第30話 唯一の【コア編】
プリムムにはそう見えた。
……ならば、そんな能力ではなかったはずだ。
盾が出現して、すぐさまルルウォンを連想したが、思えばルルウォンだけが盾の能力者というわけでもない。アーマーズ全体を見て、攻撃特化の能力が目立つので、守りの能力は意外と忘れがちである。こういう能力のアーマーズがいても不思議ではない。
だが、カウンターを放つ盾の能力など、聞いたことがない。
実在していれば有名になっているはずなのだが……、
「この時のために隠していた?」
可能性はある。だが、低いだろう。能力のデータは先生側に網羅されている。データがあれば誰でも検索できてしまうのだから、隠すことは実質、不可能である。
誰にも検索させないようにしていた、であれば、先生側には伝わっていながらもアーマーズの中には広まっていないのも納得である。
「でもたぶん、違う……」
一時的に、先生側の目さえも欺ける方法がある。隠すのではなく、能力の持ち主でさえ自覚できていない場合のみに適応される方法が。それはもう、事故みたいなものだが。
意図的に隠そうとすれば全てが不可能になる。なら、意図的にしなければいい。
たとえばプリムムだって。
彼女のデータには、森を消し飛ばすほどの砲弾を放てる、という記載は、今のところないだろう。いや、それも時間の問題かもしれないが。
カウンターを浴びたターミナルが、反ったくの字のまま、一に全身を預けた。
髪を結んだ髪飾りが千切れ、まとまった黒髪が一斉に落ちる。
印象が変わるものだ。
子供っぽい雰囲気が消え、色気が出たような気がする。
肩に顎を乗せたことでターミナルの顔が近い。そして、全体重が一にのしかかる。
思っていたよりは、重い。
しかしそれは、彼女自身が受け持つはずの体重さえも、一にかかっていることを意味する。
彼女の意識はなくなっていた。
「……おい」
少女のがらっと変わった印象など、すぐに吹き飛び、解かれた緊張感も一瞬で元に戻る。
何度も呼びかけたが、ターミナルが目を覚ます気配はなかった。
「なんなんだよ、あの壁……ッ」
「あいつ……なんだ?」
弥が斜め上の方向へ視線をやり、そう呟いた。
その言葉に誘われ、プリムムと一も顔を上げる。
宇宙船がある場所は、荒野の中でも窪んだ位置にある。つまり、周りは高所が数多く存在していた。その中の一か所に、一人の人物が立っていたのだ。
その姿はまるで、プリムムを装備した弥のようだった。違いは全身が黄色であること。そして弥は剥き出しだったが、そこに立つ人物は、顔さえも隠されていた。
フルフェイスのヘルメット。
目の部分は黒く染まっており、中は見えない。
すると、彼? が、高所から飛び降りた。
プリムムの頭上の位置である。そこで彼が、盾を展開する。体の大きさの、薄っぺらい盾である。……ルルウォンから聞いたことがあったが、彼女の弱点は、盾を展開中は身動きがまったく取れないことである。
そして、大きさによって重さがあり、広ければ重く、狭ければ軽くなる。
引き延ばせば薄く、まとめれば厚くなる。
守れる範囲によって彼女にかかる負担が変わるのだ。なぜか、べらべらとそう語っていた。
検索できる以上、隠すことに意味はないが、それにしても――である。
……守ることしかできない、という印象をつけるため?
そんな考えを、ルルウォンがしているとは思えない。
あの脳天気な元気娘が、そんな、人を操るなんてこと、しそうにもないのだ。
だからルルウォンではないはずだ。そう信じたかっただけかもしれない。
絶対防御の壁は、攻撃にも転じるのだと、こうしていま証明された。
身動きが取れない、重さがある、というのも、
空中であれば真下に限り、鎧で突撃するようなものである。
直線の動きなので避けることは容易い。ただ、あの盾がもっと広がっていれば、重さも加算されるため速度は早く、包囲の距離も広くなる。
今の規模だからこそ、プリムムはすぐに避けることができたのだ。
荒野の地面に穴が開いた。
展開された盾と同じく、綺麗な長方形である。
穴の周囲にはひび割れの一つもない。
ごっそりとくり抜いたようであった。
淡々と、黄色いフルフェイスが、穴から出てくる。
穴とは言っても深さは腰程度である。
足を上げただけでつま先が地面につく。一つの挙動で彼が全員のすぐ近くに現れた。
一貫して、プリムムだけを見ている。
「なんで、私を……」
「赤いコアの、プリムムだな?」
言われ、彼女が指先で自分のコアを触れる。
……赤い、そして僅かに、熱を持っている――。
いま、気づいた。
「覚醒した、アーマーズの少女」
そして。
「この惑星を、救う者」
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