第5話 善人の選択

一ヶ月後、

里見は地下大阪城の自室でイスラム教文化を勉強していた。中東に出発するまでに学ぶ事は多い。

ブルルっとスマホが震えた。

狛ちゃん「犬坂先生から課題が来てるよ」

里見「へ?」

ノートパソコンでメールを開く。


題名:正義とは何か考えて下さい

差出人:犬坂毛野 宛先:浜路里見 CC:犬神真人

まずはトロッコ問題に対する見解が纏まったら会いに来てください。


里見「こりゃ白熱するわね、面白いじゃない」

そんなのは予習済み、と自負していた。

多くの人間は、

根拠もなく自分が善人だと思っている物だ。

◼️

翌日、

地下大阪城天守に犬神同伴で里見が上がってきた。

対する犬坂はモニター画面に狛ちゃんを起動している。

犬坂「さて、先ずはトロッコ問題でしたね」

里見「先ずは、ね」

犬坂「では問います、一人と多人数、里見ちゃんはどちらを犠牲にしますか?」

里見「一人よ」

犬坂「なぜ?」

里見「今までもそうして来たから、私は妖怪退治が本業だと思ってる、つまり暴力に頼る処刑人なの、だから人助けは可能な限りでしか出来ない」

犬坂「なるほど、では意地悪な質問ですが、

この前虐待された赤ちゃん一人とヤクザ大人数では?」

里見「ヤクザ、、」

犬坂「、、処刑人だからですね、つまり答えは犠牲者の素性によって変わる」

里見「そうよ、悪い?」

犬坂「常に少人数を犠牲にする派、素性は関係無い派、と言うわけではない、つまり命の重さは平等ではない、と」

里見「悪人と善人では命の重さは違うわ」

犬坂「では悪人を令和の剣で斬ったら、その元悪人の命は重くなる?」

里見「ネイティブ善人、元悪人、悪人の順で軽くなるわ」

犬坂「わかりました、それでよいでしょう」

里見「いいんだ、、」

犬坂「現実には素性なんて、善人か悪人かなんて、わかりません、ただ覚悟がある事はわかりました」

里見「先生ならどうするの?」

犬坂「私には優先すべき善人は居ません、犬士なら自衛するだろうし、死ぬ覚悟もあるので助けません、つまり常に多数を助けます」

里見「赤ちゃんより悪人多数を助ける?」

犬坂「はい、赤ちゃんが悪人になるかもしれません、悪人が善人になるかも知れません」

里見「意見が別れたわね」

犬坂「はい、では悪人善人、つまり善悪を判断する基準はどこにあるんでしょうか?

また赤ちゃんの短い人生と悪人の人生、人生の長さに命の重さは関係有るのでしょうか?」

里見「んー」

犬坂「今日はこの辺にしましょう、今言った事は課題としてメールしておきます」

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