――【アンラッキー・デイズ】をハッピーに。
第16話 情報共有/アキバの行方
「つーかさ、ハッピーはこのゲーム、いつからやってたんだよ」
「夏休みに入ってから、じゃねえのかなあ」
結構最近のことじゃないか……。
そんなプレイヤーがこの短期間で一つのチームを作り上げ、そしてここまで信頼される立ち位置になっていることに、驚きを隠せない。ハッピーは、そりゃあ良いやつだけど、俺も長い付き合いだ、分かっている――けど、だからこそ引っ掛かることがある。
見た目とそのキャラ性だ。
初対面ではきついだろう。
ハッピーが笑って話しかけてくれば、それはもう猛獣に目をつけられたのと変わらない。その鋭い目、邪悪な笑みで近寄ってくれば、大人でも子供のように逃げ出すはずだ。
本能的に。体が勝手に動くような――だ。
安全だと分かってしまえば、あとは簡単だ。どんなに暴力的なことをされても、言われても、まあいいかと納得できてしまう。初対面にはきついが、慣れてしまえば親しみしかない。
ハッピーには優しさがある。
こいつは身内に甘いからな。
だから難関としては、どれだけ心を打ち明けられるか、にある。
ハッピーは友好的だろう、だから問題は俺たちなのだ。危険を覚悟で、実際にはないと思うが、決めなければならない。噛まれても構わないから手を出してみよう……その覚悟。それがなければ、ハッピーとは仲良くなれないだろう――。
そこまで、ハッピーの場所まで上がれた者が、このチームの大半ってわけか。
なかなか、人望は厚いようで。
「アタシも、聞きたいことがあるんだよ」
「聞きたいこと?」
「お前こそ、なんでいるんだ? 別に文句はないけどさ……お前がどんなゲームをしようが関係ないし、お前がモナンと二人でプレイしていることに、文句はねえし……」
ありそうだった。
手に持っているビン(……回復アイテムだろうか?)が、ぱりんと割れた。
握力だけで……。
ハッピーは、「あ、悪いな」と謝った。回復アイテムを一つ、無駄にしてしまった。そう笑いながら仲間にも謝っている……、驚いた様子を見せない仲間たちの反応から察するに、しょっちゅうあることなのかもしれない。いつも通り――だったりしてな。
慣れ、か。
というかそれ、割れるんだな?
いちいちそこに突っ込むべきじゃないし、話が進まないので引っ掛かっている場合ではないのだけど、やっぱり一つ一つにきちんとリアクションをした方がいいと思うんだ。
流すべきじゃない。まあ、こっちの都合だけど――。
「……落ち着けって」
「落ち着いてる。これでもかってくらいに落ち着いてるし!」
「落ち着いてないから言ってんだ! お前、俺のことを殴る時と雰囲気が一緒なんだよ! 構えるなっ、拳を握るな開けよ! パーにしろ、パーにッ!!」
ハッピーが拳を開く。
よし!
そして――、また閉じた。
握って、力を込めた。
それが俺の顔面に迫ってくる。
「なんで!?」
俺は大げさに転ぶ。これくらいしないとハッピーの拳は避けられない。
回避行動の末、俺はざざー、と地面を滑る。ゲームの世界で良かったよ、実際にしていたら膝が擦り傷だらけだった……。
「やっぱり、トンマのことを殴っておかないと気が済まないな」
「もう病気だよ……」
「酷いことを言うよなあ」
「酷いことをしようとしているお前が言うな! ゲームの世界だからって殴ろうとするんじゃねえ! HPは減らないってことは知ってるけど、びっくりするだろ!?」
ちょっとは痛いし。
HPは減らずとも、鈍い痛みはあるわけで……、麻痺している感覚だった。
影響はなくとも、体験はダメージとして認識している……がまんするのが大変だ。
できればこんな思いはしたくない。
するとハッピーが両手を腰に当て、
「――じゃあ本題だ」
「いきなりだな、俺のことを殴ろうとしておいて!」
「トンマの目的は、なんなんだ?」
「スルーしやがったぞ! なんだこれ、扱いが雑じゃない?」
ハッピーめ……、もしかしてチームの前だから、格好つけようとしてる?
なにその友達の前では親へ強気でいこうとするポーズ。
中学生か。
「…………」
じっっ、と、ハッピーが俺を見ている。
ふうん、なるほど――さっさと話せ、と。
お前がコントロールするんじゃねえ……バランスをいじるな。
「ハッピーは自分勝手だから、ハッピー以上にぐいぐいいった方がいいのよ」
と、キュリエからのアドバイスである。
説明書を音読したような、感情がない声だった。
言われて、だがそんなことは知っている。何度も挑戦はしているのだが……、今の状況を見れば分かるだろ、できねえよ。
ハッピーよりもぐいぐい、だなんて、アキバくらいなものだろ。
……アキバ。
そうか、アキバのことを、ハッピーにも説明しなくちゃいけないのか。
となると、あまりキュリエには聞いてほしくはないプライベートなことだな。
だがあっちいっててくれ、とは言いづらいな……、どうするか――。
目で訴えてみると、ハッピーが、今回はふざけることなく俺の悩みを読み取ってくれたようで、素直に考えてくれた。
伝わったのか……あれだけで? まあともかく、
「ごめんキュリエ、少し話をするから、シルクとガッツのところに混ざっていてくれ。あと、モナンのことは、どう扱おうが文句はないから」
「……どう扱おうとも?」
「ああ、構わない」
キュリエの内容次第な気もするが、ハッピーは方針を変える気はないようだった。
まあ、俺も賛成だ。どう扱ってもいいだろう。
できるものなら。
できるものならしてもらおう。これを機会にモナンと仲良くなればいい……そんなことを考えた。……そして、ハッピー、である。俺と二人きりの空間。
話す。アキバのこと、今、俺がここにいる理由――、
問題点。解決策。
これから先の――未来。
予定など――とりあえずは。
そんなところから、話し始めた。
―― ――
「……そういうことか。なんだか、また厄介なことに巻き込まれてんだな」
「あ……そう言えばお前、学校は?」
「いってないよ。だって、今日は大事なイベントがあったし。アキバにもそうメッセージをしておいたけど……まあ、ならお前に連絡がいっていないのも納得だな」
「ゲームしたくても学校にはこいよ」
すぐ帰れるだろ。
地下研究所でやればいいのに。
すぐサボろうとするところ、まだ抜け切っていないらしいな……。
不良の過去が、まだ。
しかし、今はその内容に触れるべきではない。俺の口から語るほど、俺はハッピーのことを詳しく知っているわけではないのだ。知らないことの方が多い。彼女と関係することにはなった――ハッピーを今の状態まで引っ張り上げたのは、俺ではないのだ。
彼女自身——、
俺は、これと言って、なにかをしたわけではない。
だが、ハッピーはそんな俺のセリフを、そんなわけあるか、と切り捨てるが。
「そりゃそうなんだけどさ――学校の時間に、抜けられなかったんだ。あ、そう言えばさ」
「ん?」
「大変だよな、真っすぐに進むのって」
「え?」
「矛盾なく前に進むのって難しいなって……だって引き返せないわけじゃん?」
うん……うん?
さっぱりだったけれど……、なんだか次元が違う話をしていることはなんとなく分かった。
俺たちには分からないことだろう。
だけど、それを知っているハッピーって、なんなんだよ。
……マジ、なんなんだろうね、こいつは。
「そりゃあ難しいだろうな――そりゃあな」
「説明不足を後から回収しようとすると、やっぱり矛盾が見つかっちゃうわけじゃん? まあ本当はないようにするべきなんだけどさ、それでも出てきちゃうわけだ――矛盾ってのは。そういう時は見て見ぬフリをして、力づくで通るべきだと思うだろ?」
「もういいから、それ以上は喋るな」
なんだかちくちくきた。
分からないが、これ以上は言わせない方がいい、という警告である。
だからやめさせる――良い判断だ。
……だと思う。
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