第17話 歓迎会
「で、アキバを探す旅をしているわけか……トンマと、モナンでさ」
「おう、そういうことになるな」
まだ始まったばかりでなにも分からない――そんな初心者だけど。
だが関係ない。どんな手を使ってでも見つけ出す。
見つけ出さなければいけないのだ。
「あんまり気負うなよ」
「え?」
「緊張するなってこと。気を張っていると消耗も激しいしな。
落ち着いて、クールにさ。敵を見つけた時だけ熱くなればいい。
そういう感情のコントロールが、今のお前に必要なことだよ、トンマ」
「……そうだな、サンキュー」
ハッピーの言う通りだ。
俺は、焦っていた。
焦るべきなんだけど、でも焦ってばかりでは良い方向には転がらない。
だから、落ち着くべきなんだ。
落ち着いて、でも落ち着き過ぎないように。
冷静に、これがしっくりとくる精神状態……。
この状態を維持し、動くべきだ。
……それじゃあ、そろそろ出るべきだ。
いつまでもここにいても進展はしない。
手がかりは掴めない。
「予想はあるのか、アキバがいそうなところ」
「いや……」
さっぱりだった。
とりあえず出発地点として中央の都にはきたけれど、ここからどこへ向かって走ればいいのか、東西南北のどれを選べばいいのか、予想すら立てられない。
そんな俺の状況にハッピーが呆れて溜息一つ……、
「食人鬼かもな」
「は?」
「アタシたち【アンラッキー・デイズ】は食人鬼を狩ることを目的としているんだ。元々のゲームの目的だから当たり前なんだが……、周りのやつらがまったく食人鬼を狩ろうとしないから少し特殊に映っているみたいだけどな」
「それが、このチームの目的か……」
「目的と言うか、目的なく楽しく遊ぼうぜ、ってのがこのチームの目的だよ。好きなことを好きなだけやって、帰れる場所を提供している……それが、アタシが作ったチームだ」
「へえ……」
ハッピーは、仲間たちを見つめ、微笑している。
こいつのこんな表情は久しぶりに見たな……似合わない、なんて思わない。
ネタで言うことはあっても、本気で思うわけがない……だって、女の子だ。
ハッピーだって。
化物じゃない。それは、絶対に。
「だから!」
ハッピーの声には勢いがあった。
「食人鬼の全てを狩るために行動をしているわけだ。アタシらは、必然的に食人鬼の巣に、近々乗り込むことになる――、
そこでだ、もしかしたらそこに、アキバはいなくとも、手がかりが残されているかもしれない……。確証はないくせに危険だけがついて回るような感じだけどな――トンマはどう思う?」
「どうって――」
そんなの。
そんなこと、めちゃくちゃ、ありそうなことじゃねえか。
「はっ――ついていくよ、当然な」
「ん。じゃあまあ、あらためて歓迎するよ、トンマ。
ようこそ【アンラッキー・デイズ】へ」
―― ――
笑いながら握手を求めてくるハッピーを見て、肌の露出が多めな踊り子のような衣装を今更に意識し、……綺麗だな、と思ってしまった。
ハッピーにだけは勘付かれないように、心の揺れを最大限に抑えながら。
「そのチーム名はさ、誰が考えたんだ?」
「もちろんアタシだ」
「自虐すんなよ……」
目を逸らすことでしか抵抗ができなかった。
そんな中で、俺とハッピーは握手をした。
あの日のように。
俺たち二人が友達になった――、
本当の意味で友達になった――あの日のように。
―― ――
ゲームを始めて、スタート地点から中央の都まで移動——、そしていつの間にか、俺とモナンはハッピーが作り上げたチーム……【アンラッキー・デイズ】に加入することになっていた。
というわけで。
アンラッキー・デイズの、チーム専用の
チームメンバーが、大きな円卓の周りに座っている。
俺とモナンはその輪から剥がされていた。
今日に限っては、俺たちはメインらしい。
いや、ずっと主人公だけどな、俺。
ともかく、円卓から剥がされてはいるけど、全員の視線が突き刺さっている――まるでここが舞台上だとでも言いたげな『主要メンバーが利用する席』に座らされていた。
俺たち二人はそこで縮こまっていることしかできなかった。
ふっふっふ、と視線と共に不気味な声も聞こえてきている。
早く遊びたくて仕方がない、とでも言いたげな雰囲気だった……逃げたいなあ。
隣を見れば、モナンはがくがくぶるぶると体を震わせている。
「おい、大丈夫かよ」と聞いてみると、
「悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散」
なんて呟いていた。……怖っ。
好意的に俺たちを歓迎してくれていることには変わりない。なのにそんな人たちを相手にこの後輩は失礼過ぎる。
この状況だと、そこまで呟くお前の方が、俺からしたら悪霊に見えるけど……、
悪霊に憑かれた、のかもな。
悪霊退散、である。
両手を合わせて、ぱんっ、と叩いてみる。
それが良い合図になったのかもしれない。
「まあまあ、いじりたいって気持ちはすげえ分かるが、まずはお前ら、乾杯だ」
『おーっ!!』
「お前は俺をいじりたいだけだろ」
ハッピーのことだ、殴り倒したいくらい言いそうだな。
『かんぱーいっっ!』と声が揃い、手に持つジョッキがぶつかり合う。中の黄色い液体が大胆にこぼれるが、みな気にしていないようで……服についても床にこぼれても、完全に無視だった。
まあ、ゲームだし。
それを言い出したらこれを飲んでも意味はないわけで……、だからこれが酒だったとしても法には触れないわけか。胃には溜まらず味が分かるだけだ。まあ、ダイエットには良いのかもしれない。空腹感、満足感、味覚は刺激されるので、需要はありそうだ。
栄養が体にいかないだけで――、
いや、それだけだと言っているが、それだけでも致命傷だろう。
このままずっとゲームの世界にいたら。
現実世界では餓死してしまうじゃないか……。
ま、そこはプレイヤーの自己責任か。
それで死んでも望んだ通りでしょ? と言えるわけだし。
薄情、ではなく当然の判断だ――となると俺も自分自身の管理は自分でしなくてはならない……、そう言えばゲームを始める前、俺は飯を食ったっけ? あれ……? 今になって不安になってきたな。もしかして、食べていなかったっけ……?
朝食は胃に入れた、とは思うけど……それから先はまだ食べていない気がする……。
なら、そろそろゲームから出て食べた方が良いだろう……、餓死なんてダサいし、そんなことを気にする前に、まず死にたくないし。
しかし、なあ。
今ここで、「帰る」と、言える状況じゃないんだよなあ……。
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