エピソード:3/末来さん、嫉妬

第10話 転校生・シャルル・ドリームカード

 先輩に相談に乗ってもらったものの……あんなのデタラメだっ、わたしを丸め込もうとしたってそうはいかないんだからっ。わたしの苛立ちは嫉妬だって……? え、誰が、誰に?


「そんなわけないもん……っ、わたしが、だってはじめなんかに……」


 どれだけ振り回されてこっちが迷惑を被っていると思っているの!? そりゃ、わたしの部屋に上がってくる度に、美味しいお菓子を最後にはくれるけどさ……、

 餌付けされてるわけじゃないけどっ、でもだからって、それだけでわたしがはじめを良く思っているって?


 あり得ないね! 

 はじめの周りに異能者がいなければ、すぐにでも部屋から叩き出しているんだから。


 それに、はじめに嫉妬していたら、わたしはだってはじめのことを――、


「いや、ないない」


 それだけは、絶対に。


 ―― ――


 翌日のこと、クラスに転校生がやってきた。

 ……ん? んんん!?


「初めまして、シャルル・ドリームカードと申します……、よろしくお願いしますね」


 金髪碧眼の、外人さん……、はじめの家で見かけた、あの美少女が……ッ。


「あっ、ござる、でしたか?」


「日本のことを勉強してきたの? 

 でも古いよぉ、シャルルさんの国と、文化はそう変わらないと思うよ?」


「そうそう、海外から色々と取り入れて今の日本があるんだしー」


 クラスの人は彼女のことをもう受け入れている様子だった……、わたしだけだ、転校生を警戒しているのは――。

 男の子は見惚れているし、女の子は興味が先行して質問攻めにしている。

 そしてその質問を全て受けて返しているのが、シャルル……さん。


「あ、シャル?」

「わお、ハジメさんと同じクラスでしたねっ、バンザイ!」


 クラス中の視線が一気にはじめに向いた。注目の的だった転校生は、今だけは一切、視線を向けられていない……、転校生よりも興味を引くって、どれだけクラスに溶け込んでいなかったの、はじめってば……。


「驚いてるようには見えないけど。ぼくのクラスが分かっててこのクラスにしたんじゃないの……? あ、でもそれは先生が決めることか――ぼくがいるからここにしたのかもね」


「ハジメさんのお母様から、手続きは全て済ませましたと聞かされていますね」


 お母様とお知り合い!? ほんと、どういう関係なのよ、この二人……。


「ねえねえ、シャルちゃんは古代とどういう関係なのー?」


 と、ちょうど聞いてくれた子がいた。自然と呼び名が愛称に加え、ちゃん付けに変わっているけど、転校生は指摘しなかった。そう呼べ、と自覚なく雰囲気が語っている……。


 うぐ、わたしも気を抜いたらシャルちゃん、と呼んで懐いてしまいそう……。


「私はハジメさんのメイドです」

『メイド!?!?』


「はい、家事手伝い、ご奉仕に、ハジメさんの人格矯正プログラムが、この私です」

「待て、一部については初耳だったぞ」


『古代っ、てめえッッ!!』


 男子が嫉妬に狂ってはじめに襲い掛かっている……この時代では珍しいようだけど、意外とわたしの時代では見れる光景なんだよね――はっ!? 

 じゃあこれって、あの最低な日常に近づいているってこと!?


「うわっ、どうしてぼくは男に押し倒されているわけ?」

『羨ましいんだよっっ!』


「あは、ハジメさんにお友達ができましたね!」

「これを友達とは言わない。まあぼくからすれば前進だけど――」


 はじめは男子に揉みくちゃにされていた。助けようにも、男の子の熱気で中に入れないし、入りたくない……、だから諦めた。ごめんねはじめ、自力で抜け出して。


「よろしくね、末来さん」


 わたしの後ろに席を用意し、転校生が座る……他に空席もないし、仕方ないけど……よりにもよって、どうしてわたしの後ろに?


「ハジメさんの後ろが良かったですけど、ほら、今はこんなですし」

「ああ、うん」


 一つの塊になっている男子たち。

 はじめはどこに……真ん中にいるのかな?


「これが武士――の、生態ですか」

「武士じゃないし。この時代はそこまで古くはないでしょ」


「そうなのですか。日本のこと、色々と調べていたのですけどね――」


 いつのことを調べたの? 江戸時代まで遡ったのかな。


「スマホがまだ大きいですね」

「日本のスマホの進化は海外と変わらないと思うよ」


 大きいって……小型化したら使いづらくなるだけなのでは……?

 わたしの時代だって、スマホはまだあるよ。


「それで末来さん」

「はどめでいいよ、みんなもそう呼んでるし」


「ではハドメさん――お返事はどうしました?」


 え。

 ぴりっとした空気が流れた。転校生が怒ってる……?

 そうじゃなかったとしても、ちょっと不機嫌だった。


「よろしく、と言いましたけど」

「あ……」


「お返事もできないのですか、日本人は」

「ご、ごめんなさい、シャルルさん……よろしく、お願いします」


「はいです。よくできましたね、偉い偉い。

 ふふ、ハドメ、可愛いですね、いじりたくなります」


 頭を撫でられ、えへへ、と顔が緩んでしまったわたしは、はっ!? と意識を取り戻す。


「同級生にこういうことをしないでっ!」

「照れたハドメをずっと見ていたいですね!」


「ですね! じゃないわ! ちょ、やめ、頭をよしよしするなぁ~~~~!!」


 な、なめられている……っ!?

 っ、ちょっと発育が良いからって、バカにして!!


 ぱしっ、と手をはたくと、「あら」とシャルルさんが驚く。

 手を口に添えて――いちいち上品だなあもう!

 メイドというか、あなたにメイドがいそうな気がするけど!?


「わたし、あなた、嫌い」

「お前がカタコトみたいになってどうする」

 

 塊から顔を出したはじめが言った――うるさいバカ!

 この苛立ちの原因は、はじめだって自覚あるのかな!?


「ハドメ、あなたこと、もっと知りたいです」


 シャルルさんがわたしの耳に口元を近づけ、


「あなた、異能者ですよね?」

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