第11話 未来人の対面
異能者ですよね――はいそうです、と明かすのは抵抗があった。
タイムスリップしていることを隠さなかったわたしだけど……、
自分から言うならまだしも、異能者ですよね、と聞くってことは――、
シャルルさんは、じゃあ、わたしの正体にほとんど気づいていることになる。
疑惑を確信に変える一言を返すのは、早計な気がして……、
「ハドメの希望で場所を変えましたけど、これが答えなのではないですか?」
あれから、もやもやとしたまま授業を受け、昼休み――、
わたしとシャルルさんは興味津々なクラスメイトから逃げるように、屋上へきていた。
二人きり。
自己紹介の時に見たシャルルさんの明るいイメージが、今はもう感じられない。
鋭い眼光が、わたしを捉えている……。
「違うなら違うと言えばいいのに、わざわざ人に聞かれたくないですと証明するように場所を変えましたから、『わたしは異能者です』と言っているようなものですよ?」
「……シャルルさんこそ、異能者だからわたしに気づいたんじゃないの?」
「質問しているのはこっちですよ?」
口調は優しいけど、わたしを見る目の奥は笑っていない。
「隠すならそれでもいいですけど、クラスの子に聞いたので知っていますよ。
未来人……未来からタイムスリップしてきたそうですね、ハドメ」
ばれ……ッ、あ、そっか、みんなには明かしているからそりゃばれるよね!?
わたしも口止めなんかしていなかったし……、
いやだって、まさかこんな風に詰められるだなんて思っていなかったし……。
この時代、まだまだ異能者は一般的ではない。自覚した人が便利な道具として使っているにとどまっている時代だ――わたしの時代だと、異能者同士が引かれ合って集まり、一つの集団として頭角を現し始める段階だ……、
たとえばはじめの周りに集まる異能者たちとか。
その中心にいるはじめは、わたしの知る限りじゃあ、異能者じゃないんだけど……、
「……知ってるなら、言うけど、そうだよ。でも、だからなんなの? わたしが未来人だって周りに言いふらしてもいいけど、変な顔をされるのはシャルルさんでしょ?」
「私も未来人なんですよ、ハドメ」
「そうそう、シャルルさんも未来じ――え?」
「だから、私も未来からきたのですよ。ハドメよりももっと未来から、だと思いますが」
え、シャルちゃんも未来から――あっ、気を抜いたら思わずシャルちゃんって呼んじゃったよ! というか、え、待って、ほんと待って!? シャルルさんも、未来人……っ!?
「なんで、どうして!?」
「同じ質問をハドメにしたかったのですよ、同じ未来人として」
シャルルさん曰く、同じ未来人なら目的が同じかもしれないということ。だから互いに動いて干渉し合って、思い通りにいかないなら、手を組みましょうと提案しているわけだ。
「タイムパラドックスについても、相談しておきたかったですから」
「シャルルさんは、何年後から……?」
「具体的な年代は伏せますが、ハドメが大人になった後の時代、とだけ」
「――わたしよりも年下じゃないか!」
大人っぽいお姉さんみたいな態度でいるけど、わたしよりもぜんぜん子供だったっ!
頭をよしよしと撫でてくれちゃってまあ……っ! それが年上への態度か!
「ハジメさんに言われたら言い返せない一言ですね、ハドメ」
「はじめはいいの。あれは身内みたいなものだし」
そう言えば、気づけばタメ口だった気がする。まあ、毎日毎日、部屋をめちゃくちゃにされたらそりゃ遠慮もなくなるよね。最初こそ、お母さんの友達だから、敬語を使っていたけど……、
あれ、してたっけ? わたしがまだ小さかった頃だし、最初からタメ口だったかもしれない。
はじめって、敬語を使う相手じゃないんだよね。
「あなたも似たような大人になりそうですけど」
「失礼なことを言わないで。誰がはじめの二の舞かっ」
「いえ、訂正します、あなたも似たような大人になります」
「断定!?」
え、もしかして未来のシャルちゃんにわたし、なにかしてるの!?
まさか部屋に入り浸っていたりする!?
「……どうでしょうね」
「なんかごめん!」
目を逸らすシャルちゃん……。
だけど、シャルちゃんはその未来を阻止しようとしているわけではないらしい。
いや、まだ確実にそうだって決まったわけじゃないけど――、
「私の時代では、もうそれどころじゃない事態になっているんですよ」
現在から未来への変遷。
たとえば異能者の存在は、隠れる者から、集まる者へ変化し――そして、
「未来では、異能犯罪が主流になっています」
「異能犯罪……」
「透明人間、人体変化、遠隔操作、読心術――、それ以外にもたくさんありますね。
タイムスリップの異能も、確認されていないだけで、他にもいるかもしれません――」
わたしたちみたいに過去へ訪れている未来人が。
「大きな社会問題になっているんですよ、未来では――いえ、既に社会崩壊ですかね」
ディストピアに……、
でも、異能者にとっては、ユートピア……?
「異能者を取り締まることを目的に設立された部署に、私は所属しています」
言ってしまえば――ここから見れば、未来警察ですね、と。
「え、シャルちゃん、いくつなの……?」
「十四ですけどなにか?」
「……警察も人手不足?」
「まあ、充分とは言えないですね。そもそも人口が今よりも少ないですから……、未成年が社会人として働くことは珍しいことじゃありませんよ。もちろん、義務教育を受けながらではありますが……、そして異能者が人口の何割を占めているのか、分かっていません」
異能者は隠れているから、とシャルちゃん。
「万引き程度なら可愛いものですけど、異能の力を人殺しに使われると、警察程度じゃどうにもできないんですよ。異能者には異能者をぶつけることで対応できますが、追う者と逃げる者ではやはり分が悪いです。それに、警察は自分たちの情報を公開していますが、犯罪者は違います――私たちは対象の一切の情報を持たないまま、異能者に挑んでいるわけです」
勝てるわけがない、勝てたとしても三回やって一回程度……、
それじゃあ、どんどんと警察側が疲弊するだけだ。
しかも異能者は年々、増えていっている。異能犯罪が増えれば増えるほど、報道されればされるほど、異能を持つ者たちを触発してしまう。
自分のこの異能で生活を変えられる――と。
「そう思わせてしまう、政府の『国民放置』も問題ですけど」
「なにその新しいワード……」
「ハドメの時代に一度、収束していますが、私たちの時代に再流行したんですよ……世界を巻き込んだウイルス感染症が……それが、国民の生活を困窮させたんです。
二度目ならもっと上手くやれる、と思うかもしれませんけど、結局、人が動くわけです。
数十年前のやり方を真似ても、現在を改善できるとは限りませんよね」
状況は、やっぱり違うわけで。
政府が動ける余裕も、その都度、また変わってくるはず。
「政府の『国民放置』と、困窮による『生きたい、楽をしたい欲望』が、異能によって多少な無茶なことでも可能になってしまったんです。一人が動き出せばもう一人が、それが重なれば多くの異能者が犯罪に手を染めます――まるで、感染者数のように、爆発的に」
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