――キュリエ・クエスト

第21話 二人の世界観

 建物の外へ出てみて――町の中。


 さて、キュリエを探すことになった俺たちだが、しかしあいつがどこにいったのか、なんて分かるはずもなく、あてもなにもない。

 ヒントもなく不親切だ。


 昔のゲームのようで……。


 自力だ。ヒントを含め、自力で探さないといけないし、せっかく見つけたヒントが正確かと聞かれたら、怪しい、としか答えようがないものばかりだ。

 ヒントから答えまで、何段階も上がらなければならない時もあるし――、


 愚痴になってるな……別にそういうゲームが嫌いなわけじゃない。


 良いところもあるのだ、嫌いになれるわけがない。だって親切過ぎるゲームは、それはそれでストレスはないが、同時にやりごたえがない、とも言えるし……、イージーとハードはどちらも楽しんでこそ味が分かるのだ。


 俺個人の主観の話である……ともかく、キュリエ探しの『ゲーム』と言ってしまうと軽く見られてしまうかもしれないが、そんなことはない。重いよ……重過ぎる重要なゲームが、昔のゲームのような理不尽な出来でないことを祈るばかりだ。


 時間がないのだ、簡単に見つかってくれよ。


 手がかり、ヒントから――答え、まで。



「モナン?」


 後ろからついてきているだろうと思っていたが、だが気配がなかった。振り向いてみれば、モナンはどこにもいなかった。

 俺の視界から、消えて……? いつの間に。いや、あいつが自力で、勝手に、俺から離れることなんて、あるのか? 

 人見知りで、俺の袖をぎゅっと握っていたやつだぞ? いや、でも、食人鬼を手懐けていたし、コミュニケーションはそれなりにあるのかもしれない……ゲームの中なら匿名であるし。


 あいつの人見知りが人間だけ、であれば、人外にはしない、のかもしれないな。


 とにかく、いなくなって放っておくことができる俺じゃない。この世界で、今に限れば俺の中の仲間は、唯一、モナンだけなのだ。

 頼れる存在は彼女だけ――情けないことに。

 だから勝手にいなくなってもらっては困るのだ。


 きょろきょろ、と首を動かし、モナンを探す。

 すれ違う女性プレイヤーに変な目で見られた……いや別に、可愛い子を物色しているわけじゃなくてね? 気持ち悪い、とでも言いたげな視線を向けるな、俺は食人鬼じゃないから。


 そういうことは直接的に言われない方がダメージがあるらしい……ぐさっときた。

 深く、突き刺さっている……。うう、ダメージだ。



「なにしてるんですか、先輩。そんな、心臓に手を当てたりなんかして」


「……お前が俺の真似して手を当てているところは心臓とは逆だぞ」


 はっとしたモナンが、


「……知ってますけどね」と、手に持つ缶ジュースを俺に差し出しながら言った。


 ……缶ジュースを買うために離れていたの? 言えよ、ちょっと声をかけるだけじゃないか。

 でもまあ、俺の分も買ってくれていたので、責めるのはなしにしよう。反省はしてもらいたいけどな。とりあえず、素なのか計算なのか、心臓のボケは放置しておこう。



「はあ、しかし……炭酸か……ほんと、現実みてえだ」

「すごいリアルですよね。さっきも一本飲みましたけど、ゲームの中って気がしなかったです」


 ああそうかい。言いながら炭酸飲料を飲む。手に持った時の缶の冷え方はキンキンではなかったが、温かくもなかった。常温に近い……だけど飲んでみたらキンキンである。


「――すげ」

「でしょう!? びっくりしますよね! いやーすごいですねえ、これ、現実よりも住み心地が良いんじゃないでしょうか」


「とか言ってさ、お前、こっちに永住する、とか言うなよ?」

「言いませんよ。まったく、言っても冗談です」


 実際、言ったとして、冗談に聞こえないのがモナンらしさだよな。

 こいつはマジで永住しそう。


 ゲームの中でも喉は渇くようで(ステータスには影響しないのかも。そういうステータスはないようだ)飲み始めたら止まらなくなった。

 缶ジュースを一気に飲み干す。ごくり、喉を通った液体が、食道を潤しながら胃へ流れていく。しゅわしゅわ感が全身を震え上がらせていて……、

 炭酸とはこんなに良いものだったのか、と凄さを再認識した。


 もっと、飲んでいたかったなあ。


「焦っても仕方ないですよ。そう思っての、炭酸です。

 飲んでみてどうです? 良い案でも思いつきそうですか?」


「いや、全然」

「ですよねー」


 期待していなかったようで、予想通り、とでも言いたげなモナンだった。

 ……なーんか、腹が立つ仕草だ。肩をすくめてウィンクをするな。


 お前の手の平の上で転がされるのだけは、理由はないが、嫌なんだよなあ。

 そんな失礼なことは言葉には出さず、心の中へしまっておく。

 加えて厳重に保管しておこうとしたらどうやら口からこぼれていたらしい。


 モナンは耳ざとく気づき、


「なんてことを!」


 と叫ぶ。


 俺に言われてもなんてことないだろうに……流せばいいだろ。

 まあ、これは俺とモナンの、いつものおふざけである。お互い、本気での言い合いだが、しかし本気ではない――、そんなアンバランスに見えるものでも、俺たちからすれば一本の柱のようにどっしりとしているものだった。


 信頼しているから。


 知り尽くしているから――だからこそ、交差する言葉だ。


 俺たちの、会話劇である。

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