第10話 チーム
「まあ……そうだな」
「ふうん、じゃあ、色々と知らなくちゃいけないことが多いけど、自分で調べたい? それともわたしが話してもいいの?」
ううん……、遊ぶためのゲーム気分なら、自分で探して見つけたいところだが、俺はアキバを探すという目的のためにこの世界にいる。なら、理解するのは早い方がいい。
「頼む」
「そう。じゃあまず、夜時間ね。この間は、食人鬼は大幅に強化されるわ。そうね――不意打ち以外は通用しないほどの堅さだし、攻撃力も防ぐことはほとんどできないくらい」
不意打ち、か。
なるほど、さっきのキュリエのような感じで攻撃すれば通用するわけか。
「夜時間って、十八時から朝の六時まで、とか?」
「いえ、大体だけど、十八時から二十四時。六時から十二時ね」
つまり昼時間は零時(二十四時)から六時、十二時から十八時ってわけか。
「夜時間だけど二回もあるのか……」
「夜時間が一回だけだとつまらないでしょう? だから二回にしている、とかじゃないの? わたしは製作者じゃないし、気持ちも分からないから、なんとも言えないけど」
「なるほどなあ……でさ、レベルがないけど、これってさ――」
「レベルなんてないわよ。それに、魔法もない。このゲームは武器と防具だけのゲームなの。戦闘は、武器の強さで決まる……だから長年プレイしているような強者を、強い武器さえあればあんたみたいな初心者でも簡単に倒せるってわけ。まあ、ゲームの目的が食人鬼を倒すことだから、プレイヤーキルは目的じゃないから関係ないんだけどね――」
すると、言いながらも、キュリエは複雑そうな顔をした。
「まあ関係ない、と言いながらも、このゲームで一番盛り上がっているのはプレイヤー同士の対戦なんだけどね」
「対戦?」
「うん、クエストを受けるのは、強い武器やお金を稼ぐため。お金を稼げば強い武器も手に入れることができるし、強化もできるからね。でもね、苦労して武器を強化しても、それ以上に食人鬼が強いのよ。強化した分、あっちも強化されてるのかって思うほどにね。
どうしたって勝てない――、ほんと、バグかと思っちゃうくらいにさ。そうなるとね、誰も食人鬼には挑まなくなるの……、結果、プレイヤー同士の対戦が流行することになった。
昼時間は夜時間に向けての準備になるんだけど、もうプレイヤーの中で夜時間なんてものはないものとして扱っているわ。夜時間でも中央の都にいけば、脅威なんて関係ないわけだし」
「みんな、目的を忘れている……?」
「忘れてるわけじゃないと思うけど。やる気がないだけ。クリアする気がないよ。誰も食人鬼を殺そうとはしない。でも、気持ちは分かるのよね。
だって食人鬼を倒してしまったら、今後、どうすればいいのか……ってね。その先にもまだまだ続きのシナリオはあると思うし、あるのが当然なんだけど……、思っていても現状維持で満足してしまっている。このゲームが始まった頃のような活気は、もうないのよ」
「あるのは、」
「あるのは対戦だけね。盛り上がりは最高潮、なんだけどね……人を痛めて楽しむゲーム――まあゲームだし、って言ってしまえば、大したことないけど。
でもね、こうしてゲームの中にリアリティを感じてしまうとね、そう思ってしまうのよ――人を傷つけることに熱中なんてしてていいのか、ってね」
歩きながらの会話は、長く続いていた。
森を抜けたら砂漠……これは中央の都へ向かっているらしい。
先は、まだ長い――。
そして話もまだ、まだ続く。
「キュリエはどうなんだ? 食人鬼を、倒そうとしているのか?」
「してるわよ、一応ね。でもやっぱり、対戦がメインになっているけど」
「ふうん」
「ふうん、って。なによ、相槌がテキトーなのが気になるけど――」
「いや、ちゃんと聞いてるよ。他にはさ、いないの? 食人鬼を狩っているメンバー」
「いるわよ、わたしが入っているチームがそうだし。ああ、一応、解説しておくとね、中央の都——通称【中央】では、チームが作れるの。二人から大人数までね。
そしてこのゲームには【チーム】と呼ばれる集団がかなりの数あって……その中でもトップで並んでいる五つのチームは、主に食人鬼狩りをメインとして活動しているわ」
そしてキュリエが、とん、と飛び、俺の少し前に着地した。
「わたしは『アンラッキー・デイズ』って、チームに所属しているの……きたければ案内するけど、どうする? 入ってみる?」
「それは――、辿り着いてから考えるよ。まずは、ここを突破しなくちゃいけないし」
「それもそっか……、でも、リーダーには連絡をしておくからね。
わたしとしては、お前をチームに入れることは歓迎なんだからな?」
「ありがたいけど、なんでそこまで?」
「なんでって……なんでだろうな? 久しぶりの初心者を見たから、かな? それとも、魅力を感じたのかもしれない……どうにもできない絶望をどうにかしちゃう気もするし……」
「??」
「なんでもないよ。人、一人を犠牲にして守ったんだ。
微かな希望だけどさ、賭けてみる価値はあるんじゃないかって思ったんだ」
「……全然、話が見えないんだけど……」
「いいよ、気にしないでいいから」
キュリエは笑顔で――でも、心の底からの笑みじゃないことは分かった。
作り笑いで、
無理をしているのが、バレバレだった。
でも、それには触れてはいけないんだろうと思ったから、まだなにも言わなかった。
「……ちなみにさ、そのリーダーは、どんな人なんだ?」
「えっとね――強くて美しい、女の人だよ」
「へえ……って、また女か。女のキャラクター、多過ぎないか?」
「良かったじゃんか、モテモテくん」
「基本、殴られたり、精神的なダメージを受けたりとしんどいけどな」
「ふうん、なんだかリーダーと合いそうな気がするな」
「……いいのかなあ。合わない方がいいんじゃないかなあ……」
ちなみに、その人の名前――プレイヤーネームは? と聞くと、
「リーダーの名前は、【ハッピー】だよ」
言って、キュリエが砂漠の道を、すたすたと先へいってしまう。
進みにくい足場なのになあ……これが初心者との違いか。
あっという間に、距離が開いた……俺の質問はもう届かない。
俺は立ち止まったまま、もう一度、キュリエの言葉を思い出す。
『ハッピー』……ねえ。
「すっげえ、聞いたことある名前なんだよなあ――」
聞いたことがあるだけだから、想像している人物とは関係ないかもしれない。
でも、そうだとしか思えなかった。
ここでまったくの別人が出てくるとは、どうしても思えなかったから。
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