよ。それよりも温かい内に食べようか」



 相澤さんの隣に座り、袋からタコ焼きを取り出し蓋を開けた。本当に琢磨が焼いたのか? 作ってる所を見ていたけど、本当に美味しそうだ。


「8個入ってるから、4個ずつで分けれるね。軽く食べるには丁度良いか」


「そうだね。全部は多いかな」


「ほら、相澤さん。先に食べなよ」


 タコ焼きを取りやすい様に、パックを相澤さんの方に差し出した。相澤さんは爪楊枝を取り、嬉しそうな顔をして食べようとしていた。


「あれ? うまくいかない……」


「爪楊枝が4本入ってるだろ? 食べる時は2本使ったら食べやすいよ。貸してみて」


 相澤さんは爪楊枝を1本しか使っていなかったので、タコ焼きが回転してしまい上手く取れなかったみたいだ。


 俺は爪楊枝を2本使ってタコ焼きを取り出し、相澤さんの目の前に差し出した。


「はい、どうぞ」


『ぱくっ』


「うん! 美味しいね!」


「……」


 今、食べたよな……渡そうとしただけなのに……顔を近付けてきて、そのまま食べたよな……


 確かに爪楊枝を渡そうとした。何で相澤さんは爪楊枝を受け取らずに食べるんだ?


「うん? 吉住くん。どうしたの?」


「いや……俺……爪楊枝を渡そうとしたんだ……」


「あっ……ごめんなさい! 違うの!」


 顔を真っ赤にしてあたふたし始めた……慌てても可愛いな……これは……これはわざとなのか……


「本当にごめんなさい……綾ちゃん……駅で会った子と食べてる時みたいになっちゃって……ごめんなさい……」


「少し驚いただけだから。俺も食べるから相澤さんも食べよう」


「うん、吉住くん。飲み物を渡してなかったね」


 ドキッとさせてくれる出来事はあったけど、その後は無事にタコ焼きを食べ終えた。


「本当に美味しかったねー」


「そうだな。ここまで買いに来るっていうのも分かったよ。でも、これは部活の奴が焼いた物だけどな」


「店主さんが焼いたら、もっと美味しいのかな?」


「そうだろうな……今度食べてみたいな。同級生が作るって事で無料でくれたんだよ。練習みたいな感じかな」


「そうなんだ。私も友達と帰りに買いに行ってみるよ」


 お互いに飲み物を飲みながら、食べた感想を言っていた相澤さんが、何気なく俺の方に顔を向けて来た。


「ハハハハ」


「何? 吉住くん。どうしたの?」


「少しじっとしてて……ほら、取れたよ」


 相澤さんの唇の横に青ノリが1つ付いていたので、手を伸ばして取ってあげた。


「……」


「うん? どうしたの?」


 また相澤さんは顔を真っ赤にして固まっている。青ノリが恥ずかしかったんだな。やっぱり女の子にタコ焼きは悪かったかな……


「どうした? 大丈夫か?」


「……言ってくれたら自分で取れるよ?」


 うん? これはやってしまったのか……そうだよな……ダメだよな……これはマズイぞ……


「ゴメン! やってしまったみたいだ! 昔の癖で!」


「吉住くん……いつもこんな事するんだね……」


 まだ相澤さんの顔は真っ赤だ。



『はるかちゃん。お口に付いてるよ』


『えっ? どこ?』


『ちょっと待ってね。ほら! 取れたよ』


『ありがとー』



 つい……同じ事をやってしまった。謝り倒すしかないな。


「いつもやってない! こんなのは小学校の低学年以来だよ! 本当にゴメン!」


「ううん、いいよ。ありがとう……ねぇ、もう一度キャッチボールしても良いかな?」



 その後も相澤さんは楽しそうにキャッチボールをしていた。色々あったけど、楽しんで貰えて良かった。



 時間も夕方になって「そろそろ帰ろうか」となって、西城駅まで一緒に歩いていた。まだ琢磨はタコ焼きを焼いているのかは知らない。


「そろそろ文化祭か……そっちの学園祭も準備で忙しいんじゃないの?」


「忙しいのかも……私の所は準備組と当日組で分かれてるから……私は当日が忙しいと思う」


「そうなんだ。俺達はチョコバナナの模擬店になったけど、相澤さんの所は何をするの?」


「私達は普通の喫茶店だよ。家が喫茶店をやってる子がいて、その子の両親が色々と貸してくれたみたい」


「西城高校の模擬店でも喫茶店があったな。そっちの学園祭は土曜日に行く予定だから、時間があれば行ってみるよ」


「えっ! 土曜日……」


「土曜日だとダメだった?」


「ううん……土曜日が喫茶店の担当になってるから、もし見られたら恥ずかしいと思って……本当は内緒にするつもりだったんだよ?」


「言いたくなかったの? そんなに恥ずかしい格好するの?」


「普通の店員さんの服だよ……でも、見られたら恥ずかしいの!」


「そ……そうか……分かった」


 そんなに顔を赤くして必死に言わなくても……恥ずかしいのは分かった。普通の服なら気にしなくて良いと思うんだけど……相澤さんにも理由があるんだろう。


 そのまま西城駅に着いたので、俺と相澤さんはお互いの自宅へと帰った。



 東光大学附属の学園祭が楽しみだな。

 西城の文化祭の準備もあるが、大丈夫だと思う。心配はしてないけど、後は女子に頼んでいた物がどうなるかだな……



――――――――――――――――――――

たこ焼きに爪楊枝が2本入ってる理由……

テレビで見て知りました(*´∇`)ノ

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