第35話 納得するグロテスク
放課後。
二つの授業を挟んだ後、再び同じ空き教室に戻ってきた三馬鹿。
中には既に、十三人が揃っていた。
……早い。ホームルームが終わり、すぐにきていたのだろうか。
円になるように椅子を並べて座っている中の一人が、陸に駆け寄ってくる。
「――陸さん、これを!」
「……おお、サンキューな、ローター」
はい! と元気良く、ローターが返事をする。敬意を払っているからこその名前呼びなのだろうけど、なんのためのコードネームだ、と思ってしまう。
「で、これは?」
「仮面になります」
仮面。こうして十三人に顔を知られている今となっては、覆面だろうと仮面だろうといらないのだが。しかし、外に出るとなると、正体をばれないようにするため、仮面は必要かもしれない。顔を隠さなければいけない状況になることを、まず防ぐつもりだったが。
仮面を被り、廊下を歩いていたら、それこそ目立つ。
怪し過ぎるだろ。
「仮面はいいんだけどさ……なんでカエル?」
「ふふん、王様ですから」
上手いことを言ったつもりだろうが、別にそうでもないぞ。
陸は思ったが、言わなかった。
慕ってくれている後輩のおもてなしに、水を差すものではない。
「本当は覆面が良かったなあ……」
「でもこれ、蒸れますよ? 中は灼熱です」
まあ、穴が両目しか開いていない。口元が凹んだり膨らんだりしている。口から出した息が全て、自分に返ってきているのだ……そして、中で充満している。
これはこれで、確かに遠慮したかった。
「苦労してるんだな、お前らも」
伝統ならまだしも、別にそういうわけでもないなら、布製の覆面でなくてもいいのでは?
言ったら、全員が首を左右に振るので、なにかこだわりでもあるのだろう。
まあ、ろくなことではないと思うが。
「ん? 達海のはなんなんだ?」
「さあ? 見た目的に、戦隊ものの、ヒーローの仮面だな」
ラインナップがどうして縁日のお祭りなのだ。
おい待て、これ、誰かが一回、使用したものなのではないだろうか? わざわざ新品を買ってくるような時間もないし、あらかじめ用意しているわけもない……、
いや、三馬鹿を崇拝しているのなら、用意していたとしてもおかしくはないのか?
「安心してください。それは全部、使用していません」
「おう。俺の家の、押入れにあったもんを持ってきた。縁日で貰ったんだが、もうそんな子供じゃないからって、恥ずかしくて被っていないんだ。
だから未使用。安心して被ってもらっていいぜ」
ニーハイとオールマイトがそう言った。一度も被っていないというところには安心だが、押入れにしまってあった、というのが気になる。
お前の家の押し入れを見なくちゃ、本当の意味で安心ができないのだが……。
「ったく、そんな神経質になるなって、お前ら。
もしかしたらオールマイトの妹が、隠れて被っていたかもしれねえだろ?」
「あ、俺、妹いないんで」
「言うな! 夢を見させろよ!」
天也の心理的な抵抗は虚しく、粉砕された。
さすがにそんな予想は思いつかなかった。
同じ三馬鹿でも、さすが、と思う陸だった。
「でも、天也の仮面……、もしもオールマイトに妹がいたとして、絶対に被らねえよな」
「それも言うな! おれだって、最初に気づいてたんだよ!」
天也の仮面はゾンビだった。キャラではなく、リアル寄りの方だ。
色配置に黒と赤が多い。縁日のお祭りで被っていたら、すれ違う度に子供が泣くと思うが。
だから売り場のおじさんは、売れ残ったそれをくれたのかもしれない。
「文句があるなら素顔のままでもいいですよ、『グロテスク』」
天也に向かってニーハイがそう呼んだ。
グロテスク。昼休みの後、一人で交渉にでもいったのだろうか?
天也のコードネームが、『天也』から『グロテスク』に変わっていた。
由来がまったく分からない。
「異常性癖から名付けていますね」
「「なるほどな」」
陸と達海が頷く。
これ以上に納得できる理由はなかった。
「自覚があるから文句は言わねえがよぉ……言い方ってもんがあるんじゃねえのか?」
「それでは、こうして全員が揃ったことですし、始めましょうか――」
いつも通りのスルーに、当人である天也までもが順応している。
慣れが、異常を背景のように、薄めてしまっていた。
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