タルト・ドラゴンズ その3

「……うーん、どうしよっかなー」


 準備万端、オッケーの気持ちで家を出発しようとしたら、扉が開かなかった。

 がちゃがちゃとドアノブを捻るも、回るだけで、扉はがっちりと固定されたまま。


 仕方ないのでじゃあ窓から外に出ようとカギに手をかける。可愛らしい(自分で言っちゃった)指を伸ばすも、カギはダイヤモンドのように絶対に砕けない硬さになっていた。


 硬っ……。これ以上の力を入れたら、指の方がまともではなくなりそう。


 扉もダメ、窓もダメ。きょろきょろと部屋を見回すも、それ以外の脱出口はあるにしても、扉も窓もダメとなると当然、他の場所もダメだと思う。


 腕を組んでぐるぐる、その場で回ってみたけど、良い案は浮かびそうになかった。



「いきなりどうしたんだろ」


 わたしの家は、三本の木に挟まれるように建っている。挟まれ、支えられている。ちょっとやそっとの衝撃じゃあ、絶対に落下しない安定感。

 わたしを可愛がってくれている森林街の人たちが安く貸してくれているものだった。


 不具合……? 緊急事態とは言え、貸してもらっているものを壊すのは気が引けてしまうので、それはなしの方向で話を進めたい。

 わたしを閉じ込めるにしても、理由がないし。


 閉じ込める……? ――そうだよね、そうなんだよ。


 これって、いわゆる密室ってやつなんじゃないの?



 殺人事件がおこなわれたわけじゃなくて、だから犯人も探偵も助手も不在の、わたしだけしかいない一人相撲。寂しい。

 密室は密室でも、殺人事件じゃなくて、これは脱出ゲームなんだろう。


 別に、急ぎの用事でもないんだけど……、だから異変が収まるまでは、このままこの場で留まっていることもできる。

 だってわたしの家だし、生活はちゃんとできる。

 しばらくは外にいかなくても無事なくらいには、食糧の蓄えがある。


 それに、明日になってわたしが姿を現さなければ、心配してくれる友達もいる。

 この家の場所も知っているし、内側からダメなら、外側からなら開くかもしれない。


「一人じゃつまらないけど、仕方ない、よね――んん?」


 ぴょこんぴょこんと、部屋とキッチンが分けられたスライド式の扉の端から、赤いツインテールの片側がちらっと見えた。

 びくっ、としたと思ったら、ひょいっとツインテールが隠れてしまう。


「…………」


 ――あは。


 無意識に口元が緩んでいた。

 さっきまでの寂しくて落ち込んでいた気持ちが吹き飛んだ。


 勢いをつけてキッチンに飛び込み、扉の裏で息を潜めていた二人の少女を見つけた。


 赤毛のツインテールと、ショートボブの少女たち。


 見間違えるはずもないわたしの大事な双子の妹二人。


「つかまえたーっ!」


「わー! ぎゃー!」


 抱き着き、押し倒したツインテールが悲鳴を上げ、それを見下ろすショートボブ。


 ベリーとショコナ。


 二人が作った『条件下空間エゴイスタ』が、既に始まっていた。

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