第9話 心の糸口

 金髪外国人の美少女が、はじめと同居している……、そのことについて、あれから家に帰ってから、一晩寝ても、謎の腹立たしさは消えてなくなってはくれなかった……。


 はじめが誰と同居していようがわたしには関係ないし、はじめの家庭内のことだからそれにわたしが腹を立てるというのもおかしな話だ。


 はじめは一切、悪いことなんてしていない。

 分かってる……んだけど。


 外靴から上履きに履き替えた後、いつも通りに靴箱の蓋を閉める。

 強く閉めたつもりはなかったけど、ばんっ、と大きな音が鳴った。


 隣にいた女子生徒がびくっと驚いて、わたしを見る。


「……音、でしょ?」

「なんでもないですう!!」


 彼女はわたしを見て、足早に去っていってしまう。

 大きな音を立ててごめんなさいと謝ろうとしただけなのに……。


「あれ? 今日はご機嫌ななめ?」


 凸凹コンビの凹の方の小柄な少女が声をかけてきた。

 年齢詐称をしたわけではない、れっきとした同学年だ……、

 実際は、わたしよりも全然、年上なわけだけど。


「そう見える?」

「え、まさかわたしにムカついてるわけじゃないよね?」


「そんなわけないよ。わたしも、分かってないんだけどね……」

「ムカついててもいいんじゃない? そしたらこの子もおとなしくなるかもだし」


 凸凹コンビの凸の方が、遅れて登校してきた。


「あーたーまーに、手をっ、乗せるなー!!」

「おっと」


 両手を振り回すボコちゃんに、デコさんが落ち着いた様子で飛び退いて避ける。

 第一印象の時から、ボコ『ちゃん』で、デコ『さん』だとわたしは思っている。


「で、なんで怒ってるの??」

「はどめも分かっていないんだろう? 聞いても答えが出るわけないよ」


 わたしの一人相撲なのに、二人に心配をかけてしまったみたいだ。


「ありがと。でも大丈夫、自分で解決できると思うから」


 下駄箱から教室へ向かう途中、廊下から女生徒の歓声が聞こえてきた。



「すごーい! どうして私の悩みが分かったんですか、せんぱーい!」


 思わず視線が引き寄せられた。


「それはね、あたしがなんでも知っているからだよ」


 きゃーっ、という歓声があちこちから聞こえてくる。


 すらっとした細い体型の長身。赤茶色の髪を、後ろで結んでいる……、

 スカートではなくパンツを履いていて、制服ではなく私服のTシャツを着ていた。


「あの人……」


 卒業生、なのかな?


「あの人は三年生の阿多鴨あたかも先輩。スポーツ万能で男気があって、女子人気が凄いんだよ。あと、いつも相談事に乗ってくれるらしくて、それが的確なアドバイスだって噂なんだ。

 相談内容を言わなくても、表情や、仕草で言い当てられるらしいって」


「言い当てられるって、うそくさー。実は事前に裏で調べていたりして」


「だとしても、いつどこで誰に相談されるか分からないんだ。相談されるかもしれない生徒に絞ったって、相当な数がいるだろ。それを一人一人、調べてるって? もし本当に下調べをしているなら、言い当てるのと同じくらいに凄い努力をしていることになる」


 確かにそうなら、褒めるべきで、間違っても貶すべきではない。



「そっか。ねえ、はどめちゃん。あの先輩に、相談に乗ってもらえば?」


「相談……」

「うん、自分でも分からない苛立ち、解決してくれるかもよ?」

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