第3話 科学の姫の奪還
今頃、始業式の最中だろう……たぶん、俺がいるこの真上のあたりで、校長先生が長い話でもしているのだろう……、大体の生徒が聞き流しているだろうつまらない話だ。
校長先生も大変だ……ともかく。
校長は、だから今は役に立たないわけだ。
アキバの父親である校長は――。
これだけ探しても見つからないとなると、あの人に聞けば展開が進展するかもしれない、と思って一応、案の中には入れているが……、それを開始するためには最低でも始業式が終わるのを待たなければいけない。
その間にできることは……やはり、アキバの捜索か。
宿題どころではなくなったな。
アキバがいきそうなところ……近場、としか思えないが、胸騒ぎがする……。別に、買い物にいっているだけ、かもしれないけど、なぜだか、心臓が激しく鼓動しているのだ。
……嫌な想像ばかりだ。
「クソッ!」
焦りが俺の鼓動を加速させていく。
同時に、不安定にさせていく。
足が早まる。なにかをしていないと壊れてしまいそうだから――。
落ち着いてなんていられない。だから走り回った。
そして、アキバを探して、数十分……汗だくの俺は一人きりだ。
アキバは、校内を探してもやっぱりいなくて。
熱いはずなのに、俺は寒気を感じていた。
「……アキバが、いない……?」
気づくのが遅かった。
……違うな。
分かっていた。
認めることが、遅かったのだ。
遅過ぎたのだ。
―― ――
こんこん、と扉がノックされた。
俺はどうぞ、とも言っていないけど、扉が勝手に開く。
ノックした張本人が扉を開けたのだ。
一歩、部屋に踏み込み、その時にやっと、俺は相手へ視線を向けた。
ソファにぐったりと座りながら、
疲れ切った顔を、俺はしていたのだろう。
「やあ、少し痩せたかな、トンマ君?」
「うわ、もうそんな時間になっていたのか……」
俺は慌てて……しかし見えている姿はかなり緩慢だろう……、俺は相手と対面する。
校長先生。
アキバの父親と、だ。
「随分とまあ、探してくれたそうだね、娘のことを」
「……見ていた、んですか?」
「いいや、ただの予想だけどね。あの子がいないこの状況で君がどんな行動を取るかくらい、分かっているさ。その上で、ぐったりとしているなら、努力の結果だろう……、まあ満足な結果こそ得られなかったみたいだけど」
校長は笑みを見せたままだった。
なにがおかしい――娘が、アキバがいないんだぞ?
「それで……なにか知っている……そうですよね?」
「知ってはいない。予想はついているけどね」
俺は目を見開いた。
希望——、微かだけど、それが見えた。
「――予想がついているなら、すぐに見つけてくださいよ!」
わざわざ俺に知らせる前に、あんたが連れ戻せばいいじゃないか――それができる権力と、経済力を持っているはずだ……。
あんたは、大抵のことができるはずだろう!?
「大抵なことなら、ね――それが答えだろう?」
……つまり、まだ子供である俺の方が適任である、ということか?
期待、されている?
でも、今の俺に、期待をされても……。
今だけは、まだ力が入らない。
「君は、娘を助けたいはずだ」
当たり前だ。
強く、俺の心を刺激してくる、校長の言葉……。
俺の返事も待たずに、彼は続けた。
「塔に閉じ込められている姫様のようにさ――囚われている娘を、助けたいはずだ」
嘘とは言わせない。
違うとは言わせない――そんな強い視線だった。
父親としての瞳が、口よりも語っている。
「私が助けることは、簡単なことではないが、時間をかければできるだろう――大人なのだから。これまで稼いできた金と集めた人材を使えば、最終的には取り戻すことができるはずだ。
けれど、待っていられるかい? 君に。
娘を大切に想う君に、飛び出さずに待っていろと言って待っていられるかい?」
私の制止の声など聞かないだろう、と、言い当てられていた。
「…………」
「そうなる前に手を打っておくべきだ、と思ってね。だからこれは、私から君への依頼だ」
「依頼……」
「娘を、助けてくれ」
校長が、いや、父親が、頭を下げた。
子供の俺に、深く、深く――。
「頼まれなくてもやっていましたけど。……分かっていたはずでしょう、あなたなら」
「これは形式上さ。私は君へのアシストを惜しまない」
「いいんですか? 自分の都合で一人の子供に色々と支援をしてしまっても」
「娘のためだ。この立場を捨てる覚悟だってあるさ」
目が本気だった……そこまでは――しないという選択肢はないな。
言ったならやるだろう、この人はそういう人だ。
今更だが、アキバがいなくなったこの事件は、冗談なんかじゃなかった。
ここまで父親を本気にさせているのだ……そうまでさせる敵がいる。
それは、どこのどいつなんだ?
俺へ向く危険は?
そんなもの、考える必要がないものだった。
「危険はあるだろうし、分かったところでどうしようもないしな……」
それを理由に引き下がることはない。
「大丈夫だ、トンマ君。——突き進め。そのために私たちが道を確保する」
にっ、と、俺は自然と笑っていた。
「それで、アキバがどこにいったのか、分かっているんですか?」
「確信はないが……しかし可能性は高いな。情報元は娘が直前にプレイしていたゲーム画面からだ。画面を点けたままだったのでな――、私でも見ることができた」
「ゲーム画面?」
「知っているかな? 『ステルス・ヴァンプ・オンライン』というゲームらしくてね――」
「……どこかの国で流行っているとか言ってたような……?」
「そう、それのことだ」
校長が嬉しそうに言った。どうやら俺が知っていたことが嬉しかったようだ。とは言え、知っているとは言ったが、名前だけだ。内容なんて知らないし、さすがにどういうゲームなのか、くらいは分かってはいるけど、それくらいだ。それしかない。
家族が見ているからなんとなく一緒に見ていたら、いつの間にか把握していたアイドルグループの知識……、そんな程度のものでしかない。
それでも、校長からすれば充分と言えるくらいには嬉しかったらしい。
いや、バンザイされても。
ハイタッチを求められても……。
俺は無視して続ける――。
「そのゲームは、確か……」
「そう、最新技術、『ゲームの中に入れる』――最先端のそれだ」
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