第34話 復元と不機嫌【part/end2】
「――というわけで、だ。久しぶりだな、こうやって三人が集まるのは」
砂煙が舞う、荒野の中で。
出っ張った岩に腰かけ、弥、一、通が向き合っていた。
彼らのバックには、半壊している宇宙船がある。
「というわけで、じゃねえよ。お前がターミナルにしたこと、忘れちゃいねえだろうな?」
盾によるカウンターを受け、背中からくの字になるほどの衝撃を受けている。
未だに、ターミナルは目を覚まさない。三人の中で、一だけは岩に腰かけず、地面にあぐらをかいて座っている。その太ももに頭を乗せ、
気持ち良さそうに、むにゃむにゃ……という寝息まで立てている。
そんな様子を見てしまったら、彼も怒りが霧散してしまっていたのだが、しかしこのまま無かったことにされるのは納得がいかない。
説明する気がないのならば当然、追及をするだけだ。
「忘れちゃいねえよ、記憶喪失だから、を、理由にするつもりもねえ。……おれはその子を巻き込んじまった……悪かった、これで許されるとは、思ってねえよ」
「なら、一発だけ殴らせろ。それでこれ以上は、がまんをする努力をしてやる」
一発だけ殴ってがまんをする努力をする、ときたか。一にしては優しい選択だ。
今の一にしては。
昔であれば、泣き寝入りしていたはずだろう。
彼のために怒るのは、いつも弥と通の役目だった。
まったく両極端な性格だ、と通は肩をすくめた。
「…………やれよ。本当なら、一発じゃ足りねえんだろうけどな」
本当なら、当事者である彼女がするべきだが、目を覚まさないのならば仕方ない。
通なりのけじめだ。
「――なら遠慮なく。
だがな、お前の横にいるそいつをどかしてくれねえと、殴れねえんだがな」
通の腕にぴったりと張り付いている少女がいる。
「……ルルウォン、そろそろ離れてくれるかな? マーキングはしたはずだろ?」
「とおるを、傷つけるの?」
……地面に水滴が落ちる。
それが一の額から流れた汗だと、彼が自覚したのは彼女の目を見てからだった。
ルルウォン。
もしも彼女が攻撃の能力を持っていたらと考えたら……、ぞっとした。
盾の力だったからこそ、今、通に危害を加えようとした一の首が繋がっている。
「おいおい、目が据わってるぜ。しかも、お得意の八方美人が完全に消えたな。……今はまったくの逆だ……、まるで、通以外を威嚇するような雰囲気だ」
近づかせないようにしている、とも取れる。いや、そうなのだろう。
通の近くにいていいのはあたしだけ、と彼女は言葉なく宣言しているのだから。
「それ以上、近づけばころす。とおるを傷つけたらころす、話しかければころす、視界に入ればころす、あたしととおるの会話を邪魔したらころす」
「お前、やべえな」
ルルウォンから視線をはずし、通を見る一。
ルルウォンにくっつかれている彼自身もだいぶ引いていた。
彼女の急変には、さすがの一も同情をしてしまった。
一に見せた無表情とは変わって、
とおるを見上げたルルウォンの表情は、太陽のように明るい笑顔だった。
「とおる、だーいすきっ!」
「……ああ、うん、ありがとう」
笑ってくれよ、と言った通の言いつけを守っているのだ。
だからルルウォンは、通にしかその笑顔を見せようとはしなかった。
「……どうする?」
通が聞いた。
それは一に、このルルウォンを前にして殴るか? という問いである。
愚問だろう。
「やめとく」
結局、自分の憂さ晴らしであると気づいたからだ。彼女のため、とは言ったが、それを都合良く理由に使っているだけで、心の底では自分がただ暴れたいだけなのかもしれない。
その判断がつかなかったのだ。
だから、曖昧な動機で行動をするには、背負うリスクが大き過ぎる。間違いなくルルウォンは盾を展開するだろうし、言葉通りに殺しにかかってくるはずだ。
勝てないこともないだろうが、労力は多大である。正直、めんどうだ。
それに。
こんなところで仲間割れをしている場合でもなさそうである。
「やめとくが、ターミナルがお前を殴ると言ったら、ちゃんと受けろよ」
それはもちろん、と通が頷いた。
「で、記憶を取り戻したお前が、俺たちに説明するべきことがあるって、言ったが?」
「ああ、正直、おれには背負い切れねえ事情があってな。どうやら記憶を失っていた間の記憶も、今のおれにはあるわけで。そりゃそうなんだって話だけどな。
まるっと別人格になっていたわけじゃねえし、単に昔の記憶とさっきまでの記憶が横並びになっただけで、上書きされたわけじゃないんだからな――」
性格は、長い年月を重ねた記憶の方に影響される。
つまり、一と弥がよく知る通へ戻ったのだ。ルルウォンがこれまで接した通は、消えたわけではなく――押しの弱い通、と言った方が正しいだろう。
たぶん、遠慮がちな通が、あんな感じである。
あまり打ち解けていない通、そのままだ。
「細かいことはいい。本題へ入れ。なんとなく察してはいるが……時間もねえんだろ?」
茶化すなよ、と釘を刺す。
刺されて、その癖が直れば苦労はしない、と通は言葉を出す前に噛み砕いた。
そういう返しも、茶化していると言われるだろうと思ったのだ。
「その前にさ、あれはいいのか?」
「あん? ……ああ、知らねえよ。あれはあいつらの問題だろ」
視線は弥とプリムムに向けられた。
二人は背中を向け合い、距離を取っている。
どちらも、片方へ歩み寄ろうとしていなかった。
珍しい、とルルウォンならば思っただろう。
――弥のその態度に。
だが、一と通は口を揃えてこう言うはずだ、懐かしい、と。
元々、我を押し通し、決して引かない、自分優先の少年だったのだから。
少年と少女は、同時に呟いていた。
『絶対に謝るもんか』
―― ――
「じゃあ話すとしようか、この惑星が抱える事情を」
「まともに聞いてるの俺だけじゃねえか」
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