第25話 五大チームの一端
ジジイが言うには、この世界には【五大チーム】、というものが存在しているらしい。
俺たちアンラッキー・デイズを含め、五つのチーム……、
つまり、俺たちを除けば、四つのチームがあるわけで――。
中でもアンラッキー・デイズは『五大チーム』の新米、下っ端であり、最弱、ということになっている。まあ、最近できたばかりのチームなのだから仕方ないとも言える。
考えてみれば最近、作ったばかりのチームでもう五大チームの一端を担っていることを考えれば、すごいだろ。だが、癖が強いリーダー・【ハッピー】が率いるチームよりも、他のチームは当然、実力者なわけで。
だからキュリエが五大チームの一つ、【ダンスホール・ダイダロス】と連絡を取っていたということは、これからの展開の困難さを、出発前にもう既に感じてしまっているわけだが――、
「うわあ」
と声が出てしまう……嫌な声だった。
そして嫌な予想が立ってしまう……ログアウトしようかな。
「先輩、少年漫画みたいな展開なのに、わくわくしないんですか?」
「見ている分には好きだけど……めっちゃ盛り上がるし。だけど実際にこうして体験すると、大変そうだし困るし嫌だし……以外の感想が生まれてこないんだよなあ――」
「だめだめですね。主人公とは思えない発言ですよ。もしかしてそういう主人公らしくない主人公で開拓していこうと企んでいます? 海外ゲームのレーティングに引っ掛かるような」
「ブラックジョークを言うつもりはないんだけど」
うるさいぞ後輩。
あと、別にそういう主人公を確立させようとしているわけじゃない。
既に開拓されているはずだし。
どれだけ世界に主人公がいると思ってる。やり尽くされてるだろこの時代。なにをしても後手に回る。新しいことをしたところで、見ている側は起源を探して引っ張り出し、これのパクリだなんだと言ってくるのだ……本当に新しいものなんてそうそう作れないだろう。
絶対に――、とは言い切れないけど。
その隙間を見つけて生み出すのが、画面の向こうの人たちの
あらゆるパターンが既に出尽くしてしまっている……斬新なアイデアもなにかの変化球でしかない。先人が多過ぎると絶対に誰かの影響は受けているはずだし、じゃないとなにも作れない時代になってきてしまっている。
なにかとなにかを組み合わせてみた、なんてものでしかなく、それを新しいものであると錯覚させることはできるけれど……、しかし細部を見ていけば、結局、辿り着く場所は同じ――、伝説を真似しているだけになってしまう。
石の時代にいけば、なにをしても驚かれるのだろうなあ。
その分、越えるべきハードルも低いのが難点だけど。
だから俺のこのキャラ性だって、やり尽くされた流用なのだ――、
オリジナルはある。
俺はコピーでしかない。
「……モナンのキャラだってやり尽くされてるし――」
「そりゃそうでしょうよ、だって研究してますからね」
「実際に、本当にそうだとしても、そういうことは隠しておけよ!」
のれんを押すみたいに、ふわっと爆弾を投下してきたぞ!?
真似事だったの!? サンプルがあるの!?
そのキャラはオリジナルじゃなかったの!?
いや、気づいてはいたけどさ……、自然にやってしまう真似だっただけで、本人は意図していないもの、と思っていたけれど、なんだよ意識してたのかよ。それはそれでショックである。
しかしまあ、モナンのこの計算され尽くされている言動を考えれば、確かに、意識的に真似していても違和感はないし、そりゃそうだろうと思えることではあるが――。
……でもこの天然っぽいところが、この、寄ってくる後輩としてのやり方が、意識的にやっているものだと分かってしまったら。
これからのモナンの扱いが、ちょっと困る。
ちょっと、どころではないか――かなりだ。
「…………」
「先輩——」
モナンが、あー、と言いにくそうにしながら、
「今のなしで」
「無理だよ! 今の話と告白を聞いて、俺は寝ても忘れられないよ!
頭、記憶、脳の片隅に置いておく気、満々だっつの!」
今も頭の中心はそれである。
これは拭い切れないものだった。
拭えないのだ。肉ごと抉り取らないといけないレベルで、こびり付いている。
これを拭う、と言うのかは分からないけれど……、
俺の意識に浸食してきている――。
「それで、さっきの少女のことじゃが」
と、ジジイの声が耳に届く。
「っ!? ――いきなり本題を始めるなよ!!」
急だよ!
こっちにも一呼吸を入れる時間をくれ!
ふう、と呼吸を整え――、
ジジイが本題に入ってくれたのは、願ったり叶ったりだ。
このままジジイから話を聞き、詳細を知って、キュリエを探しに出る――そしてそのまま終盤まで持っていけばいいのだ……、それが俺たちに与えられた
キュリエを取り戻す、王道の展開である。
……ダンスホール・ダイダロス、だっけ? と戦うような展開があろうがなかろうが、進む道は恐らくはそっちだろう。王道展開……、少年漫画のような、わくわくする展開——、
しかし嫌いではないが、実際に自分でやるとなるとなあ……うーん。
俺、格好良いセリフなんて言えないけど。
恥ずかしいだろ……、痛い気がする。
自分で言うと考えたらね?
それに、痛いと言えば戦いである――戦いと言えば、痛みだ。ゲームの中とは言え、さすがに斬られたり叩かれたりしたら、そりゃ嫌だ。視覚的なトラウマはあるはずだろう。
好んで戦いたいわけがない、そこまで戦闘狂ではないのだ。
だからここはスパイみたいに。
――そう、キュリエが俺たちにしたみたいに、同じことを、あいつに返してやる。
戦わないことが、一番良い。
戦わずに勝つことこそが、格好良いはずだ。
「先輩っ、かっこいいですぅ」
と、モナン。
はっはっは、だろうだろう、と続けようと思ったが、しかし心を読まれていたことに気づいて、慣れていたはずなのにゾッとしてしまった。……怖っ。
ねえ、なんで読むのかな、心を。
お前のスキル、心を読めるわけ?
バグじゃん。
モナン、お前の存在が、もうバグの域にまで達してるよな。
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