第9話 覆面の正体
「ほれは、ふはなかっはな――せんせんひづかなかったよ」
「あれ!? 覆面をはずしてくれないかって指摘が無視されてる気がする!!」
目の前のヒーロー。
忍者の少女は、まったく覆面をはずそうとしてくれない。
装備アイテムだからはずせないのかもしれない……、それか、俺のことが嫌いだったりして。
後者ならかなりショックだけど……。
「ふむふむ――はるほど」
言いながら、少女が覆面を取ってくれる。
取れるのか……。
だったら最初からそうしてくれよ、と思うが、まああっちにも事情があったのだろう。
そう思って聞いてみると、
「その方が面白いかなって」
そんな理由だった。
面白いかな、って……。
展開を調整しなくていいから。
会話を弾ませなくてもいいし。
お前はゲストだろ……気を遣わなくていいの!
「それは、うんまあ、ありがとう、と言うべきところだけどね――それで君は?」
「わたし? わたしはほれ、【キュリエ】』――、
ああ、今からメッセージを送るからちょっと待ってて」
キュリエ、と名乗った少女が指を動かし、操作している……、声ではなくキーボードで入力している。そういう方法もあるのか、と納得していると、俺の目の前に一つのウィンドウが出てくる。『OK』のボタンを指で押し、次に出てきたのはキュリエからのメッセージだ。
『おい、感謝の気持ちはどうした?』
「…………」
そうっと、キュリエを見てみる……幼い顔立ちをしている、まあこれが実際の彼女の容姿なのかと言われたら分からないが、可愛らしい顔だった。
そんな彼女がにっこりと笑えば気持ちを持っていかれてもおかしくはないはずだが……だけど目が笑っていなかったので現実に引き戻される。
ゲームの世界だけど……本当に分かる。
目の奥が、笑っていないって。表面だけ、笑顔を貼り付けた表情でしかなかった。
感謝の気持ち、か。そうだ俺は、助けられたのだ……この少女に。
食人鬼に殺されそうになっているところを――救われた。
なのに、俺は……、
ツッコミばかりで、文句を言ったりして。
確かに、感謝の気持ちが足らなかった。
「まあ、俺が悪いな……でも笑顔で指をぱきぽき鳴らすのはどうかと思うけどね!?」
「あら、そうかしら?」
「口調が変わってるぅ!! そんなキャラじゃないだろあんたは――いやこの短時間だから分からないけどさ!! あんたもさ、もっとこう、優しくとかさ、言い方があるじゃん! 俺も悪いけどあんたも悪いんじゃ!?」
「ねえ、調子に乗ってるの? ねえ、ねえねえ?」
「いたっ、あたっ!? ぽかぽか殴ってくるな地味に痛い力加減だし!!」
実は中身、おっさんなんじゃねえの!?
「女の子に向かって失礼ね! わたしは現実でもこんな姿よ悪いか!!」
がんっ、と俺の額に、ぴったりと少女の拳が激突した。
痛みはある。だがそれは少しの痛みで終わるはず――だったのだけど、
HPが減っていた。
「うえ!? これ、プレイヤー同士でもダメージが通るのか!?」
「そりゃそうだよ、このゲーム、プレイヤー同士の殺し合いができるんだし」
「そうか……え、じゃあ俺は今、プレイヤーキルできるやつの隣にいるの?」
初っ端からこんな相手と出会うか普通……、運がねえ。
「わたし、そんなことしないタイプだけど……殺してやろうか? またスタート地点に戻してやろうか、ええおい?」
睨んでくる少女の、近づいてくる顔を手で押しのけながら、
「いや、悪かったよ。すんません、えーっと、遅れたけど、ありがとう――助かったよ」
「……おう、なんだよ急に。そんな、丁寧にお礼を言うなんてさ……」
「頼れるの、あなたしかいないんです。だから――助けてください」
「え、ちょっ、待って! そこまで面倒を見ることをわたしは想定していないけど!?」
「じゃあ、森を出ましょうか、キュリエさん」
「笑顔でさん付けは気持ち悪いからやめてくれるか!? ……はあ、まあ、分かったよ。救ったのはわたしだし、責任は持つ……夜時間だしな。
いけるところまで一緒にいくわ。それで構わないなら、ついてきなさい」
「ども」
「ノリが軽いわね……部活じゃないんだから」
「キュリエは何歳なんだ?」
「もう既にさん付けじゃないし。あと、女性に向かってその質問は禁句だよね?」
「だって中身、男かもしれないし」
「さっき女の子だって言ったよね!? 聞いてなかった? 意図した無視なわけ!?」
「あ、俺の名前は【トンマ】です。これ、フレンド登録? お願いします」
「話をどんどん切り替えないで! あとフレンドも――って何回も送ってくるな鬱陶しい! 一回で充分なのよ、伝わってるから、重くなるからフレンド登録申請をやめろぉ!!」
はぁ、はぁ、と息を荒くするキュリエ……、
あ、今回は俺がボケでもいいかもしれない。
これ、楽ができるかも……、こういう時間を待っていたのだ!
「……はい、これでフレンド登録しておいたからね」
疲れ切った顔で、キュリエが言った。
そして俺は、
「じゃあ、一緒にいきましょう――ずっと遠くまで」
「死んでも嫌よ、バカ」
―― ――
夜の森を歩きながら、二人。
「で、呼び捨てでいくわけ?」
「ダメなのか?」
「敬語でもないし……いいけどさあ」
見た目から判断すると、たぶん年下だと思う。
年上だったとしても、一つ上、くらいだと思うし……いいでしょタメ口で。
「……ねえ、なんであんたは少しずつ離れていくの? こっち、近づきなさいよ」
「だって、なんだか機嫌が悪そうに見えるし……大きな怒りの前の小さな優しさを散りばめている気もするからちょっと避難を――」
「離れていたら守れないでしょ、無駄なことを考えていないで早くこい」
離れていたいけど、離れ過ぎると急な食人鬼の襲撃に守ってもらえなくなる。だからキュリエに近づく必要があるわけで……、怒らないよな?
さっきから怒られてばかりだから、少し萎縮だ。
「なんだ、傍にいろってことか」
「……ねえ、わたしがあんたを気に入っている、みたいな言い方はやめて。単純に守りにくいからって言ったわよね?」
「一緒じゃん」
「一緒じゃないわ!!」
そんなやり取りをしながら、なんとか森を出る。
目の前は砂漠だった――。
え、出口って、こんなに近いの?
迷っていた俺、バカみたいじゃん……。
なんでこうも……真っ直ぐ進めば良かっただけなのに――、
「トンマって、このゲーム、初めてなのか?」
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