第3話 Only to you(3)

「もう仕事も終わりなら。 少し食事でもしていくか、」



北都はパソコンを閉じた。



「え、」



南は少し驚いたように彼を見た。



「たまには、」


仕事をしている時は怖い顔ばかりなので、


こうして微笑んでくれたりすると、なんだかホッとする。



「ていうか。」





南は北都とやってきたお座敷で向かい合って、その部屋を見回しながら口を開いた。



「え?」



「たまには・・じゃなくて、社長とこうして二人で食事も初めてやないですか?」



そう言っていたずらっぽく笑う。



「そうだったか?」




北都も笑った。




「もう。 きみと出会ってからも。 何年だろうか。」



北都が自分のグラスにビールを注ごうとしたので手で制したが、それに構わず彼はその行為を続ける。




「あたし。 まだ21でしたから。 ・・えっと16年も経っちゃったんですねえ、」



南が素早くそのビール瓶を受け取り、今度は北都のグラスにそれを注いだ。




北都と南が出会ったのは、六本木のキャバクラだった。



真面目な彼は普段はもちろんそういうところには行かないが、古くからの友人に誘われて仕方なく出向いた。



「あ、いらっしゃーい! あれ? 初めてのお客さんやね、」




小柄だけれどとにかく大きな目と関西弁が印象的な子だった。



体中から『陽気』を発して、彼女の側にいるだけでエネルギーが感じられた。



彼女が普通のキャバ嬢と違っていることが、出会ってすぐに肌で感じられた。


彼女ともっともっと話がしたくて、翌日は一人でその店に行った。



とにかく頭の回転が速くて、お客を飽きさせないように色んな話題を口にして。


サービス精神が旺盛で、それでいて空気もきちんと読んでいた。



彼女をスカウトしてホクトの子会社に就職させたけれど。



その会社でバイトをしていた高校生の真太郎と出会い、こんな南に惹かれていったことも


ものすごく当然のことのように受け止めることができた。



「うわ~~、このお刺身サイコーに美味しいです! こんなん食べたの久しぶりやな、」



南は料理を口にして幸せそうにそう言った。



「きみは変わらないねえ、」



北都は微笑ましい笑顔で南を見た。




「は? って! けっこう年くっちゃいましたよ? なんっかこの頃腰とか痛いなあ、とかあるし、」




と、元気に言う南がまたおかしくて笑ってしまう。



「きみが年のことを気にしているとは思わなかったけどな、」



そのとき、南は何かを思ったようで小さなため息をついた。



「どうした?」



「・・あたし。 もう38になりました。」



彼女が何を言いたいのか。



少しだけ気づいてしまった。

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