第4話 Only to you(4)
「もう。 妊娠はどんどん難しくなります。」
南はカタっと箸を置いた。
北都はそんな彼女をじっと見つめた。
「・・病院には定期的に通っていますが。 以前手術したときと状態は相変わらずで。」
卵巣の病気で片方を摘出し、もうひとつも正常に機能していない彼女は妊娠することが非常に難しい体であった。
ずっと治療を続け。
何とか1度妊娠はしたものの、すぐに流産をしてしまった。
「・・先生から何度か体外受精も勧められましたけど。 何しろ卵巣が正常でないので確率は低いだろうって。真太郎もそれは反対だって、」
「・・女性からしたら本当につらいだろうが。 それが真太郎の本当の気持ちだろう。 もうきみの身体を傷つけたくないんだと思う。」
北都は重い口を開いた。
「真太郎は無理にそう言っているんじゃないかって。 ほんまに申し訳なくて。 竜生や真鈴のことをかわいがっている真太郎を見ると、本当は子供が欲しいんやないか、って・・」
二人には広すぎる部屋が
余計にシンとした。
「きみと二人でいることを選んだだけだろう。」
北都は顔を上げて、南を見た。
「社長・・」
「子供は。 天からの授かりものだ。 世の中には子供がいなくても立派にやっていっている夫婦はたくさんいる。 子供がいる人生が人として生まれてベストなのかどうかなんて、誰が決めることではない。 おまえたちは立派にここまで夫婦としてやってきている、」
南はハンカチをぎゅっと握り締めた。
「もちろん。 北都の跡継ぎのことも心配することはない。 家族に継いでもらうことが一番ではないのだから。 無理をして無理をしてつなげて行くものじゃない。」
涙が出そうだった。
真太郎が自分以外の女性と結婚をしていれば
きっとかわいい子供にも恵まれて。
北都の家だって何の心配もしないでよかったのに。
そんな風に思ったこともあった。
「子供のことよりも。 おれはきみが真太郎と一緒になってくれたことのほうが・・何よりも大事だ。」
「・・お義父さん、」
普段は『社長』と呼ぶこの人を『お義父さん』だなんて呼ぶことなんかなかった。
父である前に、やはり社長であることのほうが大きかった。
幼い頃に両親が離婚をし、父親なんか知らなくて。
だけど、この人を『父』と呼ぶにはあまりにも恐れ多いような気がして。
「これから真太郎にとって大変なことが山ほどあるだろう。 そんな時きみがそばにいてくれたら。 何も心配をすることはないから。」
ニッコリと笑った顔は
真太郎とソックリだった。
「なんかもう・・。 いなくなるようなこと、言わんといてください、」
南は少しだけ目の端にたまった涙をハンカチで押えた。
そんな彼女を見て北都は優しく微笑むだけだった。
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