第17話 何も通じない存在

夜明け前、犬神ムックが幹部の居る民家前で銃を乱射した。

起きてきた兵士から二、三声がかかるが言葉は通じない。

ムックは持っていた銃をゆっくりへし折って見せて、無言で兵士に近寄っていく。

途端に銃撃が始まる。

手榴弾が飛んできた。あえて拾って爆発させた。

自爆しても無意味であると見せ付けるために。

自爆テロはムックにはきかないのだ。

トラックが突っ込んで来たがそれも避けるつもりはない。

が、荷台が気になったので吹き飛ぶ方向を廃屋に調整した。

予想通りトラックがもう一度突っ込んで来て大爆発した。

流石にコスチュームが傷んだので珠転送してUFOに戻り、予備の中古ムックに着替える。

乙姫に廃屋に行ってもらって珠転送で戻ってきた。

乙姫にはそのままターゲットの幹部を探してもらう。

犬神が廃屋から出ようとするとまた手榴弾が飛んでくる。

そのころ、狙いどおり陽動に引っ掛かって孤立した幹部は車に乗り込むところだった。

例によって女子供も同乗させている。

その体には爆弾らしき物が巻いてある。

乙姫は追跡を諦め、UFOに戻った。

犬神も銃声が止んだところで乙姫の元へ珠転送した。

またUFOで車を追う展開。

だが今回は手出しするつもりはない。

追跡して次の拠点を見つけ、幹部が一人になった所で襲えば良いのだから。

◼️

UFOよりもはるか上空を飛んでいた無人攻撃機がミサイルを発射した。

戦闘中から今まで偵察を続け、幹部が車で逃げるのを観察していたのだ。

ミサイルに気付いた犬神と里見がUFOから車に飛び降りる。

犬神が幹部を斬り、車を止めた。

里見は女子供を車から下ろす。

犬神とUFOでミサイルが来る方向に立ち塞がる。

ミサイルは犬神に着弾した。

その爆発の衝撃で女子供の爆弾も誘爆してしまう。

里見はミサイルから女子供を守るつもりで爆発に巻き込まれた。

犬神と幹部とUFO乗員だけが生き残った。

◼️

里見は死んだ。犬神は里見を守れなかった。

激しい後悔が犬神を襲う。

なぜ甲冑を着せなかったのか?

なぜUFOの操縦などさせたのか?

なぜ戦場に連れてきたのか?

答えは油断であり、甘やかしである。

人間相手に狩りをする一方的な戦闘に油断し、里見が障害を負う事で一線を退いたとも油断た。

また里見の意思を尊重する余り、自由にさせ過ぎたのだ。

中東ではやはり自由は正義ではなかったのかも知れない。

そして障害を負った里見は死に場所を求めていたのかも知れない。

◼️

犬神は負けた。

犬士になって以来、味方は皆強く誰も死ななかったのだが。

里見の母、犬士ではなかった浜路正月を除いて。

犬塚は身内を守ろうともしていない。

犬坂も犬士は守らないと言っていた。

犬神だけは根拠も無く増長していた、守れると。

◼️

里見の不老への不安も正しかったのかも知れない。

犬塚は妖刀村雨に魅入られて永遠に修羅となった。

犬坂は閉じ籠っている。

吸血鬼に妖狐。

犬士として年長者になった時、どこか狂ってしまわないか。

◼️

後悔と悲しみが犬神を襲った。

死の覚悟は幻想だった。

むしろ自分が死ぬのは構わなかったが、里見が死んだ後の人生をまるで想像できていなかった。

守る前提だったから。

甲冑が心を守る事はない。

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