第35話 2回目の公園

 中央公園に着いた俺と相澤さんは、荷物を置いてベンチに座っていた。


「吉住くん、学園祭に来るって言ってたけど何曜日に来るの?」


「土曜日かな。どうかした?」


「ううん、何曜日に来るのかな? って思っただけ」


「そうだ、聞いてみたかったんだけど、学園祭ってどんな感じになるの? 俺も実行委員だから他校が気になるんだ」


「模擬店とか、舞台の出し物や、展示かな? たぶん変わらないよ?」


「それだと一緒の感じか……」


「あっ! でも、大学からも何かあるって言ってたよ」


「そうなんだ。野球部の人と会う用事が終わったら見学してみるよ」


 やっぱり大学の附属だから公立と違う所があるんだろうな。コウちゃんと会った後に見てみたいな。相澤さんに返事をしている時に、鞄の中からグローブを2個とボールを取り出した。


「今日は2個持ってきたんだね」


「普段は使ってるグローブ1個しか持たないけどね。キャッチボールをやりたいって言ってたから持ってきたよ。はい、これ使ってみて」


 相澤さんが使いやすいと思うグローブを探して持ってきていたので、それを渡した。


「うわー。初めて手にはめたよ。こんな感じなんだね」


「ほら。ボールもこの前と違う物にしたよ」


 この前は部活で使っていた硬式ボールだったから当たったりしたら危ないからな……子供の頃に使っていた柔らかい軟式ボールも持ってきていた。


「あ……前に見てたボールと同じ……」


「俺が小学校の低学年の頃に使ってたボールだよ。小さいけど、柔らかいし危なくないから。相澤さんに当たって怪我とかさせたくないからね」



 懐かしいな……このボールでコウちゃんとキャッチボールしてたよな……



「うん。これなら当たっても痛くないかな。ありがとう」


「この前は相澤さんが投げて、俺が受けてただけだったけど、今日は2人で出来るよ。それじゃ、やってみようか?」


「うん! やってみる。楽しみ♪」


 予想はしていたが、やっぱり捕れないか……下から投げて捕りやすい様にしてるんだけど、どうするかな……


「吉住くん……捕れないよ……」


「グローブで捕りに行こうとしてるからかな。そのままグローブを前に出してみて」


「こうかな?」


「そうそう。そのまま動かさないでね。行くよ」


 俺はグローブを狙って捕りやすい様に下から投げた。


『ポスン』


「捕れた! 吉住くん捕れたよ♪」


「上手に捕れたね。ボールを捕りに行こうとしなかったら捕れたでしょ?」


「うん! 本当だね。もう少しやっても良い?」


「いいよ。好きなだけ付き合うよ」


 相澤さんは、半分は変な所にボールを投げるけど、ボールは捕れる様になった。もちろん俺がグローブの中に投げ込んでいるのは言ってはいない。相澤さんが楽しんでくれてるなら、それで良い……


「ふぅ……少し疲れたね」


「遊び過ぎたかな」


「ううん。楽しかったもん」


「それなら良かったよ。ベンチで休もうか?」


 ベンチに座っても相澤さんは楽しそうにしていた。そんなに楽しかったのか……やっぱり可愛らしいよな……


「吉住くん。どうかした?」


「えっ? いや? 何もないよ?」


 タオルで汗を拭いていた相澤さんがこっちを見て言ってきた。俺は相澤さんの楽しそうな表情を眺めてしまっていた。焦って辺りを見回していたら、遠くに屋台が見えた。


 あれって……皆が美味しいって言っていた店じゃないのか?


「相澤さん。お腹空いてない? あそこの屋台、部活の仲間が美味しいって言ってて、学校の反対なのに帰りに来るらしいんだ。食べてみない?」


「少し空いてるし、美味しいのなら食べてみたいな」


「分かった。買って来るから待ってて」


「それじゃ、私は飲み物を買ってくるね。吉住くんは何が良い?」


 相澤さんにスポーツドリンクを頼んで屋台まで向かった。タコ焼きって言ってたよな。それなら1つを2人で分けるか……


「すいません。1個くだ……」


「へい、らっしゃい!」


「……」


「いや……間違えました。結構です」


 ベンチに戻るか……売り切れだったと諦めて貰おう。


「待てっ! 寛人!」


「琢磨……何をしてるんだ?」


「なんや、皆に聞いて来てくれたんと違うんか?」


「知らないよ。それで、何をしてるんだ?」


「見たら分かるやろ! 修行や! 文化祭でタコ焼きをやるから、おっちゃんに頼んで弟子入りしてん! さっきまで陽一郎達も食ってたぞ」


 俺がリハビリの間、4人で来てたみたいだ。『寛人は来られへんのか?』ってこの事だったのか……それにしても琢磨の行動は分からんな。


「ボウズの友達か? それじゃ作ってやれ! タダで良いぞ、サービスや。ボウズは筋が良いんだ」


 店主は琢磨を気に入ってるみたいだ。でも本当に貰って良いのか?


「寛人、出来たで!」


「本当に良いのか?」


「おっちゃんが良いって言ってるしな。俺が居るって言ったら学校の奴等も来てくれて客は増えてんねん」


「ボウズが居て売り上げが増えたわ」


「では、いただきます。ありがとうございます。琢磨、爪楊枝を2本増やして4本にしてもらえるか?」


「何でや? 誰かと食うんか?」


 琢磨は何か思い出そうとした感じになっている……どうしたんだ?


「あーーーっ!! お前……お前……あれやろ!?」


「あれって何の事だよ」


「あっちのグラウンドの方で女とキャッチボールしてイチャイチャしとる奴がおるって思ってたんや! あれやろ!」


 琢磨に見られてたのか……


「遠くで誰かは分からんかってん。よー見たら女の方は東光の制服やないか! リハビリって言っててイチャイチャしてたんか!」


 遠いし、顔までは分からなかったか。相澤さんが見られなくて良かった。見られたら何を言われるか分からんからな。


「リハビリは行ったよ。その帰りに会っただけだし、イチャイチャはしていない」


「しとったわ! 何処で知り合ってん?」


 入院中の同室のお孫さんと琢磨に伝えた。何か言いたそうな顔をしていたが、「それ以上は何もない」と話を終わらせて、タコ焼きを受け取って相澤さんの所まで戻って行った。

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